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混沌


 ミストとヴォルフのいろんな意味での地獄の食事会から一夜明け、現在午前7時。サファイヤは欠伸をしながら食堂へと向かっていた。昨日は書類仕事や近々行う勇者選抜の内容決定の会議など様々なことがあり、夕食をとることもできず、結局その食事会の様子を見ることはできなかった。ただ一応同じ食堂にいた同僚達からその惨状は聞いていたため、げんなりとため息をついていた。


(はぁ……険悪になること自体は予想していましたが、まさかシンシアさんが泥酔して滅茶苦茶にするなんて………。あぁただでさえミストさんのことを話してしまって、提督から叱られたというのに……)


 内心ぐちぐち言いながらも食堂に到着したサファイヤは軽めにコーヒーとヨーグルトでも貰おうとするがその時、彼女の視線の先、食事スペースの一角に信じられない光景が存在し、思わず目を見開いてしまう。その光景とは、


「………今日の体調はどうだ。ミューゴとの決闘は何も心配してはいないが、飛竜は私でも油断はできない相手。気を付けろよ」

「………私は問題ないよ。問題があるとすれば………シンシア、大丈夫?」

「全然大丈夫じゃない~頭痛い~………全然食欲も出ない~………」

「カスタードケーキ3切れ食っといて食欲ないもくそもないでしょ……」


ミストとシンシア、そして彼女達に対面するようにヴォルフが座り朝食をとっていたのだ。その光景にサファイヤは開いた口がふさがらず呆然としていたところ、「秘書官?」と声をかけられたため彼女はその方を向くと、両手に食べ終わった後のトレイを持っているルイスの姿があった。


「ルイスさん………おはようございます」

「おはようございます、秘書官。………提督たちのことを見てらしたんですか」

「………!!ルイスさんは、知っているんですか、なぜ、あんなカオスな状況になっているのか?!」

「………残念ながら私も昨日は飛竜討伐のための準備をしていたから食堂に入っていないんです。ですから御姉様達と提督がなぜあんなことになっているのか、正直、私にも全くわかりません」

「そうで………ん?御姉様?なんて??」

「ですがまぁあの様子を見る限り噂はどうであれ、多少はうまく行ったのでしょう。それでは 」


 そう言うとルイスは一礼し、トレイを厨房に返してさっさと帰ってしまうが、サファイヤはいまだ動くことができず、朝食を続けているミスト達といきなりとんでもないことをブッコんだルイスの後ろ姿を工合に見る。


(御姉様、御姉様って何なんですか?!なんで訳の分からない状況にさらに混沌をぶち込んでるんですか?!ちょっとだれか私に説明してぇ!!!)


 仕事疲れの体にこの訳の分からない状況の連続はキャパオーバーだったのか、サファイヤは膝から崩れ落ち、項垂れるほかなかった。そのダメージは厨房から出てきたツェンから「嬢ちゃん?パンツが見えとるぞ?」と言われるまで続いたそうであった。



 朝食を食べ終わった後、ミスト、シンシアは魔導車に乗り込み王城へと向かっていた。乗車中ミストはヴォルフから手渡された飛討伐任務の詳細なデータが書かれた資料を確認し、シンシアはミストからもらった二日酔いポーションを飲んだおかげか二日酔いがやっと落ち着いてきたのか、表情も戻ってきた。


「ありがとうミストちゃん………ていうか二日酔い用のポーションなんてよく持ってたね……」

「所属してた冒険者ギルドじゃ酒癖悪いやつらは多かったからね。自然と作らざる得なかったんだよ。それより、お前もう自分のスペース以外では酒は飲むなよ?わかった?」

「……うう、もうお酒は飲みません……誓います。………後、その………」

「………昨日のことならもういい。色々言いたいことはあるけど……自分じゃ降ろせない拳を多少は下ろすこともできたからね。

 それよりも、今日の決闘だけどルールは覚えてる?ヴォルフが説明したけど」

「うん、向こうが作った結界の中で行う2VS2の戦いで、アタシ達は二人とも戦闘不能になったら、向こうはブラウン爵って人が戦闘不能になったら負けって言うルールだよね?」

「そう、ノブレスオブリージュかなんかは知らないが、ルール上は向こうがハンデを追っている状態。だけど、

 はっきり言ってこれは忘れていい。どうせ魔法連の連中はズルしてくるに決まてる」


 あまりにもバッサリと吐き捨てるミスト。その表情は彼女が時折見せる、心底嫌悪している時に見せる冷たい表情であった。


「ミストちゃんは、やっぱり魔法連のことは好きじゃないんだね………まぁ私もナタリーのせいであんまり好きじゃないけど………」

「好きじゃない、じゃない。嫌いだよ。あいつ等は、『魔法使いであらずんば、人間じゃあらず』そんなクソみたいな標語をモットーにしてる屑どもだ。私みたいな魔法不全者はもちろん、単属性魔法使いや変わり種魔法を使える奴らも、劣等劣性魔法使いって差別してる。分かる、シンシア?

 あいつ等は魔法を使えない私達を人間扱いはしない。そしてそんな奴らにボンクラ兄は大勢の前で恥かかされたんだ。

 ………確実に殺しに来るだろうね」


 殺す、という言葉にシンシアは思わず生唾を飲み込む。自分の行いのせいで自身はともかくミストまで再び危機に陥れてしまったことにやっと気が付いたシンシアは握りこぶしを強く握りしめつつ謝ろうと「ごめんなさい」と言いそうになるがそれをミストは彼女の口に右人差し指を置き彼女の口を塞ぐ。


「謝んなくていいよ。どうせ奴らは早かれ遅かれ喧嘩を仕掛けて同じことをしてたさ。それに、実のところホッとしてたんだよ。ブラウン爵、ミューゴは差別意識を隠そうともしてない……あのボンクラと同レベルのクソ野郎だった。

 アンタの総スペックの検証がてら、あの男には弟の愚行の代金………代わりにたっぷり払ってもらうさ」


 ミストの表情はどこまでも不敵かつ黒い情念が宿ったように笑っていた。それを口には出していないが「こわぁ……」という表情で見ていたシンシアであったが、その時。


 後ろから視線を感じた。思わずといった様子でシンシアは後ろを振り返るがここは魔導車の後列座席、後ろには狭いスペースの荷物置き場があるだけで人間が入れるスペースなど見当たらなかった。


「?どうしたシンシア?なんかあった?」

「………ううん、何でもない。今日の決闘、私もできる限り頑張るからね!」


 シンシアの様子に若干の違和感を持ちミストも後ろ側を流し目で見るが、そこには特に何もない、遠視魔法や人工精霊に監視されている様子もない。ミストはいまだ納得はしきれないが、前を向く。もう既に王城付近にまで来ている。

 決闘開始は、もうすぐそこまで来ていた。


 …………そんな彼女達の様子を、魔導車の荷物置き場天井に張り付いた一匹の蚊は動かずにじっと見ていた。



「おや、まさかキリア嬢より先に、あのお嬢さんが気が付くとは………これは、

 中々、予想外の面白いことになりそうですねぇ………」



申し訳ありませんが、仕事や一身上の都合でしばらく休ませていただきます。次回更新は5/10を予定しています。これからも「追放魔術師と欠陥魔法使い、伝統主義社会を破壊する。後ついでに世界を救う。」をよろしくお願いします。

皆さん、よいゴールデンウイークを

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