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蛮騎士、再び


 現在午後16時30分。ここは今日勇者候補たちへのパーティを行う会場近くに併設されていたホテル上層階の一室。ベッドは4,5人が並んで寝ても余裕で余るほど大きくアメニティも充実した見るからに豪華な部屋であった。そんな部屋にてミストとルイスは迎い合うように座り、シンシアは人の視線がないこと理由にベッドに寝転がっていた。

 撮影室で話をした後、入場できるようになるまでレイゼにここで休むようにと言われ3人はここにいるのであるが、その間にも先ほど彼女が話したある人物の話が浮かんでいた。

 勇者を支える勇者パーティその筆頭シズカ。美貌と強さを併せ持ち、統一国王都の男尊女卑の悪しき伝統を破壊した烈女。彼女のおかげで女性専門の魔法学園も開校され、女性も能力が足りてさえいれば要職に就くことができるようになったのも彼女のおかげでなのであった。

 ちなみに、近年若い女性の間で流行っているミニスカートやショートパンツで足を出すスタイルも彼女が原点ともいわれている。


「………ミストちゃんのお祖母ちゃんってすごかったんだね。」

「……言っとくけど私の得ていた情報は全部ヴォルフが話していた情報だ。……生憎パ、……父さんが物心つく前には病死したって話だったからさ」

「……うん、知ってる。言わなかったけどさ、シズカ様ってアタシの村出身だったんだって。死んだ後は村の海で海帰葬したって、村長から聞いた」

「そうだったのか………不思議な縁だな」


 ミストとシンシアの間にどこか穏やかでいい空気が流れたことを察知したルイスはゴホン、と咳ばらいをしつつ話を転換する。


「………そう言えば、そろそろパーティ会場に入れるはずですが、どうしますか?」

「開始は18時からだっけ?早めに行って席取りとかした方がいいのかな?」

「レストランじゃないんだから指定席とかなってんでしょ、たぶん。……ただ、早めに行けば変に注目されないで済むか。

 よし、行くか」


 ミストが立ち上がると、シンシアとルイスも立ち上がり、部屋から出て行く。そのまま階段を使って一階に降り鍵を返却した後、ホテルの入り口から出るとそこには大勢の野次馬や新聞記者と思われる者達が待機していた。

 記者たちはホテルから出てきたミスト達に気が付くと手に持っていた一枚の鉄板をかざす。すると鉄板に勇者紋と同じマークが写り出すと共に彼らは一斉に彼女達に詰め寄る。


「失礼します!!勇者候補様でよろしいですか?!今日のパーティ前にいくつかお話を聞いてもいいでしょうか?!お名前と所属組織を!!」

「勇者候補として選ばれた心境をお聞かせください!!」

(……なんでこの人たち、アタシ達が勇者ってわかるの?)

(……彼らの持っているあれを、見たことがあります。あれは魔術省が作ったブレイヴセンサー。勇者紋が帯びている女神の力を探知できる魔導具です。)

(魔術省のカスどもめ、小遣い稼ぎ感覚で売りやがったな……。)


 そんな風に小声で話しながらもミスト達はこの場から離れるため、ゆっくりと息を吐き、そして実行に移す。

 まずシンシアは太陽のような晴れやかな笑みを作ると、記者たちに声をかける。


「ごめんなさい!本当は色々と答えたいんですけど、人に呼ばれていまして。今日は失礼します!」

「正式に勇者となった後でなら、答えさせていただきますので、すみませんが通してください」


 シンシアが作った人ごみの穴を通るようにルイスが小さな笑みと共に一回会釈をした後、足早に続きミストもその後に続こうとする。だが流石に一人からも発言を取れていないのはまずいのか記者の一人がミストの方を掴む。


「まぁまぁ待ってくださいって!!10分、いや5分も時間を取りませんからさ!!」 


 他二人と違い、明らかに違う態度でミストから話を聞こうとする記者。現在表面的には禁止されているヒガシマ人への差別であるが、それでも内心王都民がヒガシマ人を無意識的に下に見ているのは事実である。

 ヒガシマ人の特徴である黒髪を持つミストに対して、彼らがそのような態度を取るのも不思議ではなかった。

 そんな無礼な態度をした記者たちに対しミストは、肩を小さく振るい、掴んでいた手を払うと、冷たい視線を横顔と共に彼らへと向け、一言放つ。


「……邪魔」

「………っ?!」


 振り向いたミストの美しさとそれに対しされるような冷たさと剣呑さを併せ持った言葉に記者は何も言えなくなりその隙にミストは鉄カバンを持ったまま記者の群れを抜けてシンシア達の後を追うためパーティ会場の方へと走っていくのであった。

 パーティ会場の周辺には統一軍や騎士団の警備が存在していたためか記者の姿は見えず、中に入ったミストは僅かに息を吐き会場の受付にまで歩いていく。

 そこには手を振っているシンシアとその隣にいるルイスがおり、またその近くにはレイゼとオルトラント、ガイウスの姿があった。

 オルトラントはいつも着ている丈の長い黒い礼服姿ではなく。紫色のシャツと白いスーツを着込み、仮面もスーツに合わせた白い仮面に変わっていた。

 ガイウスは筋骨隆々な彼が来てもゆとりがある大きい灰色のスーツを着ていたが、中に着ている赤いスーツのせいでどこかマフィアの構成員のような印象を与えてしまっていた。


「ミスト嬢も来ましたか。いやぁ、皆さんとても非常にお美しい。こんなに美しいものを見たのは二年前に見た天然のオオアゲハ以来ですよ」

「おお、お前ら確かに似合ってんぜ!こう言う時なんて言うんだったか……そうだ!!馬子にも衣裳って奴だな!!」


パチチッンッッ!!


「「グゥ………ッ?!」」

「あんた達、馬鹿な訳?」


 突如指を鳴らす音が二重に響いたと思うと、レイゼの音速の拳がオルトラントとガイウスの鳩尾に炸裂し、思わず二人はうめき声をあげその場にうずくまる。長身の腕利き魔法使い達をこの様な姿にした張本人と思われるレイゼは彼ら見下し青筋を立てながら睨んでいた。

 なおそのあまりの早業に3人は驚愕半分、ドン引き半分にその光景を見ていた。


「この恋愛経験なしの馬鹿ども。なんで蟲と比べるの?なんで自信満々にけなしてるの??着飾ったレディに対しての褒め方すら知らないの???幼年学校からやり直すぅ????」

「な、何でですか……ガイウスはともかく、私は褒めましたよ……?」

「そうだ!!俺だって心からそいつらのことを褒めたんだぞ!!それなのにマジで殴りやがって……俺やラントじゃなけりゃ病院行きだぞ?!」

「……よし分かったわ。まだパーティまでまだ時間がある。それまでみっちり乙女心って奴を叩きこんであげる」

「はぁ?!なんでそんな面倒なこと……!!大体乙女心ってテメェみたいな清楚の対極みたいなやつに言われ……?!」


 とガイウスが言葉を紡ぐ前にレイゼの音速右フックがガイウスの顎に直撃し、彼を昏倒させる。その後レイゼは指を鳴らすと小さなつむじ風を生み出しその上に乱暴にガイウスを乗せ、そのまま振り返るようにオルトラントを見る。

 その視線は暗に「こうなりたくなかったら、黙ってついてこい」と言っているようなものであり、オルトラントは僅かに思案したが、結局仮面越しにため息を吐いた後、ゆっくり立ち上がる。


「………それじゃあ少し外すわ。もう受付では席の案内をしているはずだから、スタッフに従って頂戴」

「……では、また会いましょう」

「お、おう……そっちも気を付けてよ……」


 つむじ風でガイウスを運び別室へと歩き出すレイゼの後を肩を落としながらついて行くオルトラントの哀愁漂う背中を見送った後、受付に行こうとするミスト達、とその時であった。

 自分達がさっきまで休んでいたホテルからこの会場を繋げるように一本の道ができていた。おそらく結界系の魔法でできた道でありそれを作ったと思われる騎士団の制服を着た女性が前を歩き、その後ろをある少女がついて歩いていく。

 その姿を見た時、ミストの握っていた鉄カバンの取っ手からはきしむ音が響き、見開かれた目には怒りが宿り始めていた。


「流っ石だね!ジュリアナ副師団長☆見事な結界魔法だ魔法連からスカウトされたのは伊達じゃないねぇ♪」

「もはやそんなもの何の自慢にもなりませんよ。………それより、彼女がいます」

「うん分かってるよ、ホテルから出たらすぐに気が付いた。…………鉄臭い戦犯臭がさぁ」


 女性の後ろを歩いていた少女はいつも通り緑が混じった金髪の髪をツインテールに纏めていたが、ややカールが掛かっておりおりいつもよりも洒脱な印象を与えていた。また薄手の黒コートの下には胸元を大きく開きシンシア以上に魅力的な体つきを惜しげもなくさらす緑色のドレスを着ていた。

 やがて会場に到着すると女性は結界魔法を解除し礼をして後ろに歩いていた少女を送り出した。少女はそれに対し軽く手を振った後、まっすぐ前へと歩きそのままミスト達の前に立った。

 彼女がやってきたことを考えれば挑発的行為以外の何物でもないがそのあまりに堂々とした行為にシンシアもルイスも警戒心を持ちながらも動くことができなかった。

 唯一ミストだけは一切の敵愾心、怒り、憎悪を隠すことなく目の前にいた人物にぶつける。


「………あれ?あれれ?すっごい綺麗なドレスを台無しにしてる醜女がいると思ったら、キミだったのか☆

 ………クソッタレ戦犯のミスト・クリアランスちゃん♡」

「……なるほど、こうやって本物を見るとレイゼの奴は痴女は痴女でも、気品を持った痴女だったわけだ。

 ……比較検証の協力ご苦労さん、もう帰っていいぞ負け犬騎士のイレクトア・ラスターク」

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