不毛な会議
そんなこんながありつつも魔導車に揺られること早2時間。ついに討伐隊一行は軍が現在取り仕切っている難民キャンプへと到着した。そこの周りには魔物を除外する結界や柵によってぐるりと囲われており、20数を超える数の大型仮設用住宅が建てられていた。
「………ずいぶん広い難民キャンプだね。人もあれ50人は越えてるよね」
「今回のワイバーンの被害で被害に遭った村人の生き残りが全員来ているからな。そりゃ多いさ」
ミスト達はそう喋りつつも移動し一般の討伐隊の者達がそれぞれの所属組織に割り振られた仮設住宅に入り長距離移動の疲れを一時的に癒している中、ミスト達勇者候補の6人と軍、魔法連、教会、冒険者ギルドの総責任者4名の計10名はワイバーン討伐作戦の現地指揮官達がいる大型テントの中に入って作戦会議に参加していた。
「まずは来ていただきありがとうございます。本来なら何かもてなしをするべきですが、非常事態のため単刀直入に話させていただきます。
現在ワイバーン達はここより直線で2㎞の場所にある山岳部にある村を住処としています」
こちらを、と言いつつ指揮官は地図を広げ村があると思われる地点に指を指す。そこは山々に囲まれるようにできたそれなりに大きな土地であり、村の下方部には川も流れているのが地図からも分かった。
「出入りは一本道しかないから流通の便は悪いけど、逆に言えばそれは飛ばれでもしない限りは難攻不落の天然要塞であるという事。おまけに資料も見る限り保存食も多い。ワイバーンめ、野生の勘なのかはわからないけどいい場所を手に入れたね」
「感心してる場合じゃねぇだろ!!さっさとトカゲ共をぶっ殺して村を解放すんぞ!!」
「………少しは考えて発言をされたらどうですか?この地図を見る限り出入りの一本道は今回の大型魔導車が通れるような大きさではありません。つまり徒歩での行軍になりますが。そうなればワイバーンのブレスの格好の的です。相手は100を超えるワイバーン、マッドコングとはレベルが違います。そうなればヨハン様や御姉様以外は全員火だるまにされますよ」
ルイスの理路整然とした説明風罵倒にガイウスは歯を食いしばりつつ、「……つか、御姉様ってなんだ」と呟いた。その後にヨハンは咳ばらいをしつつ話をつなげる。
「私もルイスさんの意見には賛成だ向こうだってこんな唯一の道を警戒していないわけがない。ということはこの道以外、つまり村を囲んでいる山を行軍するという案はあるが、ミストさんどう思う?元斥候隊としての意見をもらいたい」
「……無謀だね。山は方向感覚を狂いやすいだから山岳行軍ってのはかなり危険なんだ。おまけに体力だってかなり使うし、この規模の山なら目的地まで最低でも1日仕事だ。ワイバーンと戦う体力なんて残ってないよ。一応移送系魔法で行軍すれ体力はかなり温存できるはずだけど……」
「………一応この会議後調べてみますが、長時間の移送系魔法を使える魔法使いはそういません。おそらく5人前後いれば多いと思ってください……」
「逆に言えば、移送系魔法の持ち主は3人弱はいるという事だね。そして移送系魔法の上限人数は約3~6人……つまり最低でも移送者合わせて10人、最高で35人か……。うむ行けそうだね?」
そう言いつつヨハンはテントの面々に話しかけようとするが、それを遮るようにある人物が我慢の限界とでも言うかのように机をたたく。他の面々が視線を集中させる中テーブルを叩いた人物、金髪のおかっぱ頭が特徴的な魔法連責任者の中年男性はヨハンを睨みつける。
「ヨハン殿……。いい加減していただけませんかな?くだらないことをペラペラと……もう既にこのワイバーン討伐での我らの行動はトルキシオン公からの指示を受けていたはずです……。
新しく洗練化させた大規模戦略魔法で吹き飛ばす、そういうご指示だったはずです」
「………だったら知ってるはずと思うがね?私がその指示に反対したことも」
「ヨハン様……?大規模戦略魔法って何ですか?」
「………サークレット・デリート。戦略級円式物体消滅魔法陣等々、名前は色々あるが、簡単に言えば魔方陣を形成しその魔方陣の中心部にあるものを原子分解させる、極めて危険な魔法だ。」
ヨハンの声にテントにいた面々は絶句する。全てを消す魔法、というあまりにも突拍子もない魔法の存在に声を出せなくなっていた。その中でガイウスは震えつつも距離を詰め魔法連責任者の胸ぐらをつかむ。
「………戦略級魔法は非人道的な魔法も多く環境にも極めて大きい悪影響を与えるため王族の許可がないと使えねぇはずだ……先王、ジジイがこんなやべえ魔法を許可したってのか?!」
「……ぐぐっ……!!は、あなたは知らないでしょうが……!!魔法連は今や統一国民に使わないことと魔法連会長の許可を条件に戦術級魔法と一部の戦略級魔法の使用を許可されています……!!
どこかの馬鹿がトルキシオン公の子息に暴行したおかげでねぇ!!」
「ッッ!!テメェ!!!」
魔法連責任者の挑発に乗ったのか青筋を浮かばせたガイウスはこぶしを握り締め殴りつけようとするが、後ろからギルド責任者とメーリルによって止められてしまい、その隙に魔法連責任者は胸ぐらから腕を外し、せき込みながらも後ろに離れた。
「と、とにかく!!形だけとはいえ話は聞いてやった!!私は魔方陣生成が忙しいから失礼する!!」
「テメェゴラ!!逃げてんじゃねぇ!!」
「落ち着けガイウス!!相手は魔法連の貴族だ、何されるか分かったもんじゃねぇぞ!!」
「私達はともにワイバーン討伐を受けた仲間です……この様なことで争い合ってはいけません……!!」
「………戦闘もあったし長距離移動だ。皆疲れて気もたっているのだろう。1時間ほど休憩を取ろう。休憩後再び話し合うこととする。彼からは私が伝えよう。全員それでいいね?」
ヨハンがそう締めると他の面々も納得したのか表情こそバラバラではあるものの次々とテントの中から出て行くが、その中の一人ミストがシンシアと共に出て行こうとした時、ヨハンは小声で彼女に呼びかけるつつ、魔術省製の通信魔導具を手渡す。
(………ミストさん。君は休憩後の会議には来なくていい。その代わりやってほしいことがある後で指示を送る。)
(………ま、このクソつまらない会議に出なくていいなら、考えとくよ)
「……ん?どうしたの?ヨハン様?ミストちゃん?」
「いやなんでもないよ?」
「そうそう何でもないよ。ほら私らの宿舎に行くよ」
ミストはそう言ってはぐらかした後、シンシアと共に仮宿舎がある方向へと歩いていくのであった。