当たり前
今回若干グロイですご注意ください。
シンシアとガイウスが固まる中、ミストは奥から解体用の工具から手術用の器具、麻酔駅や培養液が入った容器、鋼鉄素材で出来たケースなど複数を持ってきていた。
そのまま白いエプロンに着替えて作業を始めようとしたミストをガイウスは慌てて止める。
「ちょっちょっと待て!!てめ、どういうことだ脳を移植って……!!それに移す先が魔導具って………訳がわからねぇ、説明しろ!!!」
「ヨハンが言った通りだ。ワイバーンの脳を切り出して培養液に入れ、それをそのまま専用ケースに入れて制御機構かわりに機工龍に組み込む。そうすればある程度は自立して飛行を任せられるし、理論上はこいつの魔法を使うことができるはず。使役契約をしているから反抗もされない。
私達にとってメリットしかない」
「そういうことを言ってるんじゃないんだがね……!分かってるのかね?生物から脳を切り出して魔道具の中に詰め込む……これは明らかな天十字教の禁忌、必要以上の生命の加虐、生命の尊厳侵害に分類される。
君は、教会を敵に回すぞ」
ヨハンの言葉にミストは僅かに黙る。教会は統一国の約3割以上を信徒を持つ天十字教の総本山であり、4大組織の中で最も頭数が多い組織である。その気になれば騎士団統一軍はもちろん、魔法連や王族さえ従わせられるのである。
ミストが今やろうとしていることはそんな大規模宗教では禁忌中の禁忌その者、この中には敬虔な天十字教徒はいないためよかったがもしいれば即座に手が出てもおかしくないものである。
だがミストはそれを一笑に付す。
「………確かにそうかもね。でも、それはアンタらがここで黙っててくれれば十分隠せると思うんだけど?」
「………共犯者になれと言っているのかね?これでも一応月に1回教会のミサに行く私に……!」
「そうしなくちゃ決して少なくない非戦闘員が死ぬ。私らはもうそこまで追い詰められてんだよ。
ヴォルフの戦力がいくら強くてもこのレベルの竜巻を一つずつ消していったら無犠牲なんて不可能だ。ヴォルフには囮の大竜巻は無視して本体の邪精霊を討ってもらわなくちゃならない。
それともなんだ?アンタにとっちゃいるかもわからない、いたとしてもこんなクソみたいな差別社会をどうこうもしない神様のご機嫌どりは人命より大事な訳?」
ミストの問いかけにヨハンは眉間のしわを強くして押し黙ってしまうが、シンシアはふっかう深呼吸をした後ミストを真っすぐ見つめる。
「………そうだよね、命が一番大事だもんね……!ミストちゃん、私はどうしたらいい?手伝えることなら何でもするよ!」
「ああ、くそっ!!仕方がねぇ!!それしか手がねぇってんなら俺も手伝うぞッッ!!」
「シンシアは手術中私に触れて魔力を流し回復し続けて。
ガイウスは調理室にある甘いもん食べやすい状態で可能な限り持ってきて、試したいことがある。」
ミストの指示に分かった!、と返事をした二人は早速動き、それぞれ行動を開始する。今ここで行われることは魔物の体を材料に魔導具や遺物を作るのとは次元が違う、生命を侮辱する行為である。手伝うことなど本来はありえない、そのはずであったがヨハンの中で先ほどミストの言葉と今は亡き師の言葉がぐるぐると回っていた。
『アンタにとっちゃいるかもわからない、いたとしてもこんなクソみたいな差別社会をどうこうもしない神様のご機嫌どりは人命より大事な訳?』
『我らに魔法をくださった神はいるさ。ただし魔法という学問の世界においては神は留守だ。人に迷惑をかけない範囲で自由に学びなさい』
「………やれやれ。バレたら離婚と爵位返上で済むかねぇ」
そんな風にため息をつきつつヨハンはしゃがみ込み飛竜の体に触れ回復魔法をかける。その姿を見たミストは僅かに微笑みつつ軽口をかける。またシンシアはミストの後ろで彼女の肩に手を置き、ガイウスは大量の菓子が入ったボウルと保存用の紅茶を持ってきていた。
「悪いねヨハンサマ。こんな事させちゃってさ」
「ふふ、悪いなんて思ってないくせによく言うね?………それよりこのワイバーンだが、回復魔法が効き辛くなっている。多分時間はもう残されてないね?」
「分かってるさ。元より時間をかける気はない。………昔の私だったら無理だったかもしれない、だが勇者としての私なら必ずできる。
………さぁ手術を開始するぞ。」
そう宣言したミストは髪を白い手術帽で覆い、顔全体を覆う透明なフェイスシールドを付けると、手に持っていた注射器の針を傷口の部位から差し入れシリンダーに入っていた麻酔液を注入する。かなり強力な麻酔だったためかボス個体は瞼をゆっくりと閉じ眠りにつく。
それを確認したミストはメスを使い頭部に残った鱗を精密且つ高速に剥いでいく。その間にミストは口を開く。
「………シンシア。こっから先私が声をかけるまで目をつぶって。万が一絶叫されても面倒だしね。
ガイウスは私の合図で口元に菓子を入れろ。万が一にも菓子くずを出したくないから、出す時は紅茶に浸して。
ヨハンは回復魔法を切ってそのケースに紙に書かれた見本通りの魔方陣を書け。できるだけ早くお願い」
「分かった!!何があっても目はつぶってるから!!」
「俺だけ給仕係かよ………まぁいいがよぉ」
「これは、魔術義肢用の神経接続魔術の物か。心得たね」
3人の返答を聞いたミストは、懐から長方形状の大型の柄を取り出し軽く振るうとその中から大量の小型のナイフからどうやって入っていたのか分からないほど大振りの刃物など合計7本の刃物があらわになる。
これはミストが作った解体用ツールナイフで状況に合わせて7本ある刃から1つを選択し使うことができるのである。ミストはその内ピザカッターを思わせる丸鋸型の刃のみを柄の中に再び入れ刃をボス個体の頭部に突き立てると、
きゅぃぃぃぃぃぃぃぃぃんッッッーーーーーー!!!
と刃を高速回転させ皮と肉、そしてを裂き始める。当然その過程で血が噴き出し始めるがミストは一切気にせず体から暖かい光を放ちながら、真剣な様子で手術を続ける。
むしろ先ほどよりも濃い血の匂いと音に「え、怖い怖い怖い!!」とシンシアは目をつぶりながら叫び続け、ガイウス自身も冒険者を長年やってきたとはいえまだ一応は生きている魔物が解体されていくのをげんなりとしながら見ていた。
「菓子。ほら早く」
「ヘイヘイ分かったよ!ほらよ!」
ガイウスは紅茶に浸けふやけたクッキーをミストの口元に近づけるとミストは一瞥もせず食べ始め、それが食べ終わると「ほら次」と腕は一切止めずに口を開き、新しい菓子を催促した
そんな風に菓子を食べながら丸鋸を動かすこと約3分。丸鋸によって額部を長方形状に切り出しそれを投げ捨てると、その先には人間とそう構造が変わらない脳みそがあらわになる。
「………魔法を使える魔物の脳みそって言っても、そこまでデカくねぇよな。いつも思ってたけどよ」
「大きさ自体はそこまで問題ではないね?実際知能に関係するのは脳のしわの方だし、っと済まないこんな雑談をして悪……」
とヨハンが謝ろうとした時だったが、ミストには一切その言葉は届いておらず彼女はガイウスによって餌付けされながら彼女はツールナイフから薄っぺらいよく曲がるナイフを取り出していた。ミストは一瞬暖かな光を消すとガイウス達に問いかける。
「これより脳幹部より上部の部位を切除、保存処理を行ったうえで機工龍に組み込む。ガイウスは私のそばに培養液が入ったガラスケースを持ってこい。ヨハンは魔方陣できた?」
「おう、わかった」
「もう完成している」
上等、とだけ呟くと体から再び暖かい光を放出、彼女が持っていた薄っぺらい刃は伸びつつ曲がっていき、大脳と頭蓋の間の隙間にするすると入っていく。そして目的位置に到達したことを確認するとミストは大きく息を吸い、そしてそのまま一切の迷いなく、
頭蓋部に沿うように刃を一閃振るい、脳幹と脊髄を切り離す。斬ったことを確認した後、ミストは手のひら全体を使って脳を持ち上げ頭蓋部から取り外し、必要最低限の時間でそれを培養液の入ったガラスケースの中に入れる。切り取ったはずであるが出血は異様に少なく緑色の培養液が血で濁るようなことはほとんどなかった。
さらにミストはガラスケースに蓋をして、さらにそれをヨハンに書かせた魔方陣が描かれた鋼鉄ケースの中に入れるとミストは縮小魔術の札を張り付ける。すると鋼鉄ケースはみるみる小さくなり最終的には、ミストがいつも持っているケースレベルの大きさにまで変わっていった。
ミストは脳がなくなり今度こそ死に絶えたボス個体の前の体の頭部に大きな布をかけ、シンシアに「もう目ぇ開けていいぞ」と話す。
「よし、後はこいつを機工龍のメイン命令機構のカードリッジと取り換えるだ………?!」
と立ち上がろうとしたその時、立ち眩みのせいかミストはふらつき倒れてしまう。さらに彼女の鼻からは血が垂れており明らかに大丈夫な様子ではなかった。
「チッ、シンシアに回復してもらってもこのざまか……『集中』スキル……まだまだ精密作業には向かないな。」
「大丈夫シンシアちゃん?!もう手術は終わりなんだよね、だったら一回、休もう!!ね?!」
「少し糖分を補充すれば問題ない。今は時間がないんだ………!!」
「…………!!だったら、肩を貸す。それぐらいはいいよね?!」
ミストはボウルに入っていた菓子の残りをすべてむさぼるように食べ、紅茶でそれを流すとシンシアの助けを借りつつ機工龍のボディへと歩いていく。
その光景を後ろからガイウスとヨハンは眺めていた。
「………魔法使いやこの統一国を逆恨み問題行動ばかりを起こす最悪の魔術師………まだ会って一日もたってねぇが、噂とは随分と印象が異なるよな」
「……所詮その噂は魔術の台頭を防ごうとする貴族たちが流したに過ぎないからね。とはいっても私自身彼女と直接かかわるまでその印象がなかったとは言えない。でも、今ならはっきり言える。
ミスト・クリアランス。利益だの信仰だのに惑わされす人命と正義を選べる彼女は、誰が何と言おうとも人類の希望、勇者にふさわしいと。」
だな、とガイウスが口元で笑みを浮かべながら呟いている内に、ミスト達はスペアの機工龍の胴体部から命令伝達用のルーン鉄板が複数枚入った鉄ケースを取り出し、かわりにボス個体の脳が入った鉄ケースをセットする。ミストはそのまま背中に跨り操縦桿を握ると、徐々に駆動音が付き始める。
「!!よし接続が完了した!!うまくいったぞ!!」
「じゃあこのまま飛び出すの?!」
「いやまだ完全覚醒に2分ほど時間がかかる。だからその間に……最後の仕上げをやっておこう」
ミストはからかうように笑みを浮かべると服の袖からスタンプを取り出し機工龍の装甲に押すとその装甲の一部位が緑色の着色される。その光景にシンシアが驚く中ミストはさらに青色のスタンプと赤色のスタンプを取り出しシンシアに渡す。
「機体部の裏面は青色、翼部、脚部先端は赤色で着色。ほらさっさと急ぐよ」
「OK任しといて!!」
「…………面白そうなことしてんじゃねぇか。俺も手伝ってやるよ!!」
「少々気を抜きすぎかと思うがね。………ただこれ以上の心配も不要か。私もやろう、中途半端な塗装では格好がつかないからね?」
そう言って二人もミストから着色魔術のスタンプを装甲に押し銀一色のワイバーンに色という命を塗り込んでいく。
そうやって完成していく自身の新しい彼の体を見ながらミストは勝気な笑みと共に呟く。
「さぁ、お膳立てはこれで終わりだ。お前の力、見せてくれよゴガ。いや……
失敗最高傑作、機工旗龍・翠星………!!!」
評価、感想をよろしくお願いします。




