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偵察

 会議中断から約1時間後、本来なら会議が始まっている時間、ミストは一人山の中をサイコプレート4枚を合わせた大型ボードで低空浮遊しながら登っていた。この時ミストは体に森林迷彩を施したマントを上からかぶっており音も最低限と完全にステルス状態をとっていた。

 シンシアと共に休憩所に行った後、ヨハンから届いた指令、それは敵戦力の情報の改めての調査であった。その時のヨハンの話をミストは思い出す。


『生態探知魔法によりワイバーンの数自体は112体であることが分かった。しかしあくまでそれはあくまで数、具体的な戦力確認ができているとはいいがたい。実際残った映像を見ていると偵察に来ているのはほとんどが成龍になったばかりの若い個体だ。偵察という危険な任務をさせるとは思えない。……ここからは私の予想だが、もしかすれば今回のワイバーンは若い個体が多い、もしくは成熟した個体が少ないのではないかと考えている。

 だからミストさん。君には正確な敵戦力の把握をお願いしたい。それができれば戦略魔法で村を消し去るなんていう最悪の結末を回避できるからね』

(まぁ、確かにそれははっきりと最悪な末路だね。そもそも魔物大討伐程度で戦略級魔法を使ったという結果が残ったら、次の引き金はもっと軽くなる。

 面倒だけどやるしかないね)


 そう思いつつミストはしゃがみ足元に置いているカバンを開ける。そこには10個の黒色の球体が入っており彼女が上部についている赤いボタンを押すと音をほとんど立てずに変形し蜘蛛のような形に変形そのままカバンから飛び出し散開していくのであった。

 『失敗傑作』シーカースパイダー。自然の魔力を吸収して自立稼働する魔導具であり、搭載されたレンズに映された光景を記録することができる映像保存能力を持っている、この様な索敵任務でもってこいの魔導具……ではあるのだが、費用こそ特にかからない物のあまりにもルーン式も稼働構造も独自且つ複雑なため、ミスト以外には製造、修理が不可能という不遇の作品であった。今回ミストが運用しているのは軍に卸す予定であった物である。

 

(これで保険は完了。さてこっから行軍時の経路マッピングに集中できる)


 ミストはマントの裏に入れていた地図が絵描かれた鉄板を取り出し今自分が通ってきた道を確認しつつ再び山を登り始める。うっそうと木々が生えている森林地帯であるが、だからと言って全く隙間なく木が生えているという訳ではない、当然木と木の間隔が広め、それこそ人4、5人分開いている道も少なくない。ミストは多少遠回りにはなりつつも移送系魔法で無理なく移動できる経路を通りながら上へと目指していた。


(ヨハンの行軍プランはおそらく少数精鋭での奇襲。となればワイバーンの数が分かり、道が分かっていれば早ければ今日の夜からでも行軍を開始できるはず)


 そう言いながら山を登り続けて約4時間。ミスト自身は全く動いていないとはいえ流石に疲労が見られてきた、その時であった。やっと山を登り切り頂上に着いたミストは僅かに息をつきつつもポケットに入れてあった簡易望遠鏡でこの山に囲われた村の様子を確認する。予想通り見てわかるレベルで大量のワイバーンがうろついていたが、この時ミストは何か違和感を感じた。


(………なんで成熟、老齢個体のワイバーンがいない?どの個体もつやつやの鱗、色合いが落ち着いた個体や褪せた個体は全くいない)


 ワイバーンはサイズ以外にも鱗の艶や翼膜の端などを見ることでその個体の大まかな年齢を判断することができるのであるが、ミストが望遠鏡越しで確認する限り、今現在見れる範囲にはいわゆる大人以上の個体が全くないのである。

 何かがおかしい、そう思いつつも偵察を続けていたミストであったが、村の下方にある河川の方にいる個体群を見た時、思わず目を見開いた。そこにいたのは全高がミストの半分程度しかなく鱗よりもやわらかそうな羽毛が目立ち、おそらくシンシア辺りであれば「かわいい~!!」とでも言いそうな愛くるしい姿をした幼少個体のワイバーン達であった。彼らはミストに監視されていることも知らず楽しそうに川魚を食らったりじゃれあったりしていた。


(…………幼龍と言ってもあれは生まれて1、2年程度は経ってる個体……ということはここで生まれた個体じゃない。つまりあいつ等はまだ飛べもしない子供を引き連れてここに渡りしてきたってことか……?!そんな例は全く見たことがない……!!)

「………こりゃ調査した方がいいね………。何か異常なことが起こっている」


 ミストがそう呟いた瞬間、


 ゾクッッーーーーーー!!!ジュオォォーーーー……!!!


 「ーーーーーーッッッ!!!」


 強烈な殺気と熱量を感じたミストはストームブーツで横に一気に飛び、さらに直感的に自分を庇うようにしてサイコプレートで体を庇う。その判断は大正解であり、さっきまで自分がいた場所に、着弾した火炎球は炸裂し周囲に火炎をばらまいていた。サイコプレートで防御しなければ飛び散った炎で焼かれていたことであろう。

 ミストは煙を吸わないよう口元に鉄製の仮面をつけた後、火炎球を飛ばした上空数十メートル離れた場所にいる存在を睨みつける。その個体は緑色の鮮やかな鱗を付けた若めの飛竜で、望遠鏡で見た他の個体よりも傷が多いがその目は歳不相応なほどに堂々としており、逆にミストが威圧されてしまっていた。

 ミストは確信する。


「………お前がこの群れのボスか……!!」

『………!!』


 そのボス個体は大口を開くと火球を生み出し照準をミストへと合わせる。それに対しミストは背面をサイコプレートでガードしつつ踵を返して全速力で逃げ出す。その姿を見たボス個体は口腔で発生した下級の形を正円状から楕円状に変形、さらに変形した火球に螺旋回転を与えた後、放った。螺旋回転により空気を切り裂きつつ加速していく火球は真っすぐにサイコプレートに着弾、熱と勢いによりサイコプレートの装甲を溶かし、貫いた。


 ジュゥゥゥゥゥ!!!ボォォォォッッッ!!!


 着弾した火球は被害規模こそ先ほどよりも広くはないが、深々と地面を燃え溶かしておりその威力の恐ろしさを物語っていた。人間など防御せずに掠れば一瞬で火ダルマになるであろう攻撃であるが、

 貫かれ焼け熔けているサイコプレートの残骸の周りにはさっきまでいた侵入者、ミストの死体が見えなかった。










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