マッドコング討伐戦 その1
ガイウスが魔導車群の後方でマッドコングの半数を相手取っている中、魔導車に残っていた面々は残りの約半数の処理を行っていた。ヨハンによって奇襲を防げたのもあるが、今回飛竜討伐のため魔法連、王都冒険者ギルド、統一軍、教会から腕利きの戦闘員が招集されたため、その数は約100を超えている。流石にここまで行けばほぼ4倍近い差がある以上討伐は簡単、そのはずだった。
「よし、これでとどめだ!!」
「おい下民!!そいつを追い詰めたのは私だぞ!!」
「こんな時に隊列を乱すな!!これだから冒険者も魔法連も……!!」
「お、落ち着いてください………!!」
「……シンプルにカスですね。ガタガタにも程がある」
マッドコングとの戦闘中にもかかわらず、誰が討伐したのかを言い争う、そんな光景に魔導車の屋根に上りながらルイスはつぶやいていた。その周りにはシンシア他勇者候補の4名もおり、ミストを除きそれぞれ今この現状に目を向けていた。
「な、何が起こってるの……!!なんでみんなこんな時に争って……!!」
「こんな時だからこそ、争ってるんでしょう。マッドコングは強く賢い魔物ですが、それはあくまで接近戦に持ち込まれてこそ。奇襲を封じ、距離をとって倍以上でかかればここの魔法使いの敵ではありません。
だからこそフレンドリーファイアが起こっているんです」
「こちらの戦力が圧倒的だったり、敵がこちらより弱かったりするときに発生する状況だね?戦いの場が武功目当ての点数稼ぎ場に変わり、さらに味方同士の不和にもつながる。………困ったものだ、これでは囮を買って出てくれたガイウス君に申し訳が立たないね」
「……この状況から負けることはそうそうないでしょうが、討伐の時間はかかってしまいます。そうなってしまえばガイウス様の身に危険が……!!」
実際メーリルの言う通り自身の魔法とスキルでマッドコング30体強を拘束しているガイウスであったがその動きからはやや疲れが見え始めていた。どういうわけか強制的に1対1の状況に持ち込んで殺せているものの相手はフィジカル特化の魔物、人間では一発くらうだけで致命傷になりかねない膂力を持っている以上、その精神負荷は計り知れないものであった。
そんな彼の姿を周りの戦況を見ず、じっと見ていたミストは突然首元のチョーカーに触れ、全身に赤黒い帯を巻き手足、胸部腹部、そして口元にウーツ鋼製の軽装鎧を作り出す『失敗傑作』鬼筋鎧・壱式を展開すると右手にヒドゥンエッジ、左手にはヴォーパルを持ち、さらに周りにはサイコプレートを浮かせ待機させるという完全戦闘形態をとる。
「ルイス、ヨハン。ここはあんた達に任せる。シンシアとメーリルは私と一緒に来い。流石のあの筋肉男もそろそろ辛いはずだ、加勢するよ」
「……意外だね、ミストちゃんああいう人好きじゃなさそうなのに………」
「まぁ、そりゃ口だけの役に立たん馬鹿なら見て見ぬフリするけど、動きを見ればわかる。あいつは相当強くおまけに度胸もある。ああいう壁役を見殺しにするにはもったいない。
さぁおしゃべりは終わりだ、行くよ」
ミストの言葉と共に宙に浮いていたサイコプレート4枚がそれぞれ2枚づつ連結しボードを作ると促されるままにシンシアとメーリルはそれに乗り、ミストがガイウスの元へと走り出しすと追従するように二人を乗せたサイコプレートも一緒に動き出すのであった。その様子を確認し終えた後、ルイスとヨハンもそれぞれ行動を移す。
「それでは我々も行動に移すかね?敵の配分はどうする?」
「では私が左側の敵を対応します。ヨハン様は右側の敵をよろしくお願いします」
委細承知。とヨハンが呟くと共に彼らは魔導車の屋根から飛び降り平原へと着地、それと同時に行動を開始する。
まずはルイス。彼女は着地すると共に純金貨を握りしめた右拳を地面に叩きつける。
「まずは下準備と行きましょう。マグネ・エンチャントS!!」」
ルイスの声と共に地面に紫電が走るとそれはすさまじい速度で駆けあがっていき、戦っている者達を素通りしてマッドコング達の体へと到達、その体をしびれさせつつその体に青色のオーラを纏わせた。
「!!動きが止まったぞ今のうちに攻撃を……ぐぅ?!」
「オイ、さっさと離れろ!!あれはルイスの磁力付与魔法だ!!ということはデカいのが来る!!命が欲しけりゃ離れろぉ!!」
ルイスのことを知っていた軍人が声を張り上げ周りの者達を退避させる中、それに構わずルイスは右こぶしを開き金貨を地面へと落ち着け紫電と暖かい光を発生させる。
「スキル下金+……マグネ・ターレット!!」
ルイスの声と共に金貨は大量の砂鉄へと姿を変え、さらにそれは紫電を纏ったことで生き物のように蠢き形を変え、砲門3つを持つ合計10棟の漆黒の大型砲塔が完成した。そして、
「エレキ・Nキャノン……ファイヤ!!」
ルイスの掛け声とともに砲塔から多量の紫電がほとばしった瞬間、砲門から真紅の雷撃がマッドコング達に発射される。ほとんどの個体は反応する間もなく雷撃に焼かれ、躱そうとした個体もいたが、雷撃はありえない曲がり方をして追尾、結局直撃し体を黒焦げに焦がすのであった。
(俺たちが近づかせないように戦っていたとはいえ、10体はいたマッドコングを一撃で葬るとは……!!とんでもねぇ後輩だ………!!)
「何をぼうっとしているんですか、準備をしてください」
「……!!ああそうだな!!まだ右側や後方の個体群が残っている、加勢す「違います、ケガ人の確認を」……!!」
統一軍の男が声を上げて命令しようとしたのにルイスは口を挟むと、そのままテキパキと動きつつ、雇われている立場である冒険者ギルドと教会の面々を中心に負傷者の手当て指示を始めていた。いくら彼女が勇者候補と言えど自分の方が齢も階級も上であるため男は噛みつく。
「おい、まだ敵は残っているんだぞ!!手当なんて後に……!!」
「確かに敵の大部分はまだ後方にいますが、あちらには御姉様含めた勇者候補3人が行っています。問題はないでしょう。後右側ですが、私よりもずっと前に終わっていますよ」
そう言いつつルイスは親指を右側の戦場へと向ける。「御姉様って……なんだ?」と思いつつ男は彼女が指さした右側の戦場の方を確認していくと、そこには呆然と立っている討伐隊のメンバー、そしてその先には、急所を正確に打ち抜かれ即死していたマッドコング達の死体の山、
そして空間に腰掛けるかのような体勢でどこからか取り出した厚い書物を、ヨハンは悠々と読んでいた。
「これは、指揮官殿。そちらはもう終わりましたので?」
「は、はい……!!えっと……これらはすべてヨハン様が……?!」
「ああ、手柄が欲しがっている彼らには悪いが、こんなところで力を消耗するのは惜しい。というわけでさっさと処分させてもらった。今のところ他の魔物は見られないが周囲の警戒と負傷者の確認、手当をよろしくお願いします」
「はいッ!!」
ルイスとほぼ同じ指示を受けた男はすぐさま了承し指示の通りの行動をとり始める。その後彼とすれ違うようにルイスがヨハンの傍へと行き、ヨハンもそれに気づいたのか浮遊をやめ着地する。
「お疲れ様。軽く見させてもらったが凄まじい魔法だね?君のような逸材がいるなら、魔法連と違って統一軍は安泰だね?」
「………私が2アクション起こす前にあのゴリラ共を殺していたあなたに言われても、お世辞としか思えませんね。………そういえば、ゴリラで思い出しましたが、ヨハン様。
あのガラの悪い冒険者のことを知っているんですか?」
「………時期的に君は4,5歳……まぁ知らなくても無理はないか。いい機会だ教えよう」
そうしてヨハンは語る、今彼とルイスの視線の先、赤いドーム結界の中で20数以上のマッドコング達と戦っているガイウスの正体を。
「彼の名前は、ガイウス・ラックリバー。今この統一国をまとめるバルカン先王陛下の孫に血縁上孫にあたり、
本来、この国の次期国王最有力候補であった、廃嫡王子だよ」




