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世界の事情その2

「……?!じゃあ待て、つまりミスト、お前は勇者の孫ってことか?!」

「孫じゃねぇよ。()()()()()()、そこの若作りしてるジジイの穢ねぇ血が4分の1も混ざってるだけ」

「おま、何言って……!!」


 相手は勇者、それも自分やキリアをおそらくあっさり殺せるであろう実力の持ち主である。そのような挑発をすればどうなるか、とただそうとしたがヴォルフは何も言い返さず、わずかに沈痛な表情を浮かべるだけであった。


(……そう言えばさっきミストは父さんたちの葬式にも来なかった、とか何とか言っていたな。………やっぱ見立て通り、ずいぶんとわだかまりがあるみてぇだな…………)

「ゴホン、それで勇者殿と一緒にいる姉ちゃ、……お嬢さんは?」

「はい、私は現在提督の秘書を務めさせてもらっています。サファイヤ・マリンハートと言います。どうぞご見知りお気をお願いします、ギルドマスター様。

 ………キリアさん、お久しぶりです」

「……は?私はあんたみたいないいとこのお嬢なんて知り合いにはいな………あ!お前……!

 あのぼんくら将軍の秘書官か……?!」


 最初サファイヤのことなど知らない、とでもいうような態度をとっていたキリアであったが、彼女の顔やスタイル抜群の体をジックリ見たことでやっと思い出した。

 2年ほど前に王立の魔法学園からの志願兵として数十人単位の卒業生たちがキリアが所属していた第四前線部隊に配属された。元はエリートだがどうだかは知らなかったが、所詮は温室で育てられた甘ちゃんの集まり、半分以上が最初の魔族との闘いで死に、残り半分も軍人として使い物になれたのは数人程度、大半は国に帰るか残っても雑務、ひどい時は上官の性処理やうっぷう晴らしに使われていた。

 そんな中、目の前にいたサファイヤは生き残り使い物になった内の一人であり、使える魔法も有用のためか将軍秘書官まで上り詰めたのであった。

 もっともキリアは魔法学園のエリート卒業生、という時点で最初から敵対的バイアスがかかっていたためか今までほとんど関わったことがなかった。それこそあの1年前、将軍から暴力を振るわれた自分を庇うため身を乗り出した時ぐらいであった。


「あの時は、本当にすみません。私よりも3つも年下のあなたがあんな酷い暴力を受けていたのに……止められなくて」

「いいよ別に。アンタ如きに家柄だけは良いあのボンクラを止めれるとは思えないし………あの出来事が教訓で軍も結局カスってことがよく分かった。………今思えばいい勉強料だったよ」


 そんなようには全く思えない不機嫌な表情のままそっぽを向くキリアに対し、サファイヤも何も言えなくなったのか顔を俯かせてしまった。この二人がギルドに乗り込んできたときとは別種の地獄のような状況にしびれを切らしたのか、グランゼフは話を切り出す。


「……それで!!お二人は一体どういう用件でここに来られたんですか?!見たところミストを捕まえに来たには思えない!!」

「……まぁそうですな。ではこちらの要件を。

 ……まずキリア。今人間と魔族の戦いはどうなっているか分かるか?」

「………私が所属してた部隊がボロボロに負けて敗走。侵攻されるが教会の聖女が生み出した高等結界で魔族を押しとどめているって状態でしょ?それぐらいは知ってる」

「そうだ。そしてその結界だが、



 後3年もしない内に崩壊すると予見された」

「「?!!」」


 ヴォルフの衝撃的な発言に流石のキリア、グランゼフの二人も驚愕に固まってしまう。もちろん最初は嘘だとでも思ったがこの二人は両方ともそういう嘘や偽りがあればすぐに気が付くことができる程度には勘が良い。だからこそ目の前の男が嘘をついていないと理解してしまった。しかしそれでもなお信じれない、信じたくないというのが本音だった。

 聖女の結界とはその当代聖女が自らの命と引き換えに貼る人間では最大クラスの防護結界である。その対応年数はおおよそ残りの寿命であり結界を貼った聖女が当時30代程度であったはずだから、少なくても後40年は機能するはずであった。それが崩壊する可能性を考えた時、ミストは僅かに額に汗を流す。


「結界が崩壊する可能性……大きく考えて3つ。

 1つ。現在結界の核になっている聖女が何者かに襲撃された。これはあの聖女・人柱・神様大好きクラブの教会が襲撃なんて許すわけがない。よって除外。

 2つ。聖女は元々病気か何かを患っていた。教会の神聖魔法があれば末期の難病すら治せる。というかそもそもそんな病気持ちを結界のコアにするはずがない。よってこれも除外。………となると、最後だが………信じたくはないね。




 3つ目………魔族の力だ強ければ強いほど効力が発揮される結界を、真正面から破壊できる魔族………魔王が出現した……!!」

「……ああ、私もそう思う」


 キリアの発言をヴォルフが肯定したことにより体感的に部屋の温度が数度単位で低くなるような錯覚に陥るが、それを否定するためかグランゼフははやる気持ちを押さえつつ質問する。


「………俺は見ての通り学校すらロクに行けてねぇ学のない男だ、だから聞かせてほしい。魔王ってのはそんなポンポン生まれるもんなのか?俺の記憶が正しければ提督殿、アンタが討伐した魔王が現れたのは大体50年前、その前に至っては200年前とかじゃなかったか?」

「正確には私の前の代の魔王は215年前だがね。……だがそうだ。本来魔王は魔族の中に一体しか存在せず、魔王がいなくなってから大体200年から500年単位に生まれるはずだ。

 しかし現実としてたった50年で新しい魔王が生まれ、結界に攻撃しその耐久を削っている……。はっきり言って有史始まって以来の一大事だ」

「………話が読めないね。今人類が絶滅のピンチだってことはよくわかった。でもなんでそれが私を探す用になる?まさかこの原因を作った私を王や貴族に差しだそうってか?」

「そんなくだらないことに時間を費やすほど人類に時間は残されていない。……サファイヤ」


 はい、とサファイヤが言うと彼女は空間に一本の線を生み出すとそれを裂き、生まれた黒い窓に手を突っ込んでいくつかの書類を取り出すと、それをキリアの方へと渡す。そこには、こんなことが書かれていた。


 キリア・カラレス


 教会の神託により貴公を、魔王討伐隊候補として推薦する。


 案内人と合流した後、王城へと行くように。


 人類統一国家 国王 コクケン・ラックリバー


 追記、貴公の真暦1×64年における軍品窃盗の容疑並びに軍人3名の殺害の罪は


 魔王討伐隊候補、並びに正式に討伐隊に入隊している間、全て不問とする。


 また、戦争での戦果に応じて罰の軽減、免除も検討する。

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