表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/79

鋼の龍と赤き彗星


【………という訳だ。全員ミストさんが帰って来るまでは生存と牽制を優先。彼女が到着した後は臨機応変に対応する。後これは一方的な通話なので返答はできないからそこのところは注意してね?】

「ちょ、ちょっと待ってください!!ヨハン様!ヨハン様!!………くそ、切りやがった……!!」


 討伐隊全体に先ほどのシンシアが話した内容と同じことを一方的な通信魔法で話す。当然いきなりの情報に討伐隊の面々は焦り困惑するが、曲がりなりにも彼らは全員が実力者、先ほどの指示通り牽制をしつつ時間稼ぎのための戦術に切り替える。

 だがそれでも腹立たしいのか最前線で張っていた討伐隊指揮官は魔法で射撃隊をガードしつつ怒りの形相を取る。


「………くそ、キリアの奴しくじりやがって………!!」

「……これはどう見ても統一軍の責任だな。予定通り戦略級魔法さえ使えばこんなことには……!!」

「お前達だって飛竜の群れの規模を聞いて戦略級魔法を使わないことには納得しただろうが!!蒸し返すな!!」

「いい加減にしてください!!我々がこんなところで言い争っている場合では………!!来ますよ!!」


 討伐隊指揮官と魔法連責任者が言い争う中、教会責任者が魔力の高まりに気が付き声を上げる。はるか上空では3体のワイバーンが列を連ねて滞空し、その内中心にいた1体が口に火を生み出すとそれを火球のようではなく扇状の炎を放出するように放った。さらにサイドにいたワイバーン達が翼に風を生み出すと炎は風を吸い込んでその火力を上げていき、全てを燃やしかねない業火に姿を変えるのであった。


(彼らもギアを上げてきたか!!)

「巫女様は後方部隊を!!私は前線部隊をカバーする!!シンシアさんは魔力供給!!水・防!!」

「了解です!!アース・ドーム」

「分かったよ!!」


 ヨハンの指示の元、彼ら3名は一気に動く。ヨハンは前方の部隊の頭上に水の防壁を生み出し、メーリルは半円球の土壁を生み出して自分達含めた後方の部隊を覆い、業火からその身を守った。当然ここまでの規模のためか二人ともかなりの魔力を消費したが、そこに関してはシンシアがすぐさま回復させる。そのため魔力消費自体は結局プラマイゼロなのであるが、大規模な魔法の行使には体力も相当数奪われる。そのせいかメーリルは、ついに息を切らし始め錫杖で体を支えなければ立位を保てない状態にまで追い込まれていた。

 またそんな彼女とシンクロするように土壁もひび割れ砕け、塵に帰っていき、討伐隊にかけていた魔力、身体強化魔法が解けてしまう。


「これは………巫女様の強化魔法が消え……きゃぁ!!」

「巫女様!!早く魔法の力を……!!」

「クッ!!不味いねぇ……崩壊一歩手前だ……!」


 メーリルによってはかされていた能力の下駄が消えたことにより、自分達の魔法ははるか上空にいるワイバーンには届かず、逆にワイバーンが放つ火球や火炎放射、真空刃の魔法を受け止め切ることができず、戦線が崩壊し始める。

 ヨハンは展開していた巨大な水壁を分割させるとそれを自由自在に動かし、できる限りの攻撃をガードしていくが、それでも戦線はあと2分足らずで、崩壊するのは目に見えていた。


「………早く、強化魔法を、張りなおさないと……!!」

「メーリル様!!あまり動いちゃだめだよ。もう少し息を入れないと……!!」

「そんなことをしている、暇はありません………皆が、巫女である私を待っています。ならば立たなければ………!!!」


 とメーリルが顔を上げたその時、彼女の視線の先はるか上空には3体のワイバーンが横1列に並ぶ、先ほどと同じフォーメーションを取っていた。さっきの業火攻撃が来る、そして今の状況では放たれる魔法を防御しきることはできない。

 確実にそう少なくない人死にが出る。そう確信した時、メーリルの手から錫杖が滑り落ちそれと共に彼女は膝をついてしまう。


(だめだ……このままじゃ、討伐隊が、教会の皆様が死ぬ……私のせいで……!!)

「「ッッ!!」」


 半ば放心状態となってしまっているメーリルの前にシンシア、ヨハンが立つ。シンシアは付けていたレッドロック・グローブを外し魔力の放出制限を解除、ヨハンも超遠距離魔法狙撃で牽制しつつワイバーン達の攻撃タイミングを潰していく。


「かなり疲労がたまっていたようだね……!済まない……!一先ず君は下がりなさい、君がもし死んだら聖女様に顔向けできなくなってしまうからね!」

「ですが…………!!」

「………大丈夫、メーリルちゃん。万が一の時はアタシ達があなたを守るけど、正直、そこまで心配してないんだ。

 だって、なんとなく感じるもん。あの子が来ることを……!!」


 そう言っている内に超上空にいたワイバーンはヨハンの狙撃魔法を躱しそれぞれ合体業火魔法を使うための準備を開始し、この人間どもの群れを率いているであろう者達に向かって、放とうとした、その時であった。


ゾッッッッックッッッッーーーーー!!!!!


『っっ!!!』


 強烈ないやな予感に襲われた中心の1体が生み出していた火をの魔力を飲み込み自分を強化させると思いっきり羽ばたきその場から飛びあがる。サイドの2体は何事かと頭を動かし、上へと飛びあがった個体の方を向くが、その瞬間彼らの意識は真っ黒な闇に塗りつぶされる。その理由は極めてシンプル、


「………やれやれ、ギリギリ間に合ったみたいだね……!!」


 機工龍を全力で飛ばして戻ってきたミストのヒドゥンエッジの斬撃を食らい頸部を一刀両断されたからである。

 上空に逃げることができた個体は刀身についた血液をぬぐうミストを睨み唸り声をあげて火球を放とうとするが頭上に影ができ始めていることに気が付き、咄嗟に頭上方面に顔を向け火球を放つ。それ自体は最適解であったが、


「そんじゃぁ、頼むぞ、ちんちくりんッッ!!」

「だから………ちんちくりんじゃ、ねぇですよッッッ!!!マグネ・ソードッッッ!!!」


 ガイウスは左腕で展開した盾魔法であっさりガードし、後ろに隠れていたルイスを右腕で投げつける。投げられたルイスは磁力で固めた砂鉄の剣を構え、思いっきり振り抜いて横一線に切り裂き、撃墜するのであった。

 投げ飛ばされたルイスは落下位置に機工龍で先回りしていたミストがキャッチし、ガイウスは体勢を整えつつ機工龍の尻尾を掴んだ。


「はぁはぁ……空中戦もやりゃできるもんだな……!!」

「ご苦労さん。ルイス、アンタは大丈……」

「……ハァハァ……お姉さまに包まれ、あ、だめっ……これイッ……!!」

「…………おいルイス、離れるか落ちるか2秒以内に選べ。1……。」

「!!す、すみません!!お邪魔でしたね、離れます!!」


 あ、でも冷たい目も素敵、一人顔を赤らめるルイスを無視しつつミストは討伐隊の面々に顔を向ける。大体の者達は強力な援軍の到着に表情を明るくし士気を取り戻していっていたが、そんな彼らに冷や水を浴びせるように強大なそれは現れた。


「■■■■■■■■■■■■ッッッーーーーーーー!!!」

「!!捕まれよ!!」


 ミストは舵を切り左側へと回避したタイミングで炎を纏ったボス個体が真っすぐ突っ込んできた。その勢いはすさまじく衝撃波をあたりにまき散らし、当たっていないにも関わらず、機工龍はバランスを崩して後方部隊がいた場所近くに不時着してしまうのであった。

 幸い放り出されたミスト達3人はヨハンが作ったやわらかい土のクッションにより受け止められ、無事であった。


「ミストちゃん大丈夫、怪我してない?!」

「大丈夫だよどこも折れてない、安心して」

「それは上々。ところでだ、あれが君が言っていたという()()の正体かね?」


 ヨハンは戦闘態勢を取りつつ上空に飛ぶボス個体のワイバーンを見る。翼を動かし滞空するだけで討伐隊を恐怖で動けなくするボス個体は眼球を動かし、自分がここを離れたせいで死んでしまった仲間達を見て目を激しく血走らせ、その権化と思われるミスト達を睨みつけていた。


「………あれ本当に成龍かね?あの魔力出力、下手な魔族より高いようだが?」

「ああ、おまけに炎魔法の練度も怖ろしく高い。相性的にルイスとガイウスじゃ勝負にならない。だからここまで戻ってきたんだよ。アレに勝てる可能性があるあんた達を呼びにね。

 シンシア、ヨハン」

「もちろん!!任せて!!」

「やれやれ、もう四十路前のおじさんには辛いんだがねぇ……!」


 二人の声を聴いたミストが指を鳴らすと、墜落し倒れていた機工龍は起き上がり、ミスト達の前に立つ。


「………さぁ、第二ラウンド開始だ、最強。必ず墜として土の味、噛み締めさせてやるからなぁ!!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ