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龍、墜落

 仲間たちの死にざまを見たボス個体はしばらく翼をはためかせ滞空していたが、血走らせた瞳から血を吹き出させつつ悍ましい咆哮を上げると彼の体から黒炎が噴き出して、体を包んでいく。

 黒炎がボス個体の体をすべて包むと炎はどんどん膨張していき最終的には本来の体より3回りは大きい飛竜を象った黒炎の怪物が顕現するのであった。

 その姿には正面から対面していたミスト達はもちろん、地上にいたガイウス達も焦燥の汗を流す。


「……今更聞くけどさ、ヨハン。アイツなんて言ってるわけ?」

「……私のスキルで翻訳できるのは、私に警戒心以下の感情を抱いている存在に限られる。……アレの言葉はさっぱり翻訳できないしそれにさっきも言ってただろう?

 あれにはもはや私達への怒りと殺意以外の感情はないだろうね……!!」

「ど、どうするのミストちゃん?!攻撃する?!」

「いや、まずは時間を稼ぐ!!二人とも全力で防御しろよ!!」


 そう言いつつミストは右前腕部に残していたホルダーから4本のタクトビットを射出し水のバリアを纏っている機工龍の周りに配置しそのまま上空へと飛びあがる。それと共に炎龍の化身となったボス個体は翼をはためかせて、飛び上がる。

 熱と威圧感により動けなくなっていた討伐隊の面々であるが物理的の距離が離れたことで動けるようになるのを確認するとガイウスが動く。


「お前らぁ!!!あの怪物を見て『ぜってぇに生きて勝ってやる!!』って思えねぇ奴以外!!今すぐ逃げろ!!気持ちで負けてれ奴らなんざ頭数にもならねぇ!!」

「残る者はそこの脳筋猿の後ろで魔法を貯めて待機を!!作戦タイミングが来たらあのワイバーンを撃墜させます!!

 巫女様は逃げる者達の撤退の先導と、提督への連絡をお願いします!!」

「………!!分かり、ました……!!皆さん、こちらです!!」


 暗に撤退しろと言われたメーリルであるが、今の状態では肉体的精神的に考えても足手まといにしかならないことは彼女自身理解していたのか、反論はせず声を張り周りの討伐隊が撤退するための道を土魔法を使い切り開いていく。

 最初討伐隊の面々は面子を考えてか中々動けなかったが教会トップの聖女の娘にして勇者候補のメーリルから撤退を促されたことで大義名分を得たのか大勢の者達がこの戦場から逃げだしていき、最終的は10人にも満たない人数しか残らなかった。

 だがガイウス達はそれに対し特にいう事はなく、自分の近くに集まってきた隊員たちを見ると不敵に笑う。


「よし、おめぇらよく残ってくれた!!テメェらの命、このガイウス・ラックリバーが預かった!!

 ぜってぇに勝つぞ!!」

『おおぉぉぉ!!!』

「……御姉様……!!」


 ガイウスの声に反応した面々が己を鼓舞するように声を上げる中、ルイスは磁力によって砂鉄を掌に集めて圧縮させていき魔力を込めていきながら上空で逃げながら戦うミスト達の方を心配そうに見る。彼女達の姿を見ると、作戦を無視して今すぐにでも助太刀したい気持ちになるがぐっと我慢して魔力を貯め続ける。

 全員生き残った上で勝つ、完全勝利を得るために。



 一方ミスト達の陣営は炎のボス個体に対し逃げつつも後ろのシンシア、ヨハンの二人が牽制攻撃を加えていた。


「キャノン・スピア!!」

「スピリット・アクア・スパーダ!!」


 シンシアは右人差し指から放たれる全てを貫く魔力光線を放ち、ヨハンはウィンディーネが生み出した4本もの水の大剣をボス個体へと飛ばす。超高密度超膨大魔力のレーザーに精霊の力が宿った大質量の水魔法、本来であればどんな敵でも倒せるスペックの暴力のような魔法攻撃であるはずだが、炎のボス個体は彼らを丸呑みできるほど大きな口を開くと、そこから高密度の熱線を放ちヨハンの水の大剣を蒸発させてしまう。シンシアのレーザーは一応熱線炎のボス個体の体も貫通するが一瞬体が散るのみですぐに再生されてしまった。


「まさか得意属性で攻撃しているにも関わらず、ほぼノーダメージとは……!!」

「スピアなら貫通はできるけど、本体に当てないと意味がない……!!」

「点と線の攻撃じゃ意味はない、そのぐらいのことはあれを見ればすぐにわかる……。だとすれば私達がするべきは……!!」


 空中で逃げていた3人であったが、その時ミストは地上から光による信号を確認しそちら側に目をむける。その先にはガイウスが通信魔道具の発光装置を使ってこちらに準備完了の合図を出していた。


「よし!シンシア、ヨハン!!逃げる時間は終わりだ!!さっき言った通りに!!」

「分かってるよ!!アタシ達の最大威力……!!ここで全部ぶつける!!」

「ぶっつけ本番か……本当に、やれやれだねぇ……!!」


 合図を受け取ったミストは機工龍を操作し一気に加速、炎のボス個体から一気に距離を離したと思ったら、つばめ返しのように上空に旋回しながら急接近し、炎のボス個体の真上を取った。

 更にそれとほぼ同タイミングで、シンシアは右手に付けていたボルトレッド・グローブを脱ぎ捨て、腕を大きく振りかぶると、彼女の手の先に巨大魔力の玉が出現する。

 ミストが作ったシンシア専用魔導具、ボルトレッド・グローブは魔力放出に指向性を与え魔法戦の素人であるシンシアでも制御できる代わりに、魔力を抑制する副作用がある。つまり外せば制御や細かい使い方はできないものの、本来の原始的な破壊者としてのシンシアの力を100%使うことができるようになるのである。

 そして、それは今放たれる。


「これが、アタシの全力!!プリミティブ・キャノン・ボール!!!」

『?!!■■■■■■■■ッッーーー!!!!』


 シンシアが生み出した炎のボス個体の頭部ほどの大きさの巨大な魔力玉は、炎のボス個体の背部に直撃し、黒炎の姿になってから初めて悲鳴らしい悲鳴を上げた。しかし魔力玉を体にめり込ませても炎のボス個体は耐え、首を動かし大口を広げ、射線の先にいるミスト達を狙い撃とうとする。だが、


「悪いが、そうはいかないねぇ……!!スピリット・アクア・メタモルフォーゼ!!」

『■■■■■■■■ァァァーーー??!!!』


 ヨハンが唱えた瞬間、シンシアの魔力玉が赤金色から真っ青な色に変化し炎のボス個体の体を削って行く。

 精霊水属性魔法、スピリット・アクア・メタモルフォーゼ。魔力の属性性質を変化させることができる特異な魔法。基本的に魔法の術式構築が甘い格下の相手にしか効かない魔法のため、ヨハン的にはあまり有用な魔法ではないのだが、ヨハンよりも瞬間的な火力を出せるシンシアと組み合わせれば、


ジュゥゥゥゥゥーボォォォォッッッン!!!!


 どんな属性魔法防御もぶち抜く、最強の一撃に変わり、炎のボス個体の体を貫き、大量の水蒸気を周りに巻き散らすのであった。


「やったっ?!」

「!!いや、まだだ!!」


 爆散し吹き飛んで行った炎のボス個体の頭部の口がこちらを向き開くと、そこからボス個体本体が風を纏って飛び出してくる。それを察知したミストは機工龍の操縦桿を操作し起動を反らしつつ展開していたタクトビット4つを操作し、自分達の前方にボス個体が飛んであろう方向にバリアを展開させる。

 だがボス個体はそんなことお構いなしに正面衝突してバリアに激突、彼の体から骨が割れる音が鳴るがそれに構わず体を押し込んでいきバリアを突破し、さらに機工龍を覆っていた水の膜も風の刃で切り裂いてしまった。そして、

 体中をボロボロにしながらボス個体は機工龍の翼に噛みついてきた。その目は生物とは思えないように狂っておりその視線を受けたシンシアはもちろん百戦錬磨のミストやヨハンすらも大小はあれど恐怖で硬直してしまう。

 ミストは顔を引きつらせながら、口を開く。


「………潔く、認めてやるよ。お前の勝ちだ。私ひとりじゃ、私達3人じゃお前に敵わない……!!

 たった、三人、だけならなぁ!!!」


 ミストが叫ぶと機工龍の尻尾がボス個体の体に絡みつき一瞬動きを止める。その間にミストはシンシアを抱きかかえヨハンと共に機工龍の体から飛び降りる。

 それが合図であった。


「!!!今だぁ!!撃てぇぇぇぇ!!!」

「……展開、マグネ・ギガターレット………!!」


 機工龍により動けなくなったボス個体と機工龍の背から脱出したミスト達の姿を見たガイウスが声を張り上げるとルイスは今までために貯めていた魔力と磁力を解放し一瞬にして四本の衝撃吸収用の脚を装備した黒い巨大の砲塔を製造する、そして照準を併せられた砲身は紫電を纏っていき、


「………エレクトロマグネ・レールガン!!!ファイヤァァァ!!!」


 ルイスの声に反応して轟音と紫電交じりの衝撃波をあたりに放ちながら超硬質超大口径の徹甲弾を発射。その徹甲弾は速度をどこまでも上げていき、そしてやっと機能停止した機工龍を引きはがしたボス個体が気が付いた時には、彼の右翼に直撃し大爆発を引き起こし、


 怒りに燃えていた若きワイバーンと魔術が作った絡繰り仕掛けのワイバーンは、体をバラバラにしながらすさまじい勢いで地面へと撃墜していくのであった。



 

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