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怪蟲の召喚士 オルトラント・トルキシオン その3

「………!!貴族様が人質戦術か、恥ずかしくないわけ………?!」

「全く?私は貴族であることにプライドなんて持っていませんし、せっかく弱点があるのにつかないのはもったいないでしょう?」

「………私がそいつのことなんてどうでもいいと思ってたらどうする?」

「ないですね。100%ありえない。君は自身が敵と認識した相手以外は決して見捨てない。それは君の監視を行い、君の前世(過去)を調べたうえで導いた結論です。………実際君は今どうやって私を出し抜くか考えているんではありませんか?」


 もろ図星を言い当てられたことでミストは舌打ちをしつつじりじりと近づいてくるオルトラントと蟲たちから距離を取るよう後ろに下がろうとするが、自分がわずかに後退しようとした瞬間、シンシアが倒れている地面にハサミを突き立ている虫の尻尾がわずかに震える。

 脅しではない、この男の言う通り自分が動けばシンシアの体は胴体から真っ二つに断ち切られる。その事実を確信してしまったミストはこぶしを握り悔しさや怒りに振るわせつつも、この状況を打破できるものはないのか、唯一動かせる眼球を動かし周りを見る。

 そして、それは見つかった。


(………!!あれは……!!いや、でも気づかれたら終わりだ!!必要なのは、時間稼ぎと、合図!!)

「………あんた強いな、情報アドがあるとはいえ、少なくともヴォルフを除けば、今まで戦ってきた人類相手じゃ一番強い。なんでそんなに強いのに魔法連の末端幹部なんかしてんだ?多少使える魔法にハンデがあろうがその強さに公爵家のネームバリュー、最高幹部辺りになれるだろ?」

「確かに、私より上の幹部にはトルキシオン家より低い爵位持ちで私より弱い者など大勢います。ですが私が最高幹部やお父様の跡を継いでのトップになることは絶対にありません。

 彼らが守り尊ぶ伝統とやらがある限り、私のような異端で異常な存在は、認められることは決してない」


 たとえ、勇者になって世界を救っても。そう吐き捨てるオルトラント。その姿にミストはこの数日会ってきた勇者候補、イレクトアとルイスの姿を思い浮かべる。


『どうせこの世界は変わらない。優しい王様が戴冠しようとも、下民での勇者様が世界を救っても……たとえ貧乏貴族が娼婦に産ませた、強化魔法しか使えない妾の子が新たな魔王を殺せたとしても、魔法と青い血(古き良き伝統)だけを愛する社会は、変わらないんだよ。』

『待ってたってチャンスなんか初めからないんです……!!だから努力して強くなって軍のトップになって勇者になってッッ!!!誰にも文句が言えないような実績を手に、クラウラー家次期家督の座を取り戻すはずだった……!!』

「………ハハッ、この世はホントにクソだな。どれだけ力があったって、結局偉人たちの甘い汁をすする老害共が作ったルール(伝統)に縛られて、飼い殺しにされるんだから」

「安心してください、今からあなたはストレートに殺されます。……私が気が付かないとでも?君の狙い、それはシンシアさんが魔力による自己回復で起きるための時間稼ぎ。………はっきり言ってチープすぎますね。あの睡眠毒は彼女のカルテを見て作った麻酔薬そのもの、待とうが大声を出そうが彼女は1時間は寝続けますよ」

「へぇ、そいつは………どうか、なぁ?!」


 そう言うと大きく口を開く、その瞬間大きく強い光が彼女の口から照らされ正面にいたオルトラントへと向けられる。これはナタリー戦でも使われた口に仕込まれた発光魔導具本来ならばまともにくらえばしばらく視覚は使い物にならなくなるはずであるが、オルトラントは特に動じておらず光に照らされる中つまらなそうにため息をする。


(普通の人間ならいざ知らず、私にこんな策が通じると思っているとは提督のお孫さんと期待していただけにがっかりです。)

「もういいですよ、シンシアさんさえ殺せばお父様も満足するでしょう。君は適当にボロ雑巾になりなさい」


 仮面の奥から心底失望した目線を向けるオルトラントは腕を上げ、指を鳴らそうとする。ハサミムシにシンシアを挟み殺させるために、他の蟲でミストをすり潰すために。だが指を弾こうとした次の瞬間、


 ド、ゴォォォォォォンッッッッ!!!


 オルトラントの後方から爆音と共に衝撃波が放たれオルトラントは思わず前かがみに倒れる。それと同時にミストは動き、爆発によって怯んだカマキリの首をヒドゥンエッジで切り落とし、それをそのまま衝撃によって地面に叩きつけられていた蝶の頭部へと投げつけ息の根を止めた。そして頭部がなくなったにもかかわらず未だ立ち続けているカマキリの亡骸を踏み台に、オルトラントの後方へと大きくジャンプする。


「逃がしません……!!インセクト・ワームバズーカ!!」


 体勢を立て直したオルトラントは自分の蟲たちが全てやられたことによりわずかに怒気を放ち空中にいるミストに向かって右手を突き出し指先に大きな魔方陣を展開。その魔方陣から恐ろしく大きなワームを召喚しミストへと射出、彼女を食い尽くさせようとした。

 それに気が付いたミストは向かって来るワームの速度を考えて、ここからの回避は困難と考えたのか革鞘からヴォーパルを取り出しワームを叩き切ろうとする。

 その行動にオルトラントは、勝利を確信し顔を仮面で隠しているが邪悪な笑みを浮かべる。


(かかりましたね、その剣はさっき私が持っている時に酸によって術式の威力拡張を構成するルーン文字の一部を、わずかに破損させた!その剣はもはや一撃必殺の剣ではない、ただの鈍!)

「………とでも、思ってんだろうなぁ!!!」


 「は?」とオルトラントが反応するよりも前にミストのヴォーパルとワームの体当たりが衝突、そして一拍後ワームの体に光の線が入ったと思うと体が内側からぼこぼこと膨らんでいき、爆ぜた。その爆散に巻き込まれオルトラントも吹き飛ばされ結界の壁に背中を叩きつけズルすると座り込んでしまった。

 一方ミストも爆散には巻き込まれたもののストームブーツを使い安定して着地すると、爆発の砂煙に隠れているある人物に向けて手を差し出す。

 そして煙から現れたその人物、シンシアはミストの手へと軽快にハイタッチを行うのであった。


「よく気が付いたね、及第点はあげるよ」

「どういたしましてっ!ミストちゃんなら何かきっと合図をくれると思ったから!」

「………なぜ、なぜですか……!!」


 ミストとシンシアが話す中、オルトラントは立ち上がり仮面の奥から彼女達を睨みつける。その目には今の理不尽な状況への疑問と怒りがにじみ出ていた。


「地面が爆発したのは分かる、指先から魔力を放出し爆発させた、地中ならば鱗粉も関係ないですからね……だが、なぜ起きてるんですシンシアさん……!!あの麻酔毒であなたはまだ夢の中のはず……!!

 それにミストさん、あなただってそうだ、どうやってその鈍で私の蟲を切った、その魔導具もう破壊したはずなのに……!!」

「なぜ起きてるのか………って言われても倒れた時の衝撃で起きたんだよね。ただその時はまだ寝ぼけてて完全に起きたタイミングではもう詰みになってたけど……」

「………数百人分の魔力による回復……!!まさか薬物による状態異常にまで有効とは………!!」

「そしてお前が言った鈍云々だけど………もしかしてこれのこと?」


 ミストは腰に装着している革鞘から一本のさらしが巻かれた刃を取り出すと、それをオルトラントの足元へと投げつける。オルトラントはそれを手に取ると気づく、それは自分が蟲の酸によって破壊した、ヴォーパルの刀身である。だが以前変わりなくミストの手には刃が付いているヴォーパルがある。このことから連想されるのは、


「替え刃、か……!!」

「ヴォーパルは確かに『失敗傑作』。最低でも達人クラスの剣技がなくちゃ使い物にならない鈍だ。だが逆に言えば特殊な材料は何も使ってない。アトリエにある特殊サイズの彫刻刀があれば、いくらでも量産できる。………それに嘗めるなよ、私は魔術師。魔法を作る技術者だ。

 自分が作ったもの異常があればすぐに気が付くわ、このクソストーカー……!!」

「もうすぐ鱗粉の魔法攪乱効果も消える、覚悟してよねっっ!!」


 彼女達の言葉と共にオルトラントは持っていたヴォーパルの刀身を苛立ち気に握りつぶすと、それと共に彼の体から濃紺色の魔力のオーラが揺蕩い始める。それを見た二人はさっきまでの緩んだ気持ちをしっかり引き締め目の前の敵に集中する。確かに何とか危機的状況を打破することはできたがオルトラントは明確に自分達より上手、召喚できる蟲もあの3体だけとは思えないし、あの異常な体のこともある。

 全く油断はできない、だからこそであった。


「………フフフ、フフフフフフフ……………!!!

 アッハハハハハハハハハハーーーー!!!」



















「いやぁー素晴らしい参った参った!!私達、魔法連の完敗です!!」


 ………オルトラントがあまりにもあっさりと負けを認めたことに、呆然とするのであった。




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