参戦した者達
アヴィーラが腕を振るい砂煙を一気に弾き飛ばすと、その先には炎のドーム状バリアによって攻撃に耐えていたヨハンの姿があった。だが全く無事ではなく着ていた服はボロボロで体には無数の切り傷が生まれ膝をついて荒い息を吐いていた。また後ろにいたサラマンダーも先ほどと比べ蝋燭のような小さな炎となってしまっていた。
「………ムカつくぜムカつくぜムカつくぜぇっっっ!!!雑魚のくせに俺の攻撃くらって五体満足の無事なんて舐めやがってよぉ!!!」
「………ははっ、この状況で無事に見えるかね?手足が飛んでないだけで、内外問わずボロボロだ。正直もう帰りたいんだがね?」
「帰りてぇなら帰らせてやるよ!!ただし!!家じゃなくて生命の輪廻へだけどなぁ!!!!」
アヴィーラは体を屈ませて両腕を地面に付けるとそのまま地面を思いっきり蹴り上げ、疾風のごとき速度でヨハン目掛けて飛んで行く。
対してヨハンは最低限の回復魔法で応急処置をし、自分の目と下半身にのみ強化魔法を発動させ動体視力と下半身の敏捷性を極限まで強化させて、アヴィーラが放った超高速の殺人エルボーを紙一重で回避した。
(また躱しやがってぇ!!!だがもう魔力はガス欠寸前だろ!!次で死ねや!!!)
(サラマンダーの内臓魔力と私の魔力を併せたら大技の精霊魔法は出せて一発普通のは2発程度……ならば!!)
「断・風ッッッッ!!!」
「ぐっっ………がぁぁッッッ!!」
エルボーを躱されたアヴィーラは速度を殺して一気に急旋回をして振り向き、ヨハンに向かって腕の振りと共に風の刃をヨハンの背部に叩きこもうとするが、ヨハンも呼んでいたのかもう既に後ろを振り返っており、左腕を犠牲にしつつも胴体への風の刃の直撃を回避し右手をアヴィーラへと押し付ける。
「考えなしにゼロ距離攻撃かぁ?!!!意味ねぇんだよ!!!」
「意味ならあるさ………!!触れれたからね……!!!
スピリット・フレア・カースペイン!!!」
ヨハンが叫ぶように唱えると、先ほどの攻撃で切り飛ばされたヨハンの左腕が紫色の炎に変わりアヴィーラへと襲い掛かる。アヴィーラはすぐさま自分の体を風に変え回避した、のだが、紫色の炎はいつまでもアヴィーラを追跡し襲い掛かる。
「………これは、炎属性の………呪詛魔法か?!!」
「正解だ、花丸を上げよう……!!その魔法は君が死ぬか君に命中するまで一生追いかけてくるぞ………!!………まぁ万全の頂纏魔法の使い手相手には無意味かもしれないがねぇ………!!」
「………!!てめぇ………!!」
図星を突かれたかのように睨みつけさらに怒りを増したアヴィーラは紫色の炎から逃げるのをやめ、ヨハン目掛けて一直線に襲い掛かった。
体の重要部位を媒介に発動させた呪詛魔法を術者を殺した程度で無効化させることはできないことは当然彼も理解していたが、もはやそんなことは関係なく、こんな面倒なことをしたヨハンを殺さなければ気が済まないのであろう。
(………おそらく、弱っている彼でなお、呪い殺すのは難しいだろうが、それでも時間は大幅に稼げる。おそらく伝令は既に届き、ヴォルフ様達に届いているはず。
勝負には負けたが試合には勝てた………まぁそう納得しておくとするかね?)
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇッッッーーーーー!!!!!」
自分の死を受け入れ穏やかな顔で目をつぶるヨハンの首元にアヴィーラは鋭い剣のような貫き手を繰り出し、首を断ち切ろうとした、その時であった。
「アイギス・ギガプロテクション!!!」
「っっ?!!」
「?!!!ああっっ?!!なんじゃこりゃぁ?!!!」
荒々しい男の声が響きと共に、ヨハンの前方に分厚いバリアが出現し、アヴィーラの風を纏った貫き手を全面にひびを作りながら受け止める。突如現れたそれにアヴィーラはもちろん命を救われたはずのヨハンすら驚きを隠すことができなかった。だがアヴィーラは後ろから紫の炎が迫っていることに気が付くと、体を風に変えてその場はいったん回避し仕切りなおそうとする。
だが、地面に無数のライン状の光が出現し光り出すと、それらは物質化して地面から伸びアビーらの体へと纏わりつき彼を拘束する。アヴィーラはそれにも構わず風化して逃げようとするが、
「……どうなってんだ、どうなってんだぁ?!!風になってるはずなのに、拘束を外せねぇ?!!」
「………当たり前だ、それは魂を縛る結界。体が気化しようが外せるわけがないだろ?」
「ッッッ!!!」
突如上から聞こえた声にアヴィーラが顔を上げると、その先の上空にいたのは、
塗装を一切されていない機工龍に跨ったミストと、その後ろで立ち上がり特大魔力玉を掲げていたシンシアであった。
(なんだありゃ、鉄の………ワイバーンに、女が二人?!それに後ろのあの女の魔力量、属性!!)
「テメェらは、テメェらは一体なんだぁァァァァ?!!」
「………追放された出戻り魔術師と」
「どこにでもいる欠陥魔法使いだッッッ!!!プリミティブ・キャノン・ボール!!!」
二人の宣言の後にシンシアは拘束された特大魔力玉をアヴィーラに向かって投げ落とし、それと共にヨハンの呪詛炎もアヴィーラに命中、
大爆発を起こしつつ彼の体を二つの力が焼いていき、彼は言語化できないような絶叫を上げる。その最中に倒れていたヨハンであったがいつの間にか後ろに現れていたガイウスに米俵のように担がれ、ミスト達が乗っている機工龍が着陸していた場所に向かって運ばれていた。
「………なんで、逃げてないんだ君たちは………!!」
「あんなこと言って俺が逃げると思ってんのかオッサン!!それから口閉じとけ!!
まだあのバケモンはくたばってねぇ!!」
ドォォォォォォォォォォォン!!!
ガイウスの発言がトリガーになったかのように光の拘束が千切れ今尚、体を紫色の炎が焼きつつ鎧もボロボロとなりながらもアヴィーラは立ち上がり紫色の血をまき散らしながら、獰猛な獣の如く追いかけてくる。
「××××××××××××××ッッッーーーーー!!!!!!!」
(………怒髪天越えすぎてもはや言語能力を失ってるねぇ………!!)
(強化魔法使ってんのにこのままじゃすぐ追いつかれる……!!クソミストの奴なんであんなところに着地を……!!)
「ガイウス!!体反らせよ!!リミッター解除……炎の猛る獅子」
ミストの叫びを聞いたガイウスはほとんど反射的に走る方向を反らすと、そのすぐ横をミストの赤い指揮棒から放たれた獅子の形をした大業炎が通り過ぎアヴィーラへと襲い掛かる。
「そんな、そんなものがぁァァァァ!!!そんなもん効くかぁぁぁぁ!!!千・風!!!」
怒りの絶叫を放ちながらアヴィーラは腕を振るうと彼の前方に迫っていた獅子の爆炎に千本もの線が生まれその体を一蹴んで霧散させてしまった。邪魔を消し逃げたガイウスに追いつくための一歩を踏み出そうとしたアヴィーラであったが彼が一歩を踏み出した瞬間、
彼の頭部における右目の部分に、魔力刃を付けた小型の指揮棒が突き刺さる。
「ぐっっっがぁぁぁぁーーーーーー?!!!」
「タクトビット………不意打ち用に残していた最後の一本だ、使ってもらえたこと光栄に思いな。そして、
これで詰みだ。後はあのクソジジイにゆっくり殺されてろ、チンピラ魔将」
袖口から飛んで行ったタクトビットの煙をはたきつつ機工龍の近くにガイウス達が到着したのを見ると、コートのポケットからアトリエの鍵を取り出し自分を中心に魔方陣を形成させる。その魔方陣が転送魔法の物だと気が付いたアヴィーラは目に突き刺さったタクトビットを引き抜くこともせず、行かせぬと言わんばかりに飛び出すが、
既にもう遅く、転移魔法によりミスト達は消えてなくなるのであった。これにより村の跡地には怒りのあまり悍ましい叫び声をあげる、アヴィーラの姿しかなくなってしまった。




