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まさかの判決


 魔法学園での一件から約1日後。イレクトアは騎士団第一師団に魔法を封じる手錠型魔道具で拘束され、騎士団の本拠地にて審問にかけられていた。そこには第一師団長のグレイヴを中心に騎士団第2から第5までの師団長とその側近たちが拘束されている彼女を囲むように座っていた。

 グレイヴ以外の師団長たちはイレクトアの運命を予想しざまあみろとでもいわんばかりの笑みを浮かべていたが、当のイレクトアはあくびをしており全く緊張感が見られなかった。

 しばらくして鐘の音が響き始めるとグレイヴは審問を開始する。 


「……定刻となった。これよりイレクトア・ラスタークの審問を開始する。まず確認を行う。 ラスターク第6師団長。お前が勇者候補の一人、シンシア・ニルフェンを拉致しそれを助けに来たミスト・クリアランス、サファイヤ・マリンハート秘書官に重傷を与えたこと間違いないか」

「前提が抜けていますよ、騎士団長サマ。私はナタリー・トルキシオン公爵令嬢の命令の下、今回の蛮行を行いました。私自身は何度も進言はしましたがね」

「……だから自分には責任がないと?今自分が吐いた言葉がどれだけ無責任かわかっているのか?」

「だったらもっと責任のある仕事をもっと私らにくださいよ。美女騎士で固めてるせいか、広報部隊とかいろいろ言われてるんですけどぉ」


 まるで今回の蛮行について一切の呵責がないかのような言動にグレイヴは眉間のしわを濃くし、問いただそうとするが、その前に師団長の一人が立ち上がり、彼女に近づくと帯刀していた剣を引き抜き、その刃をイレクトアの首筋に突きつけた。


「おい、戻れ。まだ審問中だ」

「もう結構です聖騎士様!!こいつは騎士団の恥です!!ただでさえ騎士団は勇者の輩出数で軍に負けているというのに、この小娘のせいでもはや十数年は軍に頭が上がらない状況を作ってしまった!!もはやその所業、万死に値する!!」

「……うわ、自分の組織の勇者排出数でマウント合戦してるって噂、マジなんだ……。末端がするならともかく、組織の幹部がそんな話するとかしょーもな。 

 ……というかあんた、誰だっけ?」

「こ、この第5師団のテグネルを覚えていないだとぉ……!!もう許さん、ここで死ねぇ!!」


 テグネルは武器強化魔法で剣に魔力刃をまとわせるとそのまま剣を大きく振りかぶり、彼女の首を叩き切ろうとする。しかしイレクトアは素早い動きで体を翻し自身の腕を拘束していた手錠を前に突き出し、手錠同士をつないでいた鎖でテグネルの剣を受け止める。

 イレクトアですら破壊することのできない魔封の手錠である、テグネル程度には当然切ることなどできなかったが、外部からならば多少はダメージが入ったのか鎖にひびが入る。

 それによって一時的に手錠のの魔術的効果が乱れた隙にイレクトアは強化魔法を発動、鎖を引きちぎり手錠を完全に破壊、さらに素早い拳をテグネルの腹部に繰り出し彼を昏倒、その手に持っていた剣を奪った。 


「………これはあなた方への反抗の意ではなく、自分の命を守るためにやった行動です。わかってくれますよねぇ?ダンチョ?」

「だったらお前もわかっているとは思うが、今この場で反抗しようものなら今度は儂が相手になるぞ。……わかったら席に座れ」


 イレクトアは昏倒したテグネルを回収しに来た第5師団の騎士の足下に彼から奪った剣を投げ渡すと、そのまま席に座った。足を組み笑みとともにグレイヴを見つめるその様子は不敵そのものであった。 グレイヴはその様子に思わず頭痛を起こし、他の師団長たちは怒りの視線を向けていた。


「………イレクトア。まず大前提としてお前がやった行為は軍と騎士団の友好関係に亀裂を入れる行為だ。たとえ公爵家の命令であろうとな。故にお前がどれだけ優秀であろうとも裁きを下さねば、ヴォルフともかく他の軍は納得しない。

 イレクトア・ラスターク。師団長から従騎士に降格後、騎士団を永久追放とする。それ以降の沙汰は軍に一任するものとする」


 グレイヴの下した判決に周りにいた騎士団幹部たちは正式の場にも拘らず喝采を上げ喜びの声を上げる。対してイレクトアはやれやれと困ったような笑みを浮かべていたが、よく見れば心の底から軽蔑しきった瞳は自分の失脚に歓喜している幹部たちへと向けられる。


(あーあ。やっぱこうなったか。なんで拘束が外れてる私の前でそんなに大喜びできるかねぇ、殺されるとか思わないのかな?このブルジョア共はさ。

 ま、いいか?後のリアクションが楽しみだし♪)

「ただし」


 グレイヴの荘厳な声が響くと他の師団長たちは皆、騒ぎを止めて彼の方を向く。全員の視線が自分の方を向いたことを確認すると、グレイヴは話始める。

 彼らが驚愕する判決の続きを。


「…………ただし、以上の判決は勇者選抜試験の結果発表後まで保留とする。

 またイレクトアが勇者パーティに選抜された場合、騎士団からの永久追放を取り消し。さらに勇者として選ばれた場合、降格処分を取り消し、並びに、

 次期聖騎士推薦を与えるものとする」

『??!!』

「一切の反論、質問は認めない。これにて閉廷する。全員持ち場に戻るように。解散」


 騎士達はにわかに騒ぎ始め、判決に不服を申し立てるが、グレイヴは一切聞く耳を持たずその場から去り、イレクトアも隣にいる騎士たちに連れられて奥の部屋の方へと連れていかれていた。師団長の一人は傍聴席から身を乗り出しイレクトアを追いかけようとするが、見えない壁に阻まれその衝撃で後ろに倒れてしまった。

 師団長がぶつかった見えない壁の奥にはイレクトアの副官である長い茶髪を1本の三つ編みに纏めた女性騎士、ジュリアナを中心とした複数の女性騎士達がいつの間にか立っていた。


「申し訳ございません、ラスターク師団長は現在裁判による心身の疲弊により皆様と会話できる状態ではありません。

 面会はまたの御機会によろしくお願いします。それでは失礼いたします」

『失礼いたします』


 全く経緯のこもっていない丁寧な辞儀を行った後、ジュリアナたちは一糸乱れぬ動きで回れ右した後奥へと行ったイレクトアを追うように歩きだした。

 その見事な動きに師団長たちやその側近たちは動けなくなり、追うことができなかった。

 彼らにできたことは、負け犬のように吠え、悪あがきのように割れない結界に拳を叩きつけることだけであった。

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