マッドコング討伐戦 その3
まだ数が減っていないにもかかわらず、マッドコングの拘束が解除されミスト達に背を向け領域の外へと逃げだしたのであった。
「な、なんで拘束が外れたの?!」
「おそらく戦意を喪失したのでしょう!!ガイウス様のスキルで拘束できるのはあくまで私達に害意を持つ存在だけですから!!」
「クッッ!!」
シンシアはボルトレッド・グローブを遠距離モードに変換し逃げ出したマッドコングを討とうとするが、側面から別のマッドコングの拳が飛んできて咄嗟にそちらに放出してしまう。襲ってきたマッドコングの半身を吹き飛ばすのには成功するが、奴はそれにも構わずシンシアに腕を振るう。
魔力放出のタイムラグですぐには防御できない。やられる。そう直感したシンシアは思わず目をつぶってしまうが、間一髪のタイミングでメーリルが彼女達の間に入る。
「エアー・クッション!!」
メーリルは錫杖を構え声を上げると自分の前方に空気の塊を形成、マッドコングの打撃を受け止める。それでも衝撃は殺しきれずシンシアともども吹っ飛んでしまうが、予め後方に生成していたエアー・クッションによって特にダメージもなかった。
瀕死のマッドコングは追撃をかけようとするがその隙に2体のマッド・コングを討ち取ったミストが後方におり、瞬時に残りの手足と首を切り飛ばしその命を絶命させるのであった。
「シンシアッッ!!無事ッッ?!」
「な、なんとかぁ……?!メーリルさんありがとう……!!」
「大丈夫ですよ……!!ですが……!!」
メーリルが視線を向けた先、そこには既に領域の端まで近くまで逃げているマッドコングの姿があった。ミストは自分の動きに慣れ始めたマッドコングに手こずり、シンシアは200m以上の距離が離れた動く標的の急所を正確に狙う技術など持ち合わせてはいない。
(………まずい!!あの手の獣は死ぬ恐怖を知ったら危険度は跳ね上がる!!こうなったら一か八かでも……!!)
「………休憩したろ。後はできるよね、おっさん?」
シンシアがミストの呟いた言葉に反応する前に、シンシアの隣を突風と共に何かが駆け抜ける。それは、
「………俺はまだ24だ、おっさんじゃねぇ、ヴォルフの孫ぉ!!」
強化魔法で身体能力を極限まで強化したガイウスはトップスピードでマッドコングへと迫る。しかしそれでも距離のアドバンテージは大きい、追いつくことは難しいと思われた。だが、
「バリアー・リモート!!」
『●●●ッッッーーー?!!』
ガイウスが手を真っすぐと伸ばすとマッドコングの前方に透明なバリアが出現、マッドコングはそれに気が付かずに衝突し後ろ側に倒れてしまう。その間にガイウスは一気に距離を縮め、そして。
「終わりだ赤ゴリラ、恨みはねぇが、往生しなッッッ!!バリアー・ナックルダストッッッ!!!」
倒れたマッドコングの顔面に思いっきりバリアで保護した拳を叩きつけ、頭部を爆散させるのであった。
これにより飛竜討伐隊を奇襲しようとしたマッドコングの群れ計68体のほぼすべてを勇者候補6名が討伐、死傷者ゼロ、負傷者少数という最高の結果を出すこととなった。
*
教会人員による負傷者の手当てや魔術省の技師による魔導車の最終調整が終わった後、魔導車は問題なく動き始め、そのままベースキャンプへと向かっていくこととなった。そんな中奇襲をほぼ退けた勇者候補たちというと、
「よぉし、じゃあ行くぞぉ!!『イースト&ウェスト』!!『貴族共の嫌なところ』!!」」
パンパンッッ!!
「権威目的ですり寄ってくる!!」
パンパンッッ!!
「大半は口だけの七光り」
パンパンッッ!!
「えっと……胸の大きさでイジメてくる!!」
パンパンッッ!!
「……男爵令嬢程度なら問題ないだろうと、愛人契約を迫ろうとする」
パンパンッッ!!
「血統主義をこじらせている。」
パンパンッッ!!
「お金があるにもかかわらず、給金を渋る人が意外と多………ってなんですかこれはぁ?!!」
女性陣4名はソファに、ヨハンは備え付けの椅子に、ガイウスは床に座った状態で円のような形をとり『イースト&ウェスト』、お題を決めてそれに応じた答えが出なくなるまで続けるサークルゲームの一種を行っていたが、あまりにもあまりな内容にメーリルは声を荒げた。
「なんだよ巫女サマ、いいところだったのによぉ」
「いやおかしいですよ!!なんでこんな気まずいテーマでイースト&ウェストしなければならないんですか?!シンシアさん以外一応私たちみんな貴族ですよね?!!」
そんなメーリルの話を聞きつつも、そんなこといわれてもなぁ、とでも言わんばかりの表情をとるミスト(元名誉子爵家の娘)、ガイウス(廃嫡された元王子)、ヨハン(伯爵家当主)。
「大体シンシアさんのはただの貴族関係のないナタリー様方の僻みでは?!………後ルイスさんにいたっては、その、ノーコメントで………。
と、とにかく!!打ち解け合えたのはいいですが、こういう話題はやめましょう!!上の人間が見ているかもしれないんですから!!」
そう言ってメーリルは咳ばらいをしつつも強引にいろんな意味で不謹慎なゲームを止めたのだった。だがその後もそれによって特にギスることはなく会話が続いていた。
「しっかしお前ら強えなぁ!!ヴォルフの孫はともかくお前さんはほぼ素人のくせにあの魔力!!とんでもねえぜ!!」
「ありがとうございます!!その、ガイウス様!!」
「シンシア、このおっさんはもう廃嫡されてるから王族でも何でもない。様付けする必要なんてないよ。………あと私はヴォルフの孫じゃないミストだ、間違えないで」
「そうです。後特に理由はないですが謝りなさい、この脳筋ブタゴリラ」
「まぁそいつらの言う通りだ俺はもう王家とは一切の関係がないただのガイウスだ。王都に戻ったのだって勇者候補となって呼ばれただけだし、特に気は使わねぇでくれや。………後さっきも言ったが俺は24だ、おっさんじゃねぇからな!!覚えとけミスト、ちんちくりん!!」
「ハ、ハァ、ハァッッ?!!誰が、誰がちんちくりんですかぁ?!」
「ちんちくりんだろうがぁ!!背は低いし釣り目気味だが顔は幼いしよう!!体も……!!………まぁ、体は乳も尻もそれなり以上あるか」
「………!!んーーー!!!んー!!!んーーーーーーーーッッ!!!」
怒りと羞恥のあまり顔を真っ赤にし涙目で唸ったまま、砂鉄で作った刃物を突き立てようとするルイスの腕を焦りながら掴んで止めるガイウス、後ろからルイスを羽交い絞めにして抑えようとしてるシンシア、3人の行いを眺めながらそれを肴に菓子を食べつつティーブレイクを始めたミスト。そんな彼らの姿を見てドン引きしているメーリルを横にヨハンは微笑ましそうにつぶやいた。
「いやぁ、若いとはいいねぇ」
「若いで済ませていいんですかぁ?!!」




