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尊みノートと額キスの誤解

夜も更けたアーバートン邸。

自室の机の上には、煌びやかなペンと分厚いノート。

その表紙には、金の文字でこう刻まれている。


 ――《尊み記録帳 第37冊目》。


「ふふふ……今日も実りある一日でしたわね……っ!」


ロゼリスは頬を紅潮させ、ノートをぱらぱらとめくる。

ページの端にはハートマーク、花びらの押し絵、そして大量の“尊”の文字。


「シルビア殿下がルチア様の手を取って……

そして、月明かりの下で誓いのキスを……っ!

尊い……尊すぎて呼吸が止まりそうですわ……!」


ペン先が止まることを知らず、勢いよく記されていく。

“ルチア様の頬が桜色!!”

“シルビア殿下の微笑みが聖人レベル!!”

“尊死案件・危険度:SSS級!!”


そんな尊み報告会の最中――ふと、ロゼリスは手を止めた。


(……そういえば)


頭に浮かんだのは、あの月夜の庭。

アーロン殿下の真剣な瞳。そして、不意に落とされた額へのキス。


「……もうっ! あの方は一体なにを考えていらっしゃるのかしらっ!!」


ペンをぶんぶん振りながら、ロゼリスは唇を尖らせた。


「額にキスなんて……あれは、一体どういう意味なのかしら……?」


(まさかアーロン殿下が私に好意を……? そんなわけありませんわ。

だって原作ゲームでは、あの方が私に婚約破棄を宣言して――最終的には殺しに来るのですもの。

天地がひっくり返っても、そんな未来はあり得ませんわ!)



真剣に考え込み、頬に指を当てる。

しばらく沈黙――そして、はっと閃いたように目を見開いた。


「……! わ、分かりましたわっ!!」


机をばんっと叩く。


「きっとあれは、“友情の証”ですわね!!!」


勢いよく立ち上がり、尊みノートの端に書き込む。


《アーロン殿下:友情キス。おそらく信頼の表現。

つまり、私は殿下に“友達認定”されましたのね!!》


「ふふっ、嬉しいですわ……。

殿下と友人としての新たな関係、光栄に思います!」


満足げに微笑み、うっとりと頬を押さえるロゼリス。呑気に断言して、再び尊みノートにペンを走らせるロゼリス。

その筆跡の裏で、アーロンの想いはひっそりと届かないまま。



翌朝。


舞踏会で配られた薔薇の話題が学院を賑わせていた。

赤と白の薔薇を交換できなかった者は、恋愛点を大幅に失う――

つまり“落第”扱いである。


ロゼリスはその話を聞き、紅茶を吹き出した。


「えっ!? そ、そんなシステムありましたの!?

わ、わたくし交換しておりませんでしたわよ!?!?」


隣で静かに紅茶を注ぐキースが、控えめに微笑む。


「ご安心くださいませ、ロゼリス様。

 昨夜、私の赤薔薇と、ロゼリス様の白薔薇を交換いたしましたので」


「……えっ?」


「ですから、恋愛点の減点はございません」


「……さ、さすがキースですわぁぁぁぁ!!!」


ロゼリスは涙ぐみながらキースの手を握る。


「尊い行動ですわっ! 執事の鏡ですっ!!」


「恐れ入ります」


穏やかに微笑むキース。

その視線の奥には――ほんのわずかな寂しさがあった。


***


その夜、アーロンは一人、学院の寮のバルコニーで月を見上げていた。

ふと、指先に触れたのは、彼がロゼリスに渡せなかった赤薔薇。


「……結局、渡せずに終わったな…」


くくっと笑い、彼は薔薇の花弁を指で弄んだ。


「けど――ちょこっとの恋心を俺しか見えないほど魅了させてやる」


月光が、彼のルビーの瞳を静かに照らしていた。


次話から、Aaron side storyを数話挟みます!

アーロンがロゼリスを好きになったきっかけやロゼリスに振り向いてもらうために不器用ながらも頑張る姿を見ていただけたら、嬉しいです!

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