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失敗傑作 ヴォーパル


 無属性魔法、ウィーク・メイカー。それは中等魔法学校1年時に教わる魔法の一つ。基本的に無属性魔法というものは別名汎用魔法と呼ばれ、魔法の才能さえあれば基本的に誰でもできる魔法の内の一つである。

 その効果は極めてシンプル。魔法弾を発射し、その物体にマーキングを施す。そのマーキングが施された場所に使用者の魔力が混ざった魔法攻撃が接触した瞬間、その威力を約2倍にはね上げることができる。まさしく読んで字のごとく、対象に無理矢理、弱点を作る魔法なのである。

 しかし発動までに二回も同じ個所に当てなければならない不便さや、そもそも一撃で敵を粉砕するのが攻撃魔法のあるべき姿、補助魔法を使うのは自分には才がないことを表すことと同じ、という王国の考えからほとんど使われていない不遇の魔法である。

 だが当時10歳のミストはこの不遇の魔法こそ、自分が初めて作るオリジナルの魔術にふさわしいと考え、魔法を構成するルーン文字で構成される魔法式を減算強化思想の元、改造し始めた。

 減算強化とは魔法を強化する思想の一つで『○○する代わりに××する』という制約を自身の魔法式に手を加え、一定の魔法の能力を自身の才能以上に強化することができる。実際魔王との戦争時には、複数の属性魔法が使えるにもかかわらず生涯1つの魔法しか使えなくするというデメリットを負うことでその魔法の効果を強化、結果勇者にまで上り詰めた者もいるという話もある。もっともこの思想も、全てを手に入れるのが魔法、という伝統的な考えをもつ者達からはよい感情を持たれず、廃れていった考えではあるが。

 とにかくミストは不遇の魔法と廃れた思想を組み合わせ、一本も魔道具を作った。

 それは、刃物の形をしているため遥か遠くのものに弱点付与効果を付けることはできないが、その代わり自分の半径10メートル圏内の対象全てに弱点となる致命線をランダムに生み出し、さらにそれを自分の目に映すことに成功した。

 その刀身は刃こぼれだらけで刀身は錆び雑草すら切れない鈍であったが、その代わり致命線に沿って斬撃を与えることができれば対象の耐久力を無視し、さらに対象を一時的に魔法非伝導物質に転換したうえで、威力50倍の斬撃を叩きこめるようになった。

 そうして、



「…………そうして、できたのが、魔法殺しの魔剣、致命断剣・ヴォーパル。………って、

 聞こえちゃいないか」


 先ほどまでミューゴが立っていた場所でミストはヴォーパルを革鞘に戻しつつ顔をわずかに上げ、上方を見る。彼女の視線の先には結界の壁にクレーターができており、その中心にはミューゴが白目をむいて埋められていた。最初の攻撃によってミストのヴォーパルは一撃を以ってミューゴを守る幾重もの防護魔法を突破し、彼の腹部を()()()()で殴打、そのまま彼を吹き飛ばし今に至った。


「………驚きましたね。峰打ち………手加減であの威力、それにあの防御をすべて突破しますか。」

「その馬鹿が攻撃を譲ってくれたんだ文句はないでしょ?それに手加減なんて言うけど人間相手に反略式の斬撃なんて放ったら衝撃でそこの馬鹿の体なんて一撃で爆散する。

 そんなことしたら無意味に血が飛び散って服が汚れる。普通に嫌だわ」

「ミストちゃん、怖いよ?その発言いろいろ怖いよ?!」


 ミストの軽くサイコが入った発言にシンシアは突っ込むが、当のミストは特に何も言わずそっぽを向くのみであった。

 最初あの結解起動場所を、さらに結界が実際に発動したことでミストは確信していた、ミューゴが語っていた結界の防御効果、おそらくそれはあの男にしか発動しないことを。つまりこの戦いは決闘を語ったただの私刑でしかなかったのだ。

 だからこそミストも死なない程度の手加減しかしなかった。彼女にとってはそれだけしかなかったのだ。


「さぁ、決闘(茶番)は私達の勝ちで終わりだ。さっさと出せ」

「ええ、そう言う決まり………だったんですがねぇ」


 よく見ればオルトラントの耳元に小さな魔方陣が出現しており、ミスト達の地点からは何を言っているのか分からないが、早口で何かを捲し立てているのは分かった。オルトラントはしばらくそれを聞いていたが、途中で嫌そうにため息をついた後、指を鳴らし魔方陣を消し去った。


「………彼らが言うには『核であるブラウン爵が倒れたからこの結界は後3分も持たない』『その間に奴らを殺せ』『魔法連の名誉を守れ』………だそうですね。申し訳ありませんが、もう少し付き合ってもらいます」

「へぇ、こんな茶番に付き合わされるわ、無茶振りされるわ、幹部ってのは大変なんだね。じゃ、悪いけど、

 アンタも寝てもらおうか……ッ!」 


 ミストは再び姿勢を低くし、地面を蹴り上げるとオルトラントに向かって突撃する。それに対しオルトラントは、右手を前に出し魔方陣を出現、何かを射出し迎撃しようとするが、それを読んでいたミストはぎりぎりまで引き付けた上でストームブーツの風推進力で左側に方向転換、攻撃を躱し一気にオルトラントの懐にまで入り彼に右横腹部に向かってヴォーパルの峰を叩きこむ。成人男性ならば一撃で昏倒するレベルの衝撃が確実に入るはずであった、だがそれはあくまで、

 致命線を攻撃できた場合の話。


バシッッッーーー!!!


「ッッーーー?!!」

「おお、なかなかいい攻撃ですねぇ。()()()()ゲボ吐いて倒れていたでしょうねぇ」

「クゥッッ!!!」


 さっきまで伸ばされていたオルトラントの右手、それが普通ではありえない方向に曲がりながらヴォーパルの斬撃を受け止めていたのだった。あくまでヴォーパルが一撃必殺の威力を持つのは致命線を正しく攻撃できた場合のみ、それ以外ではただの錆びたペラペラの刃物でしかない受け止めることなどたやすいのだ。

 カウンターを受けると思ったミストは歯噛みしつつヴォーパルを手放しストームブーツを併用して後ろに大ジャンプ、シンシアの隣に着地した。シンシアが戻ってきた彼女の横顔を見ると先ほどまでとは違う明らかな焦燥が見てとれた。

 一方オルトラントであるが絶好の攻撃チャンスを逃したにもかかわらず、手に入れたヴォーパルを眺めつつ「ほう、なるほど」などと呟きながらある程度確認すると満足したのか、そのままそれをミストの足元近くに投げ地面に突き刺した。


「………何?壊すなり、意趣返しで使うなり隙にすればいい物をわざわざ返すなんて、随分嘗めてるね」

「まさか。紳士が淑女を舐めるなど、決してしませんよ。単純に私はあまり剣術が得意ではありませんし、その魔導具、見たところ最低でも騎士団師団長クラスの剣技がないと、まともに使えないんじゃないんですか?」


 オルトラントの発言にミストは若干眉を顰める。彼の言う通りヴォーパルが『失敗傑作』と呼ばれる理由、それは単純に剣の達人じゃなければこの効果を最大限使用することができないからである。魔導具とは、誰がどう使っても一定の成果が出なければ成功ではない、それが父がミストに教えたこと、だからこそヴォーパルは愛すべき傑作であると同時に、どうしようもない失敗作なのである。

 ミストは突き刺さったヴォーパルを革鞘に戻すと地面に刺さっていたヒドゥンエッジを再びつかみそのまま構える。


「………シンシア、自分の身を最優先で守りつつ……できる範囲でいい、援護をお願い」

(………!!ミストちゃんがここまで言うなんて……この人とんでもなく強い)

「分かった、任せて!!」

「どうやらやる気になっていただけたようですね、お嬢さん方。では私も

 ()()()()()()()を呼ぶとしましょう」


 そう言うとオルトラントの背後にかなり大きな魔方陣が出現し、2つ出現しそこから、とある二匹が現れシンシアは、大きく悲鳴を上げて体を震わせ、ミストも目を見開きわずかに後ろに下がる。

 出てきたのは端的に言うならカブトムシと蝶という、どこにでもいる虫なのであるが、カブトムシは紫色の装甲のような外骨格を持ち、蝶は薄紅色に黒まだらのどことなく危険な色合いの翅をもっていた。そして何より、


「い、いい、いやぁぁぁぁーーーー!!!でかいぃぃ―――――!!!」


 我慢ができなくなったのかシンシアは思わずしゃがみ込み叫んでしまう。そう、この二匹の昆虫、怖ろしくでかいのである。体高はどう低く見積もっても長身のオルトラントの二人分はあり、体長に関しては魔導車3,4台分はあった。その巨大な虫たちの複眼は二人を見つけると敵と認識したかのように赤く光り始めた。


「………まさか、貴族のくせに召喚士、しかも蟲専門とは………!!」

「はは、よく言われます。さぁお嬢さん方、

 ………死にたくなければ、君たちの奥の底まで魅せてくれ」

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