頂纏魔法使い
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一方その頃ワイバーンの根城と化した村。そこは現在建物や地面が崩壊し、人間とワイバーンの血の匂いが充満した現世でありながら地獄に近い場所と言っても過言ではなかった。そんな場所で今とある二体の魔の存在による戦いが行われていた。否違った、
一方的な残虐行為が行われていた。
『グルぅぅぅぅぅ…………!!!』
「右翼、脚、目玉がなくない。体から血がでまくってボロボロ。ほっといたって半日足らずで死ぬ瀕死状態。…………そんな状態で俺に噛みつこうって時点で憤死もんなのによう……!!
ダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラぁっっ!!しつこくしつこくしつこくしつこくしつこくしつこくぅ!!立ち上がってきやがってぇ!!!トカゲのくせに何様のつもりだぁ?!ああ?!!」
アヴィーラは刃のように鋭い足で地面に倒れ伏しているボス個体を踏みつけ貫く。ほんの1分ほど前にボス個体はここに到着し標的をアヴィーラに変え、残る力全てを使い彼を殺そうとしたが結果として10秒と戦いにはならず叩き伏せられ、彼の怒りを収めるためのサンドバックとして痛めつけられていた。
アヴィーラはワイバーンの首を掴み自分の顔近くまで持ち上げて怒号を吐き散らす。
「いいか、テメェら魔物も魔族も大魔族も!!そして俺のような魔将も!!全て魔王様のためにその命を使うべきなんだ!!俺に従え、と言った時!!テメェらが言えた言葉は『はい』か『イエス』だけだったんだよ!!
聞こえてんのかぁ?!!ゴラァ!!!」
もう死にかけていたボス個体の反応がほとんどなかったことに腹を立てたアヴィーラは、ボス個体をわずかに原型を残っていた倉庫に目掛けて投げつける。そこまでの暴虐をしたことで彼もやっと落ち着いたのか、アヴィーラがさっき片手間で殺した討伐隊の死体を損壊させながら調べ始める。
「こいつらの格好、たしか冒険者だとか軍だとかの組織に所属してる連中が来てる服か……。こいつらがここに来たのはトカゲ共を殺すためか………。魔将ならともかく人間如きじゃワイバーンを殺すためにはもっと数がいるはずだ………。探・風……!!」
アヴィーラが握りしめた手を開くと、そこから風を生み出し、全体へと拡散されていく。これは彼の風を媒介とした探知魔法であり半径50kmにいる全ての魔力を持つ存在を把握することができる。
これによりアヴィーラは撤退した討伐隊や難民キャンプがある拠点を発見したのだが、そんなものかすむほどのとある存在を見つけてしまった。
「…………なんだぁ、なんだぁぁ?!!この魔力はァ?!!!俺より、いやぁ、魔王様より高いだとぉ?!!しかもこの魔力、生命の魔力……!!!カマルテ様を倒した勇者と同じィ………!!!!
ざけんじゃねぇぇ!!!存在自体許せねぇ!!!ぶち殺してやるっっ!!!」
アヴィーラはしゃがみ自分の体に旋風を纏わせると全てを破壊し一直線に目的地に飛んで行くための魔力を貯めていく。
目的地はただ一つ、探知した莫大な魔力の発信源、シンシアの元。だがしかし、
それをこの男が許さなかった。
「悪いが、未来ある若者の元には行かせられないね?精霊顕現、サラマンダー!!
スピリット・フレア・バーンアウトッッ!!」
移動魔法により到着し、状況が動くまでアヴィーラから距離のある瓦礫の後ろに潜伏していたヨハンは、ついに飛びだし手のひらを彼へと向ける。それと同時に目玉付きの火の玉サラマンダーが彼の後ろに現れ赤い管をヨハンへと接続し魔力を供給。その結果、
莫大な魔力がヨハンへと流れ、極太の大爆炎がアヴィーラへと放たれ着弾するのであった。
(スピリット・フレア・バーンアウトは魔力に引火する特殊な炎、一度着弾すれば最後その物質が燃え果てるまで燃やし続ける、これで………!)
「……なんだぁ、この不快な炎は、よぉッッッ!!!」
決して消えないはずの炎、しかしそれは暴風によって吹き飛ばされ霧散してしまう。爆炎の中にいた中にいたアヴィーラの鎧には一切の焦げ跡すらついていなかったが、彼は怒りに満ちた視線を生きたり飛び出したヨハンへと向けた。
「ノーダメージか……全く本当にふざけてるね魔将って奴は……!!」
「おいッッ!!勝手にしゃべってんじゃねぇよぉ!!てめぇ、ナニモンだぁ!!!」
アヴィーラは右腕に旋風を纏わせるとそのまま引き絞り、右こぶしをすさまじい勢いで突き出して腕に纏った大旋風をヨハン目掛けて発射する。対してヨハンは自分の前に4つの炎の壁を生み出し攻撃を防御しようとするが、大旋風はあっさりと炎の壁を貫いていく。
しかし、ここまではヨハンの想定通り。
「受け止められないことなど分かっていたさ!!スピリット・フレア・ミラージュランナー!!!」
ヨハンが唱えると彼の脚に炎でできたブーツが装着されると地面を蹴り抜き大旋風を回避、そのままアヴィーラの周りを走り速度を上げていく。アヴィーラは苛立ったように唸り声をあげると自分の周辺に10個の竜巻を出現させると、それを自分の周囲に拡散するように放った。
竜巻はそれぞれ軌道こそバラバラであったが、ある竜巻はターゲットであるヨハンを追跡し、また別の竜巻は逃げ道を奪いつつ挟み撃ちをかけようとしていた。
しかしヨハンは魔法によって強化した脚力によって竜巻と竜巻の間にできたわずかな隙間を通り攻撃を避ける。さらに魔法の効果によって生まれた彼に追従する無数の残像と共にアヴィーラを翻弄する。
「ああああぁぁぁぁぁッッッ!!!うっっざってぇぇぇぇ!!!さっさと死ね!!!翔・風!!!」
自分の攻撃をギリギリとはいえ避けられ続けていることに激怒したアヴィーラは再び地面に腕を突き刺し魔力を流すと地面に亀裂が入り下から凄まじい勢いの上昇気流が発生しヨハンを陽炎の分身ごと上空へと吹っ飛ばす、はずであったが。
「その攻撃は、もう見たっ!!自・重!!」
ヨハンが唱えると彼の体に黒色のオーラが纏わりつき、彼の体を重くし敵を確実に吹き飛ばす上昇気流に強引に耐える。当然かなりの負荷がかかりヨハンは苦悶の表情を浮かべるが、それでも戦闘に意志は消えておらず上昇気流が収まりアヴィーラが腕を引く抜こうとするタイミングで今度は自分の体を極限まで軽くし、残っていた炎ブーツの力を振り絞って急加速、
アヴィーラの鎧腹部に触れることができた。
「体に風を纏わせて攻撃を散らしたんだろうが………この距離なら、そんなことはできないだろう?!!
スピリット・フレア・バーン………!!!」
「ッッッ!!!」
ヨハンが必殺の精霊爆炎を放とうとしたその時、突如アヴィーラの体が霧散してしまう。まだ自分の攻撃は当たっていない、それにもかかわらずさっきまで目の前にいたはずのアヴィーラ魔力反応生体反応が完全になくなり、そして。
自分の真後ろに強烈な怒気と共に一瞬で現れていたのであった。
「……!!なっ………?!」
「………エンニル・デュアル・サイクロンッッッ!!!!」
ヨハンが反応する前にアヴィーラは詠唱と共に両腕を同時に突き出し、そこから発生した黒い特大旋風をヨハン目掛けて発射する。旋風が着弾すると大量の砂煙が舞い上がった。
その旋風は先ほどまでとは威力が桁違いであり、当たった地面はあっさり塵と化しておりもしこれが生物に当たったとすれば………生存は絶望的、というかまともな死体が残っていれば奇跡であろう。
「………俺は頂纏魔法エンニルの力で、魔法を拡張し俺自身の体を風にすることができる。だからどんな攻撃だって反射的にでも反応できれば、気体化して全部回避できる。………どんな方法か知らねぇが、俺の手の内の一つを知ってたぐらいで、俺に勝てるなんざ思ってんじゃねぇよ!!!!
オラ、死んだフリしてねぇでさっさと立てや!!!」




