恋愛実技試験で、全力を懸けて推しカプを守る!!
音楽が優雅に流れ、カップルたちが華やかに踊る。
煌びやかなシャンデリアの下、笑顔と薔薇が咲き乱れる中――
ただひとり、ケーキ皿とオペラグラスを持った令嬢がいた。
(ふふふ……今日もルチア様とシルビア殿下は完璧ですわ……っ。
美の暴力……尊みの嵐……っ!)
ロゼリス・アーバートン。
誰もが一目を置く“紅の令嬢”は、今夜も推し活に全力である。
頬を染め、ハンカチを握りしめながらオペラグラスを構えるその姿は、
もはや令嬢ではなく尊みを観測する学者であった。
…が、その瞬間。
「……アーロン殿下が、ルチア様に……ダンスを……申し込んだ!?」
フォークが宙を舞い、ケーキがふわっと飛ぶ。
(なななななっ、なにをしてますのアーロン殿下ーーーっ!?!?)
視線の先、アーロンがルチアへと手を差し出していた。
その表情は余裕に満ち、まるで「見ろよ、俺を」と言わんばかり。
(ま、待ってくださいまし!? ルチア様はシルビア殿下の隣が定位置!!
これは尊き関係のバランスを崩す禁断行為ですわっ!!)
脳内アラームが鳴り響く。
“推し保護警報・発令”。
「止めなければ……っ!」
次の瞬間、ロゼリスはドレスの裾をつまみ上げ――
スカートをなびかせ、全速力で走った。
「紅の暴風だわ!」「アーバートン嬢が動いたぞ!」
ざわめく生徒たち。学院では密かに彼女をそう呼ぶ者もいた。
ルチアとアーロンの間へ――
ロゼリスは、まるで風のように滑り込む。
「ルチア様っ! あちらでシルビア殿下がお呼びでしたわっ!」
「えっ、あ……はいっ!?」
ルチアの腕を押し出し、優雅に送り出すロゼリス。
残されたアーロンは、ぽかんと固まる。
「お、お前……今、なにして――」
「アーロン殿下こそ、なにをなさっていたんですの!?
推し尊関係の崩壊を招く行為など、断じて許されませんわ!!」
「はあ!?」
混乱する殿下を前に、ロゼリスは息を整えて微笑む。
「……ですが、折角ですし。
もしよろしければ――私と踊ってくださいます?」
「……は?」
アーロンの脳が、固まる。
(今、“私と踊って”って言ったか……?)
「ルチア様の代わりに、責任をもってお相手いたしますわ。
――さ、手を。」
差し出されたロゼリスの白い手。
アーロンは、少しの間をおいて、その手を取った。
「……はぁ。お前ってやつは、ほんっとに手のかかる女だな」
そう言いながらも、アーロンの耳はほんのり赤い。
音楽が再び流れ、二人はダンスフロアの中央へ。
―初めての、正式な“二人のダンス”。
⸻
「……そんなに緊張することか?」
「こ、恋愛実技試験ですもの! 手汗の採点とかありそうで……っ!」
「……は?」
「恋愛偏差値に影響しますわ!!」
アーロンは思わず吹き出した。
けれど、その笑みにはほんの少しの温かさが混じっていた。
ダンスが進むにつれ、彼女の赤髪が光を反射し、
まるで一輪の薔薇のように揺れる。
(……目が離せねぇな)
音楽が止み、観客が拍手を送る中――
アーロンはロゼリスの手を離さずに、低く囁いた。
「……次の曲も、お前以外とは踊らねぇからな」
「えっ?」
「文句あるか、“俺の婚約者”」
にやりと笑うアーロン。
ロゼリスは顔を真っ赤にして、頭の中が真っ白になった。
(な、なんですの!? これ、恋愛実技の応用問題!?!?)
⸻
3、4曲をアーロン殿下と踊り終えたロゼリスは、
ようやくスイーツテーブルへと戻り、キースが差し出したドリンクを受け取る。
「お疲れ様でございます、お嬢様」
「ありがとう、キース。……甘いものが、命の源ですわ……」
そんな彼女のもとへ、アーロンが険しい顔で近づく。
その時――キースが静かに口を開いた。
「ロゼリス様は、自分を大切にしてくださる方にしか、心を開かれません」
「……お前、何が言いたい」
「殿下は、いつになったらそれを“示す”のですか?」
その一言を残し、キースは深く一礼して去る。
残されたアーロンの胸には、妙な痛みが残った。
(……くそっ。何なんだ、あの執事)
彼がグラスを握りしめたその背後で――
「キース! このケーキ、おかわりしてもよろしくて!?」
ロゼリスが満面の笑みで皿を掲げていた。
「……ほんっと、手のかかる女だな」
苦笑しながらも、アーロンは目を離せなかった。
その笑顔が、どうしようもなく眩しかったから。




