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憤怒の魔将 アヴィーラ

 ミストは目の前に映っている凄惨な映像を見たことで早くなっている鼓動を抑えつつ、魔導具を操作し映像を異常がある前に巻き戻す。その時間はおおよそ2分前、ちょうどあの悪寒を感じた時間とほぼ同じであった。

 それまでは自分達に危機が迫っているのか分からないワイバーンの幼龍達がのびのびと過ごしている様子であったが、突如それに冷や水を浴びせかけるような怒気に満ちた粘着質な声が響く。


『こんなところにまで逃げてたのかよ、このトカゲ共………あぁ、

 イライラするぜぇ………!!』


 声が響くと共に上空に一人の男性が出現し、潜伏していたシーカースパイダーのレンズはその男性の方へと向けられていた。

 その男性はツンツンと逆立った黒いメッシュが入った紫色の髪を持ち、赤い目玉の意匠が複数入った衣服を身に着けていた。またその肌は青色、背中には蝙蝠の様な翼が生え、尾骨辺りからトカゲを思わせる尻尾が生えていた。

 そんな異形の男性は鋭い三白眼の瞳を細めて自分の姿に驚きパニックになっている幼龍を睨みつけると手を合わせ詠唱を唱える。


『頂纏魔風魔法……エンニルッ!!』


 そう唱えた男性の周りに魔力の旋風が生まれ、彼を包み始めると風は物質化していきそれと同時に彼の体に張り付き、一回りほど大きくさせていく。最終的に彼の体は先端に行くにしたがって鋭く尖っている長い手足と鳥の嘴を思わせる頭部が特徴的な、骸骨を模した鎧に身に着けた細身の怪物の姿へと変貌させる。

 そうして変貌すると彼は右腕を上に掲げ、剣のような右腕に鋸のような刃を持った旋風を生み出し、それを幼龍達に向かって放とうとする。がその時、彼は振り下ろそうとした腕を止め彼から見て右方向、村の入り口がある方へと顔を向ける。そこには村に到着し遠目からこちらのことを観察していた討伐隊別動隊の姿があった。


『あれは、クソ人間の魔法使いども……!!こんなところで会うなんてよぉ……!!

 翔・風!!!』


 男性は浮遊を解除しそのまま地面へと着地すると共に旋風を纏った右腕を地面に突き刺す。すると地面が盛り上がり凄まじい風が吹き出して幼龍達だけでなくこの場から撤退しようとしていた討伐隊の面々も10m近く上空へと吹き飛ばす。いきなりの出来事に半分以上の討伐隊は対応することができず、上空から地面に叩きつけられ体から血をまき散らして命を散らしていく。間一髪で強化魔法を発動させ、命を守った者達は異常な状況を認識しほとんど示し合わせもなく村の出口から逃げようとする。が、


『逃がすわけがねぇだろうがよぉ……!!』

「な、なんで……なんで魔族がここに………ゴブッ?!!」


 村制圧隊を任せられていた冒険者ギルド責任者は、目の前の以上に対し叫ぼうとするが、その前に男性の剣のような腕が彼の胴体に突き刺さり彼の命をゴミのように刈り取る。しかしそれに対し男性は一切の良心の呵責がないのか、腕を引き抜き彼の体を地面へと倒すと、そのまま何度も鋭い足で突き刺すように

ギルド責任者の体を破壊していく。


『俺様を、まぞ、魔族、魔族だとぉッッ!!こん、こんな侮辱を受けたのは20分ぶりだぁッッ!!!絶対に赦さねぇ!!!俺様を誰だと思ってんだぁ、ああぁ?!!!

 魔王様に仕えし8人の魔将、憤怒のアヴィーラ様だぞぉぉ!!』



「もういい!!!やめろッッ!!!」


 映像を見ていた4人であったが、ガイウスはついに限界になったのかミストの手を叩き、映像再生の魔道具をその手からは落とした。かなり乱暴なやり方ではあったがシンシアは口元を両手で押さえ涙を流しながら恐怖に耐えていたため何も言うことができず、叩かれたミスト自身も目の前に起こっていた状況に何も反応することができずただ黙るのみであった。

 唯一ヨハンは心を落ち着けるように、深呼吸をした後話をまとめる。


「………現状を整理しよう。現在ワイバーンの根城になっていた村には進化した大魔族、魔将………しかも自身のことを魔王の直轄と名乗っている個体がいる、という事だね?」

「んなことはどうでもいいんだよ!!なんでこんなところに魔将がいる?!聖女の結界はどうした?!」

「………おそらく結界発動前に人間界の内側に入っていた個体だろう。ただ、この結解の中でも魔将はかなりの魔法制限を受けるはず。それなのに頂纏魔法まで使えるとは……」

 

 ガイウスの叫びに対し、ヨハンも苦虫を噛み潰したようにそんなことを言うことしかできなかった。

 映像を見る限り、さっきの魔将、アヴィーラが弱ったり力が制限されているようには見えなかった。今の面子、状況では討伐隊全員でかかって相打ちに持ち込めれば御の字、全滅する公算の方がはるかに高い。

 ヨハンは代表するように宣言する。


「………諸君。私が殿になる。提督、聖騎士長、七聖徒第1席に連絡後、散りじりになって撤退してくれ」

「…………」

「よ、ヨハン様?!」

「何いきなりほざいてんだ。逃げろだ?あんたを犠牲に?!」

「ああ、そうだ。正直なところ頂纏魔法を使える相手に長時間時間稼ぎができるのは私しかいないだろうからね。言っておくが別に君たちのことを軽んじているわけではない。むしろ君たちのことは高く評価している」


 ヨハンはミスト、シンシア、ガイウスをそれぞれ目を移しながら語りかける。


「………君たちはこの国が尊ぶ魔法使い像とはどれも異なる。だがそんなものは関係ない、誰かのために傷つき闘える君たちは大魔法使いだの宮廷魔法使いだのより、よっぽどこの国に必要だ。………何、心配はしないでくれ。

 君たちが逃げ切り、提督たちが来る時間ぐらいまでは稼ぐつもりさ」


 そう言い終え踵を返した途端、ヨハンの足元に魔方陣が出現し彼の体をガイウス、シンシアが止めようとするよりも先に射出、村の方へと飛ばしてしまった。

 ガイウスは怒りと悔しさを込めて地面を殴りつけ、シンシアはボロボロと涙を流し座り込む中、ミストは地面に落ちていたシーカースパイダーの映像受信機用魔導具を拾い上げ何かを操作しつつ黒コートの胸裏ポケットから手のひらサイズの水晶を一つ取り出した。


「かっこつけないでよね、オッサン………!!」



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