転けて覚醒。そして、婚約破棄を申し込みます!
――痛っっったぁぁぁぁ!!?!?!?!?
頭の中で鐘が鳴った。いや、鐘どころか鐘楼ごと崩れ落ちた。
床に散らばる書類、こぼれた紅茶、そして見事に転がるわたくし、ロゼリス・アーバートン。
「……いったぁ……何事ですの……」
目を開けた瞬間、脳裏に流れ込んできたのは、見覚えのない――いや、見覚えありすぎる映像だった。
画面の中で泣きながら王子に縋る、赤髪の令嬢。
その名は――ロゼリス・アーバートン。
「……えっ、えっ、えっ!? これ、『運命と君と』じゃない!? え!? 私、ロゼリス!? 悪役令嬢の!?」
叫んだ瞬間、部屋にいた侍女がビクリと震える。
「お、お嬢様!? 頭でもお打ちになりましたか!?」
「えぇ、打ちましたわ。強烈に!!!」
そう。私は前世で乙女ゲームオタクとして生き、イベント特典のアクリルスタンドを抱いて眠るほど「ルチア×シルビア」に命を懸けていた。
そして今、その恋路を妨げて殺される悪役令嬢ロゼリスに――転生してしまっている。
よりによって、推しをいじめる悪役側。
そして三年後には婚約者アーロンに婚約破棄され、処刑。
「そんなバッドエンド、願い下げですわ!!」
ベッドの上で勢いよく立ち上がる。
侍女が悲鳴をあげるが、構っていられない。
私の頭の中では、もう対策会議が始まっていた。
まず第一に――アーロンとの婚約を早めに破棄する!
これさえ回避できれば、原作ルートから脱出できるはず。
何より、推しカプの恋路を邪魔せずに済む。
「そうですわ……推しの尊い恋を邪魔するなんて、オタク失格ですもの!」
そう、推しこそすべて。推しは酸素。推しカプは人類の至宝。
私の使命は、彼らを見守り、支え、壁になること――!
そして運命の日は、すぐにやってきた。
学院入学を目前に控えた春の舞踏会。
王族も貴族も集う煌びやかな会場。
そしてそこには、私の婚約者――第二王子アーロン・ジークスの姿があった。
金の髪、整った顔立ち、どこまでも傲慢な笑み。
「俺様系王子」の代表格。
前世では画面越しに見て「こいつ推しカプの邪魔すんな!!」と罵倒していたお方。
――でも今は違う。
この人とは、平和的に別れなければならない。
そう、これも推しのため、そして私の命のため!
(よし……やるしかないわ……!)
高鳴る心臓を押さえながら、私は彼の前へと歩み出た。
音楽が止み、周囲の貴族たちの視線が集まる。
完璧な笑みを浮かべながら、私は告げた。
「アーロン殿下。お願いがございますの」
彼は余裕の笑みを浮かべる。
「なんだ? また愛の言葉でも聞かせてくれるのか?」
ーその瞬間、私は深呼吸して、言い放った。
「どうか、婚約を破棄してくださいませ!!」
静寂。
会場が時を止めたように静まり返る。
アーロンの眉がぴくりと動く。
「……は?」
「婚約破棄、ですわ。理由は、あの、いろいろございますけれど……要するに、殿下とはもう“そういう関係”でいたくありませんの!」
周囲の令嬢たちが「キャー!」と悲鳴を上げる。
アーロンは完全にフリーズ。
そして次の瞬間、信じられないというように目を細めた。
「……お前、俺を……振ったのか?」
「ええ、そうですわ。清々しい気持ちです!」
そう言い切った瞬間、私はスカートを翻し、優雅に会場を後にした。
これで私は自由!これで未来は変わる!
背後から、アーロンの低い声が響いた。
「……面白い。ロゼリス・アーバートン、俺を振った女……か」
何かを決意するような声音。
けれど私は、振り返らない。
(これでいいんですわ!推し活への第一歩ですもの!)
まさかこの時――この一言が、彼の恋心に火をつけるとは、その時の私は知る由もなかった。




