嵐を裂く、致命の炎翼
ヴォルフはレイドビットを操作し砲門全てを地面へと向け発射する。魔力のレーザーによって地面が抉れていくと、地面の下の一部から人間が4.5人同時に通っても大丈夫そうなほど広い円状の通路のようなものが発見した。
それを見つけたヴォルフは箒星軍艦の操縦桿のボタンを押し機体下部から鉤爪付きの鉄触手を出現させその先端を高速回転し目の前の竜巻に向かって突き出し貫通させる。まだ竜巻として渦巻き続けているため、鉄触手は嫌な音を鳴らしながらダメージを受けているがヴォルフは何かを探し、それが発見されると鉄触手を引き抜いた。それの正体は、
「邪精霊の………肉塊、の一部………!!チッやはり地面を通して、残り二つの竜巻の方へと逃げたか……!!だが逃がさ………?!」
ガシッ!!ガガガガガガッッーーーー!!!
箒星軍艦が方向を変えいつの間にか遠くに逃げている竜巻二つに向かって一気に全速力を出そうとするがその瞬間、箒星軍艦の船尾を巨人のような体に変えた竜巻に捕まれてしまった。またグレイヴ、ノーマンが対峙していた竜巻も巨人の姿に変わっており、二人に猛攻を繰り出していた。
レイドビットのレーサーによって竜巻の巨人の腕を切り飛ばし、脱出した箒星軍艦は主砲を構え2発、クレイヴ達が相手をしていた竜巻の巨人達の胸部に放ち、打ち抜いた。それによって怯んだ隙にグレイブは巨大化したランスを突き刺し、ノーマンは巨大な炎の処刑剣を生み出して、それぞれが対応していた竜巻の巨人の上半身を消し飛ばすのであった。
上半身を消し飛ばされた二体の竜巻の巨人であったがすぐに風を吸い込んで再生し、ヴォルフを対応していた巨人と共に本体イーウィニャがいると思われる竜巻への道を阻むかのように立ちふさがった。
「………老いたくはないものです。まさかこの程度の敵に時間稼ぎをされるとは………」
「ヴォルフ、マナ・アクセルキャノンのフルパワーは撃てるか?フルチャージでなければあれは倒しきれん……!」
「……難しいな。あれはそもそも箒星軍艦の速度を利用して急速チャージするものだ。今のような立ち止まった状態ではフルチャージには時間がかかる」
竜巻の巨人とそれを生み出した風の邪精霊イーウィニャははっきりと言って全盛期に程遠く万全と言い難いヴォルフ達から見ても取るに足らない敵でしかない。実際彼らはイーウィニャより数段は上の邪精霊を討伐したことを何度もある。
だが今まで戦ってきた邪精霊と違い、イーウィニャはこちらを倒すことを一切前提条件に入れていない。奴の前提条件は長く生き残り統一国、ひいては人間界を破壊すること。よく言えば破壊工作、悪く言えば嫌がらせ。
だからこそ強者との無意味な戦闘は避け、こうして足止めの策を打ってきたのである。
(あの邪精霊を生み出した魔将、ザビジランデ、とか言っていたか。そいつがあの邪精霊の行動をインプットしたとしたならかなりの策士だな。さて、どうするか。稼働時間は残り約6分、逃げに徹している相手を殺しきれるか………?!)
目の前の状況を把握し操縦桿を強く握りながら息を吐くヴォルフであったが、その時、懐に入れていた通信魔道具から声が響く。それは、聞き覚えしかない声だった。
『………今から邪精霊の足止めはしてやる。だからさっさと片付けろよ老骨ども』
「?!!」
ヴォルフが突如聞こえたその声に反応するより早く箒星軍艦の隣を弓矢のように体を引き絞った炎の龍が超高速で通り過ぎ、さらに竜巻の巨人たちの隙間を通り抜け突破するのであった。竜巻の巨人たちは当然すぐに振り向き、本体の元へと行こうとする炎の龍、否翠星に乗ったミストを叩き落とそうとするが、それはヴォルフ達が攻撃を加えて止めるのであった。
「…………我らを囮にするとは……本当に、本ッッ当に昔の貴様そっくりだな、ヴォルフ貴様の孫はぁ!!!」
「………俺は、あそこまでではなかった……はず………」
「………まぁお二人とも。今は目の前の敵に集中を。…………正直なところ、今の我々の火力ではこれを一撃で倒しきるのは難しい。ここは彼女に任せてみてはどうですか?
孫は信じるものですよ、ヴォルフさん?」
「………ああ、その通りだな。………基本は様子見、危なくなれば俺の道を全力で作ってくれ。さぁ、
老骨の意地、見せてやるぞ!!」
ヴォルフ宣言に二人とも呼応した後、体を再生させミストを追おうとしている竜巻の巨人たちに攻撃を加え、足止めのために生まれた風でできた不死の怪物を、今度は彼らが足止めするのであった。
*
一方その頃、炎の龍の中にいたミストは飛行を翠星に任せながら手元の魔力探知用魔道具を操作し改めてイーウィニャの魔力を探知。最悪の予想では地面を深く掘って別の方向に逃げていることであったが、大方の予想通り、現在イーウィニャは進行方向にある二つの竜巻の内、奥の方の竜巻の中に反応が確認された。
そのためそのまま進行させるが、ミスト達の存在に気が付いたイーウィニャは竜巻の中から金切声のような叫び声をあげると、手前にあった竜巻を吸収させ、自分自身が入っている竜巻の形を変形、ヴォルフ達が戦っている竜巻の巨人よりもさらに大きな巨人の姿となった。
その巨人は飛んでくるミスト達に向かって拳を振り下ろすため、腕を引き絞る。
(箒星軍艦やジジイ二人の魔力と比べて随分と弱いからか闘争ではなく迎撃を選んだってわけか。)
「ハッ、ガン逃げされるよりずっとありがたい。さぁアンタの力を見せてよ翠星………!!
マジックリンク:ヴォーパル・ポイントッッ!!」
ミストがそう唱えると翠星の鞍の前面にある取っ手の間に魔方陣が生まれ、そこに彼女は懐から取り出した片手剣型魔導具、ヴォーパルの切っ先を置くと吸い込まれ、翠星の体を紫色の魔力が包む。
それと共に翠星のバイザーの下に隠された眼球パーツが動き竜巻の大巨人の四肢や胴体を確認していく。
「今お前は一時的にヴォーパルに刻み込んだ魔術、ヴォーパル・ポイントを使えるようにした。使用法は分かるはずだ。
あいつはアンタ達の仇の片割れみたいなもん、容赦なく切り裂いてやれ……!!」
『キュグォォォォォォォ!!!』
翠星は怒りが混じった異音交じりの方向を上げると翼を自身の炎で10倍以上に延長し、さらにその上で紫色の魔力を纏わせ加速、一気に最高速に到達し大巨人の拳を回避、そのまま大巨人の右足に向かって突撃するのであった。
中身には何もないハリボテの巨人とはいえ仮にも全てを削る大竜巻、まともに当たれば鋼鉄製の翠星とは言えその体はひとたまりもないはずであったが、炎の翼が足に当たった瞬間、
スパッ、ボォォォォッッッ!!
大巨人の右足はあっさり切られさらにその切り口から紫がかった緑色の炎が燃え上がる。さらにイーウィニャが反応するよりも先に翠星は燕返しのように旋回し左足を、垂直に上昇し左腕を、そして急旋回して胴体と右腕を両断するのであった。斬られた部位は右足同様炎が上がっていた。
一瞬にして自分を守る大巨人の体をバラバラにされたイーウィニャは怒りの声を上げつつも切り飛ばされた体をくっつけようとするが、その時やっと異変に気が付く。
風が、空気がある限り何度でも無限に再生する大巨人の体が修復押されず再生もしない。それどころか炎によって浸食され体が崩れていき、切り飛ばされた部位はもう既に形を失い、消え果ていた。
イーウィニャは思わずと言った様子で大巨人の頭部を180度回転し口を開かせそこから逃げようとするが、
その先には待ってましたと言わんばかりにミストと、表情は分からないながらも怒気を放つ翠星の姿があった。
「ヴォーパルの特性その1。ヴォーパルによって切られた部位は一時的に魔力不全物質に変化する。お前みたいに魔法の鎧を着て油断してる輩には効果てきめんだろ?」
「………!!■■■■■■ッッッッッーーーーー!!!!」
黙れ、とでも言わんばかりにイーウィニャは口が裂けるほど大口を開け、口から凄まじい突風を吐き出す。それに対して翠星は翼を盾のように前に出すが、イーウィニャの生み出す突風は本来小型要塞程度なら軽く吹き飛ばせる威力を持つ、ここまでの至近距離では防御しようが受けた瞬間体が爆ぜてしまう、はずであったが、
無傷の翠星が現れ翼を開くと同時にヒドゥンエッジの刃が一気に伸び、イーウィニャの額を貫いた。
「ヴォーパルの特性その2。ヴォーパルによって弱点である致命線を付けられた物質は、その部位以外の強度硬度靭性を大きく跳ね上げる。今回は翠星の頭に致命線を付け、それ以外の全ての防御力を上げてお前の攻撃を受け止めたってわけだけど………何か質問は?」
「*****#%&!@@■■■■■■■■■ッッッ!!!!」
「ないみたいだね。そんじゃよっ、と」
イーウィニャは絶叫を吐き散らし、紫色の血を噴きだしながらも頭方刃を引き抜くとするが、ミストはヒドゥンエッジごと額に刺さったイーウィニャを持ち上げ行動を阻害、奴はさらに痛みによる絶叫を上げるのであった。
ミストはそんな声は完全に無視しつ懐から試験管を取り出し、イーウィニャの血を採取する。
「血液採取完了。これでお前の元のことがわかる、協力感謝するよ。さてと、
………もうお前は用済みだ、失せろ邪精霊」
冷たく言い放ったミストはヒドゥンエッジを大きく振るい刺さっていたイーウィニャをゴミでも投げ捨てるように上後方へと放り投げる。それと同時に翠星もその場で旋回し、翼を大きく広げそのまま振るうと炎を纏ったかまいたちが複数発射され、それぞれ様々な軌道を描くが、その全てがイーウィニャに命中。そして
ボゴゴッ、ドガァァァァァァァァァァンーーーーーーー!!!!
イーウィニャは空中で大爆発を引き起こし、もう既に日が落ちて暗くなっていた森林地帯を一瞬大きく照らすのであった。
こうして短くも長かった魔将が引き起こした飛竜事件は幕を下ろすのであった。




