マッドコング討伐戦 その2
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ラックリバー王家の今の現状は、正直に言えばあまり宜しいものではないというのが事実であった。本来国王を継ぐはずのバルカンの息子、ケフェウスが第一王妃と共に20年前に魔族領に消えたことにより隠居するはずであったバルカンが実孫にして王位継承権がある3人が大人になるまで執政を再び取り仕切ることとなった。
その3人の孫の内の一人が彼、ガイウスという事であった。彼は素行や魔法の素質こそ問題があったが、他二人とは違い、正妻である第一王妃との間に生まれた子供ということもあり次期国王最有力候補として多数の派閥に担がれていた。
だがある日、転機が訪れる。貴族たちが月に一度行っているという社交パーティ。当時14歳だったガイウスはそれに対し不参加を決め込んでいたが、突如会場に乱入しトルキシオン家長男と次男、その取り巻き達に暴行を振るい重傷を負わせ、パーティを滅茶苦茶にするという大蛮行を引き起こすこととなった。
当然この行為を重く受け止めた王家は彼を幽閉後、事情聴取を行ったがガイウスは一切の黙秘を続け何もしゃべらなかった。今まで彼を担ぎ上げてきた派閥の者達がはしごを外す中、彼の友人達の尽力もあり処刑こそ回避できたものの、ガイウスは廃嫡し王都を永久追放、もう二度と戻ってくることはないと思われた。
しかしガイウスはとある冒険者に拾われ、師事し当時の何倍もの力を付けた状態で廃嫡から8年後王都へと帰還した、聖女の結界発動前に侵入した、王国組織が手を焼くレベルの大魔族を討伐した英雄として、次代勇者候補の一人として。
それには流石に無下に扱うことはできずバルカンとヴォルフ、そして彼の友人達の手引きの元、王都への永久追放を解除し、彼と彼の仲間を王都冒険者ギルドのトップパーティとして迎え入れることとなったのだった。
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「オラァ!!」
そんな元王子ガイウスは、剛腕を振るい次々と襲うマッドコングをぶん殴っていき、その体を爆散させていく。一体のマッドコングが死ぬ度に別のマッドコングの拘束が外れ、彼を襲い掛かるというループが続いていた。既にガイウスが討伐したマッドコングは10体を超えているがまだ拘束されているマッドコングは倍以上いる。その事実にガイウスは舌打ちをする。
「クソがッ……!!結構倒しているはずなのに全然数か減りやがらねぇ……!!このスキルは俺には色々と便利だが、やっぱ殲滅戦には向かねぇな……!!」
ガイウスが勇者紋によって得たスキル「決闘」。発動時点でのガイウスがいた位置を中心に約半径100~300mの半円球のドーム状の光の膜を展開するそしてその中に入ったガイウスが敵と認識した存在、または彼に一定以上の敵意、害意を持つ存在をガイウスとその味方の数を引いた数の敵を拘束、無力化するというスキルである。これによりガイウスは数的ハンデをほぼ潰すことができ1VS1の状況を作り出すことができるのである。
(大半の魔物や小悪党はここまでの実力差を見せつければ戦意が喪失するもんだが、こいつら頭の螺子が飛んでんのか全く戦意が落ちやがらねぇ……それ自体は褒めてやるが遠距離魔法が使えねぇ俺じゃ潰すのだって一苦労だってのによぉ!!)
「さっさと死ねやぁ!!!」
ガイウスは叫びつつ拘束から解除され自分に向かってきたマッドコングに拳を打ち込むが、拘束中に彼の動きを見続けていたマッドコングはこれを躱し、逆に自身の丸太のような腕を振るってガイウスを殺そうとするが、ガイウスは直撃部位にシールドをピンポイント展開し攻撃をガード、そのままカウンターでシールドで保護した拳をマッドコングの腹部に叩きこんで、計12体目のマッドコングを討伐するのであった。
ただガイウスの表情には苦悶が浮かんでおり、息もだんだんと切れ始めていた。
(こいつ等……だんだん俺の動きに慣れてきやがった……!!だがヨハンのおっさんやあいつ等ならもう片付けてこっちに援軍が来るはず………!!そこまではキッチリ耐えてやらぁ……!!)
と試行しているその時だった決闘スキルで作った領域の中に3つの何かがすさまじい勢いで着地し、領域内をの空気を震わせる。さらにそれと同時に4体のマッドコングの拘束が解かれが自由となった。決闘による拘束解除は戦意がありガイウスに敵意害意を抱いていない存在の数までされる。それはつまり今結界に3人の援軍が入ってきたという事である。
マッドコング達もそれに気が付いたのか拘束が解けた4体のマッドコング達は乱入してきた土煙に隠れた3人に飛びかかる。
(!!奇襲かッ!!、まずい、俺の魔力量じゃあのゴリラを防げる遠隔防御は一人しか張れねぇ!!)
「おい、誰かわからねぇがガードしろ!!攻撃来るぞ!!」
「………うるさい、分かってるよ」
ガイウスの叫びに対し、乱入した人物の一人はそっけなく返答する。それに対しガイウスは一瞬時が止まる。今聞いた声は自分の仲間たちの声でも、ヨハンの声でも、ましてや男の声でもなかった。
ガイウスが制止しようと駆けだそうとしたが、その時には既に始まっていた。
「アシスト・バフ!!マナ・アッパー!!支援魔法完了!!効果1分です!!」
「上々!!」
「ありがとう、メーリル様!!」
乱入してきた3人のうち一人、メーリルの支援魔法により黄色いオーラを纏ったミストと緑色のオーラを纏ったシンシアが飛び出し、二人ともそれぞれ2体のマッドコングに相対する。そして、
「ハァッッ!!」
「キャノン……ボールッッッ!!!」
ミストは鬼筋鎧・壱式とメーリルの身体強化魔法の重複効果で上がった身体能力でマッドコング2体の首をヒドゥンエッジですれ違いざまに両断し、シンシアはメーリルの魔力増量魔法でさらに増量された魔力の玉を発射しマッドコング2体と近くに転がっていたいくつかの死体を蒸発させた。
今まで戦っていたガイウスとは全く違う種類の強さを見せたミストとシンシアにマッドコング達も若干怯んでいたが戦意を喪失するには至らなかったのか、4体さらに拘束が解除され二人に襲い掛かる。しかしミストは冷静に攻撃を読んで躱し、ヒドゥンエッジで的確にダメージを与えながら命を刈り取っていき、シンシアは戦闘能力こそまだまだ素人レベルであったが、そんな些事は関係ないとでもばかりに範囲魔力の放出で敵を殲滅、カウンターされても体から中心に鼻垂れる魔力波で逆に消し飛ばすというパワープレイで蹂躙していた。
その光景には流石にガイウスも固まってしまうが、その間にメーリルは彼に近づき回復魔法をかける。
「大丈夫ですか、ガイウス様?!お体に変調は?!」
「………おい、巫女サマ。俺は言ったよな?隠れて他の女達を守れって。なんで鉄火場に出てきた?」
「………『うるせぇ、女は、少なくても私達は、テメェみたいなおっさんゴリラに守られなきゃならないほどか弱くない』」
「?!!」
「………ミストさんからの伝言です。そして内容自体はシンシアさんも私も同意見です。私達は同じ勇者、そこに性別は関係ないと……私は信じています。」
メーリルの言葉を聞いたガイウスは僅かに俯き、何かを吐き出すように深く息を吐いていた。その間にマッドコングは残り5体となりもう討伐間近、と思われた。しかし唯一拘束されたままのやや小さめのマッドコングであったが様子がおかしかった。歯はガタガタと震え瞳の焦点はブレブレであり、ミストの攻撃によって1体のマッドコングの腕が切り飛ばされた時、ついにそれは爆発した。
『●●●ッッッッッッーーーーーーー!!!!!』




