精霊の大魔法使い ヨハン・フィシテウス
機工龍へと再び乗ったミストの掛け声とともにシンシアとヨハン後ろに座ると、機工龍は飛び上がりボス個体と同じところにまで上昇する。
それと共にボス個体は咆哮を上げ周りにいるワイバーン達を指示、ミスト達を囲まさせる。
「も、もう取り囲まれちゃった……!!」
「まぁ絶対的な指示役が戻ってきたんだから当たり前か。それに対して向こうは私が連れてきたことに喚く輩やビビる奴ばかり。士気の差は歴然だね。………だけど」
「ああ、最大のネックであった射程の問題はこれで解消された。さらにここまで地上から離れれば、巻き込む心配もない。
ミスト君、シンシア君。ボスの方の防御と回避、迎撃を頼む。残りは全て私達が狩る」
「………じゃ、お手並み拝見と行くか、宮廷魔法使い殿……!!」
ミストの指示で機工龍がその場から急上昇すると、ボス個体は体に炎を纏わせてそれを追跡し、他のワイバーン達は一部、下への注意を払いつつも翼に旋風を纏わせ、真空刃をミスト達に向かって放った。
ミストが操る機工龍は複雑な軌道で真空刃の魔法攻撃を躱すが、ボス個体は躱すそぶりを一切見せず、そのまま直撃してしまう。だが炎を纏ったボス個体の子らだを真空刃は斬らず、逆に風を吸い込んでさらに燃え上がらせたのであった。
基本4属性魔法、火水風土にはそれぞれ有利不利関係が存在する。火は己を消し去る水に弱く、水は己を吸い込む土に弱く、土は己を吹き飛ばす風に弱く、風は己の力を食らう火に弱い。
有利な属性相手には多少実力差があったとしても優位に戦いを進めることができるが、逆もまたしかり。今回ワイバーン達が自分達へと放った真空刃を利用する形で取り込み、ボス個体は自身の炎を強化したのであろう。
(牽制攻撃をしつつ自身の攻撃力の増加………本当にとんでもないワイバーンだ、天然の戦闘勘なのか、それとも……。)
「まぁいいさ、全ての疑問はこの場を制圧した後でゆっくり調べればいい。君たちの魔法属性は火と風、なら彼らの出番かね?おいで、サラマンダー、ウィンディーネ!」
高速飛行しながらもしっかり機工龍に乗れていたヨハンが指を鳴らすと彼の周りに紅蓮の燃え盛る人魂と深い青色の水球が出現し、さらにそれらの中心にはそれぞれ目のようなパーツが生まれ、自分達を呼び出したと思われるヨハンへと向けられる。
[*************………]
[*************………]
「ああ、分かったその契約で行こう。頼んだよ?」
人魂と水球はそれぞれ燃え盛る炎の音と水の中で生まれる泡の音を鳴らし、ヨハンがそれを了承すると人魂と水球から魔力でできた一本の管のようなものが出現しヨハンの体に接続される。するとヨハンの黒色の瞳が赤と青が不完全に混じったような色彩となる。
「それでは始めようか………!!スピリット・アクア・ヴェール!!スピリット・フレア・サーペント!!」
ヨハンが略式詠唱を唱えた後、大量の水が出現したと思うと機工龍の周辺に展開され、さらに機工龍を軸として螺旋回転をし始める。シンシアは人魂と水球の登場からの出来事の連続に困惑する中、ミストは何かを感じ取ったのか回避行動をやめて旋回し、真っすぐ直線にこちらへと向かって行くボス個体目掛けて突進し両者衝突、一瞬の鍔迫り合いもなくボス個体が吹き飛ばされるのであった。
『グゥゥゥ………!!』
墜落しかけるボス個体であるが、自分の翼に風を纏わせ強引に姿勢を制御し地面にぶつかる云ことは回避するのであった。
だがそんなことは許さない、とでも言わんばかりに今度は機工龍を纏う水の螺旋膜の周辺に10個の火球が生み出されるとそれらは炎の蛇に形を変えボス個体たちワイバーンに襲い掛かる。ワイバーン達は当然逃げるが炎の蛇は一切速度を落とさずに追尾していきその蛇の顎がワイバーンの体に噛みつかれた次の瞬間、
尾が導火線のように頭部へと集まっていき、大爆発その体を弾けさせるのであった。今の一撃によりワイバーン10体が爆死。攻撃を受けなかった周りにいた個体も爆発に巻き込まれ墜落、戦線復帰しようとするも下にいた討伐隊メンバーの集中砲火を食らい息絶えるのであった。
結果あれだけいたワイバーンの群れは全滅、残りはボス個体を残すのみとなった。
「な、何が起こったの………?!さっきの魔法は……!!」
「私が勇者紋によって得たスキルは翻訳。その力で私は生物無生物関係なく声を聴きコミュニケーションを取ることができる。その能力を応用し私は自然の存在、精霊とコンタクトを取って一時的に力を貸してもらえるようになったのさ。今回呼んだのはサラマンダーとウィンディーネ」
精霊。それは自然が生み出した魔力が集まり出現したいうならば「意志と命を持った魔法現象」と呼ぶべき存在である。それらが使う魔法はまさしく自然災害そのものであり 地域によっては教会が信奉している神以上に神格化されている存在なのである。
本来はその言葉を理解することはできない、どころか言語法則すらつかめていなかった存在をミストは流し目でちらっと見る。ヨハンに接続されている人魂と水球、否サラマンダーとウィンディーネはミストとシンシアの姿をジロジロと見比べていた。
「………じゃぁこいつらが火の精霊サラマンダーと水の精霊ウィンディーネ……。伝承とはずいぶん形が違うけど、今の魔法の威力なら納得できる。………というかお前、私来なくても普通に勝てたんじゃ……」
「それは少し難しいね。流石に地上から超上空まで距離を離されていたら確実に着弾するかは厳しいし、立体起動戦は不得手でね。………まぁ正直に言うと勝率に低い行いに私の命を無駄にベットしたくない、っていうのが本音かな?」
「ハッ、王国を守る大魔法使いのトップ中のトップ、宮廷魔法使いが言っちゃならない台詞でしょそれ。……ま、あんな国のために命かけるなんて私もまっ平だけど」
「ええ………二人ともそういうの言うのはやめない……?そりゃ、悪いところもあるけどさこの国……」
「こちとら何回迫害されてると思ってん……とおしゃべりはそこまでだね
どうやら敵の怒りは頂点を超えたみたいだ……!」