警戒の魔将 ザビジランデ
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ミスト達に逃げられたアヴィーラはその少しの間、周りの者を手当たり次第に破壊しながら、怒りを発散させていたが、やっと少し落ち着いたのかタクトビットで負傷し抉れた右目を抑えつつ思案する。
『奴らァァ………!!どこに逃げやがった……!!……そう遠くには飛んでねぇはず………!!しらみつぶしに探してぶっ殺して………』
『………その辺りにしておけ、アヴィーラ』
アヴィーラが少し前に発動させた探知魔法を使い見つけた討伐隊の難民キャンプへと最初に飛んで行こうとしたその時、後ろから厳しげな声が響く。
その先には骸骨を模した意匠が見られる白い鎧を身に着け、背中には魔力でできた流動し続けているマント、腰には幅広のワイドソードを帯刀し、そして手には自身の体ほどの長身の長筒を持っていた。
姿こそアヴィーラと同じ人ならざる怪物そのものであるが、この声の感じからすると正体は、
『おい!!!どういう意味だ、ザビジランデ!!!』
『言わなければ分からないか?今のお前ではこの任務の邪魔にしかならん。魔界に戻り、傷を癒し、魔王様の護衛に戻れ』
『………ふっふざけんなぁ!!!あの程度の雑魚共に背を見せて逃げる訳ねぇだろうが!!この傷だって回復魔法ですぐ治る!!そうしたらすぐに……!!』
アヴィーラが言いかけたその時、ザビジランデの姿が彼の目の前からいなくなる。どこに行ったのかアヴィーラが頭を振って探そうとした時、彼の頭が何者かに捕まれる。
聖女の結界によって弱体化していても、アヴィーラが人間に背後を取られ頭を掴まれるなど絶対にありえない。当然その相手は、
「少し頭を冷やせ、ラマヌジャン・ディスタンス」
「………待……!!」
アヴィーラが何か言おうとする前にザビジランデは自身の魔法を発動、彼をこの地から一瞬で消してしまったのだった。
それを確認した後、ザビジランデはゆっくりと歩を進み、目当ての物を見つけ地面にしゃがみ込む。
『………さてと、ヴォルフ様はもうすぐ来る。これで殺しきれるとは思わないが、このままではこちらの大赤字だ。
嫌がらせぐらいにはなってくれよ。…………ラマヌジャン・ラインメイカー』
ザビジランデは拾ったもの、さっきミストによって抉り飛ばされたアヴィーラの右目の眼球をその場で握り潰し、それを思いっきり掌ごと地面に叩きつける。
明らかに眼球一個に含まれる量とは思えないほど多量の紫血をまき散らし、それらは四方へと伸びていくと村跡を覆う規模の巨大魔方陣を形成する。
その魔方陣の中心に立つアヴィーラは手を合わせ血の魔方陣の魔力を流し込む。アヴィーラによって徹底的に破壊された様々な死体の残骸から、白い人魂のようなものが抜け魔方陣に吸収されていく。
そして、
「風の邪精霊、イーウィニャよ。わが手に来たれ」
ザビジランデが唱えたその時、彼の掌の上に、半透明の何かが出現する。全体的に見れば人間の胎児のような姿をしているが、目は二対存在し、赤い瞳をギョロギョロと動かし、口には牙が生えているなど一目見て怪物であると察することができた。
ザビジランデは手のひらに乗っている胎児の怪物、イーウィニャを上に掲げると、奴は宙に浮き始め周りに複数の旋風を作り始める。
【何を・すれば…………】
『複数の竜巻を生み出し、王都から離れた地域を破壊しろ。お前は可能な限り抗戦を避けて生き残れ。生き残ってさえいればいくらでも竜巻は起こせるからな。………あと、大型竜巻を一つ村に残せ
命令はこれで終了だ、行け』
御意。とイーウィニャは言うとその姿を完全に透明になり周りの複数の竜巻も勢いと規模を増していき山を削りつつ移動していく。
後は逃げるだけとなったザビジランデであったがきょろきょろと上方向を見ており、何かを発見したと思うとその方へと顔を向ける。
ちょうどそれは、アトリエによる外界把握の際の視点がある方と同じであった。
『………空間を切り取って安全圏を作る魔法か。………今の私では干渉は不能だな。まぁいいさ、どうせ只人ではどうすることもできない。
………我が名は魔王様に仕える選ばれし8人の魔将の一人、警戒の魔将 ザビジランデ。今日は退かせてもらうが、必ずや貴様ら人間に制裁を下してやる。………よく覚えておくのだな』
そう言い残し、ザビジランデは一瞬にして姿を消し、それと同時に竜巻は力を増し、世界を、削っていくのであった。
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「………!!あの魔将……アトリエを認知していたね、思った以上の強者だ……!!」
「いや!!今はそんなことどうでもいいだろ!!問題は外の状態だ!!一体どうなってやがる!!」
「ミストちゃん!!これもっと上の方に視点は変えられないの?!」
「生憎視点は見下ろしだけなんだよね………!!クソどうする……!!」
アトリエからの映像によってややパニックになっていたミスト達であったが、ミストは僅かに思案し魔導具を入れてある棚からシーカースパイダーを一つ取り出す。
「ガイウス、こいつにあの竜巻の中でも持たせられるような盾魔法は付与できる………?!」
「……俺がずっと触り続けるわけじゃねぇから2,3分程度が限界だが、行けるぜ!!」
「それだけあれば十分、頼むよ!!」」
ミストは床にシーカースパイダーを置くとガイウスは念入りに盾魔法による防壁をかけていく。それが終わると同時にミストはアトリエの鍵を発動し、シーカースパイダーを外へと転送したのであった。
転送されたシーカースパイダーは風に巻き込まれその機体をきしませるがガイウスの盾魔法によって致命的な破壊までには行っていなかった。その間にシーカースパイダーは8本の脚を広げると体を軸にそれを回転させ浮力を生成。そのまま竜巻の風に逆らうことなく上昇し、成層圏間近まで到達するとそのまま脱出、映像の撮影を開始しその情報をミストの魔導具へと転送するのであった。
「………今映像が送られてきたけど、これは………」
「自然では絶対にありえない、トンデモ光景だね?
村を覆っている超大型竜巻とは別に、大型竜巻が同時に5つ生成され、扇状に進んでいるなんて」
シーカースパイダーから送られてきたその映像、そこに映っていたのはまず今ミスト達がいた村跡地で発生し、王都に向かって遅く動き始めている超大型の竜巻と、王都とは逆方向に向かい村の竜巻とは一回りほど大きさに差があるが、それでも大きい竜巻が森や山を削りながら扇状に突き進んでいるという異常な光景であった。
「竜巻六つって、精霊ってこんなこともできるの?!」
「ただの精霊じゃない、魔法の極致、頂纏魔法が使える魔将の部位を利用して生み出された邪精霊だ。不可能ではないだろうね?」
「そう、そうだ!!邪精霊だ!!この竜巻は邪精霊が作ったもんだ!!ということはそいつさえぶっ殺せれば他の竜巻も消せるはず!!あの邪精霊の居場所は分かんねぇのか?!」
「アトリエの記録から確認できた情報から、既に個別魔力は割り出してる!透明化してもすぐ探せる………!!
いた!!この右から2番目の竜巻、ここにさっきの邪精霊はいる!!」
ミストは映像の竜巻の内の一つを指さし、魔道具を映ってそれを可能な限り拡大させさらにそれを魔力のみを映す映像モードへと変換させると先ほどの風の邪精霊、イーウィニャの姿が確認された。
ミストは叫ぶ。
「この情報をヴォルフに送る!!あのジジイの艦隊なら竜巻も十分消し飛ばせる!!」




