ある先輩の想い出
これ単体で、短編として作品にしようとしてた話です
僕と田代さんの、飲み屋での会話をお楽しみください
お疲れ様です。まあ、1杯いきましょう。
いやあ、今回のプロジェクトも何とかなってよかったですねえ。
一時はどうなる事かと思いましたよ、マジで。
あそこであのバグの原因を突き止められなかったらと思うと、今でも冷や汗が流れますよ(笑)
田代さんは、この会社長いんですよね?
どうですか、転職考えたことないんですか?
あー、やっぱりありますよね(笑)
あとは、勇気だけですか。
僕もこの前転職してきたばっかじゃないですか?
そりゃ最初は勇気要りましたよ、当たり前ですよね。
でも、2回3回とかなってくると、慣れてきちゃうもんですよ(笑)
え?
以前の会社の話ですか?
あんま、面白いもんじゃないですよ
でも、聞きたいんですか?
そんなに言われちゃあなあ(笑)
そうですねえ、最初に入社した会社に、変わったSEさんが居たんですよ。
なんて言うんですかね、目立たないんです。
あ、違う意味では目立ってましたかね。
えーとですね、主役級のプロジェクトとかは、担当させてもらってないんです。
なんか、いつも自信なさげなんで、誰も安心して任せられない、って感じでした。
そう、いつも、なんか周囲の人に謝ってる印象がありましたねえ。
何言われても、とりあえず謝っとけ、みたいな感じでもないんですけどね。
それで、あるプロジェクトを同期の女の子と一緒に3人でやることになって。
そりゃ、女の子はガックリ来てましたよ。
このプロジェクトは大失敗するってね(笑)
その先輩に対して、失礼ですよね。
でも、気持ちはわかるんですよ。
彼女にすら、その先輩はよく謝ってましたからね。
そりゃ、彼女も心配になっても仕方ないですよね?
ところが、プロジェクトは順調に進むんですよ、
不思議とね。
そのプロジェクトは、それでも、新人2人プラスその先輩なんて構成です。
そんなに上手くいくはずないじゃないですか、普通に考えて。
それでも、特に問題なくプロジェクトは進むんですよ。
ホント、自分たちのやってるプロジェクトなのに、なんでか全く分からないんです。
ある日、特に余裕があった訳でもないんですが、その先輩が手がけてきたプロジェクトを確認できるタイミングがあって、その時、とんでもなくビックリしたんですよ。
その先輩の手がけるプロジェクトは、大成功もないんですが、大失敗もないんです。
ある程度の成功の方が、余程多い。
だから、会社も特に責めたりもしてないのが実情だったみたいで。
それで、ですね、気になるじゃないですか。
どうしたら、そんなことが出来るのか。
で、元々問題になりそうだった課題について、少し調べてみたんです。
そしたら、その先輩の指示が尽くハマってて、それで事なきを得てたんです。
またまた、ビックリですよね(笑)
え、どんな指示かって?
そう、例えばですね。
ログの出し方一つ一つに、逐一指示を出されるんです。
ログの出し方なんて、普通共通関数の呼び出しだけじゃないですか。
でも、そのプロジェクトでは、その先輩特性のログ関数があって、それを使ってくれって。
会社標準のじゃなくてですよ?
そしたら、そのログの追いやすさって、会社標準なんて目じゃなかったですよ。
デバック効率が爆上がりです。
どこにどんな間違いがあるか、すぐ分かってしまうんです。
そりゃ、プロジェクトも進みますよね。
実際、サーバーアプリに潜んでいたバグも早期に見つけられて、対策出来ちゃいました。
それで、その先輩に聞いてみたんです。
どうして後から噴出してきそうな課題に、先手を打てるのかってね。
そしたら、その先輩が言うんですよ。
「自信がなくて、心配だから、最悪のことを考えて指示を出してた」ですって。
いや、それ、普通に誰でもやってますよね(笑)
つまり、先輩は自信がなさすぎて、その精度を極限まで高めてるみたいで、だから、外さないんですよ。
結局そのプロジェクトは、そこそこ成果をあげて終わりました。
いや、新人2人と先輩の3人で、そこそこなら、大成功じゃないですか!!
普通の社員なら、自慢してますよね?
でも、その先輩は自慢しないんです。
たまたま、で通しちゃうんですよ。
だから、正当な評価をして貰えないんじゃないかと思ってましたよね(笑)
いやあ、後にも先にも、あんな凄いSEさんなんて、見たことないですよ(笑)
あの時の同期の彼女と、3人で打ち上げしたんですが、彼女ももう先輩に心酔してて、隣に座って、ビールついでましたよ、積極的に(笑)
実は、その先輩に僕も少し憧れてまして、ログの出し方とかも真似てますし(笑)
進め方もですね、それ以来ずっと真似てるんですけどねえ。
やっぱりあそこまで正確には、まだ程遠いですねえ……。
え、その先輩を真似たログを出していたから、田代さんもあのバグの原因を突き止めやすかったですか?
あはは、そう言って貰えると恥ずかしいですけど、嬉しいです。
でも、今度は自分がバグの原因を突き止められるように頑張りますよ(笑)
え?
ああ、その先輩ですか?
いやあ、誰も見てないかと思えば、誰かは見てるもんなんですね?
その先輩も、引き抜かれていきました。
会社も、先輩が居なくなって、初めて気づいたみたいですよ、先輩が如何に凄かったかってことに(笑)
え、その先輩の今ですか?
さあ、僕にはなにもその辺について、教えてくれなかったんで、全然情報がないですね(笑)
ま、そんな過去もありましたってことで。
さ、飲みましょ、飲みましょ。
宴はつづく……
いかがでしたか?
IT業界あるある、第一弾(笑)
気に入って頂けたら幸いです