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一応の和解?


「グゥ―――……カァーーー………」

「ったくこいつは………のんきな女だよホント」


 シンシアの部屋に到着したミストはヴォルフに部屋の鍵を開けてもらい中に入った後、彼女をベッドへと寝かせた。ミストは酔いつぶれ熟睡しているシンシアの頬をつつき悪態をついていると、彼女の机に大量の資料とそれを書き写したと思われるノートを見つけた。

 

「各魔法の特徴に、魔物の弱点、習性………多少間違えてるところもあるが、よくまとめられてるな。魔法学園の資料が優秀なのはあるが、こいつもサファイヤの言う通り自頭はいいんだな」


 そう言いつつも赤ペンを使って間違えてる部分の添削を行った後、ミストは部屋の電気を落とし出て行くのであった。

 出てきたミストは部屋の前で待っていたヴォルフを見て顔を少しはむっとさせるが、無言のまま右親指で右側の通路の奥にある休憩室を指さすとそっちに歩いていく。ヴォルフも特に何も言わず彼女の後ろをついて行く。二人が休憩室に到着するとミストは備え付けの飲み物を自動生成する魔導具を起動させ、コーヒーを紙コップに入れそのうち一つをヴォルフへと差し出した。


「………ブラックで良かったよな?」

「……お前は?確かコーヒーは砂糖とミルクが必要だったろう?」

「何年前の話だ、今は普通にブラックを飲める。それに甘いのは朝に一年分は食った、しばらくごめんだ」


 そう言いつつミスト達はブラックコーヒーを飲み、一通り落ち着くとミストからぼつぼつと話を始める。


「…………あらかじめ言っとく。これは独り言で、一回しか言わない。

 ………私だって昔の無知なガキじゃない、ヴォルフ・カラレスのおかげで魔術師は息ができて、この国家も成り立ってるってことはしてる。

 それでも、本心ではどうかは関係なく、私とパパとママを、ほっぽってないがしろにしたヴォルフを、キリア・カラレスは絶対に赦さない。言い訳も聞かない」

「………………」


 ミストの感情に任せての言葉ではなく、どこまでの冷静にはっきりと放たれた拒絶にヴォルフは何も言うことはできずただ首を垂れて項垂れるのみであった。だがミストはそれに続け「……でも」と呟く。


「………ご存じの通り、キリアは死に、ミスト()に生まれ変わった。それでもまあアンタへの怒りが消えるわけじゃないけど、過度に憎むのも、もう違うように感じた………だからさ。

 ………和解した、ふりをしない?」

「………和解した、ふり?」

「ああ、今更仲良しの祖父と孫娘の関係に戻ることなんてできないけど、最低限ふりはしとかないとまたシンシア達がやらかしてもめんどくさい。まぁふりと言っても。お前は今後以前の名前で私を呼ばない、私はアンタの発言にあおったり悪態つかない。……たまに同じ席で食事をする。それぐらいでいいと思う。………アンタは、どう思う、やり過ぎなら別に……」

「……っ!!い、いや!!私もそれでいいと思う、ああ、そうしよう……!!」


 ミストの提案にわずかに遅れるように反応するヴォルフ。しかしそれもそうであった、ミストが出した提案は振り上げたこぶしを下ろすことができず、憎しみをぶつけていた今までの彼女から考えれば、ほとんど和解の申し出といっても過言ではないものであったからだ。


(………これも、あの子のおかげなのか………)

「………了解。それじゃあ明日は魔法連との決闘に飛竜討伐と忙しい。魔導具の最終調整を終わらせたらとっとと寝る。それじゃあね、ヴォルフ提督」

「フゥ……はぁ……ああ、早めに切り上げて休むようにな……ミスト」


 挨拶を終えるとミストはそのまま踵を返して真っすぐ休憩室から出て行き、休憩室にはヴォルフただ一人残されていた。

 ヴォルフは手渡されたコーヒーを口に含みつつ首を上げ、体にある思い何かを吐き出すようにふぅ、と息を吐く。よそから見ればただぼうっとしているようにしか見えないヴォルフの姿であるが、彼はこの時多くの人の言葉を思い出していた。


『いいか!!我が家の最高傑作だ!!勇者の力と共にサル共にお前の力を見せつけろ!!初代様の無念をお前が晴らせ!!俺の野望をお前が!!!かなえるのだ!!!!』

『………愚かな勇者だ、お前の未来は人間ども都合よく使われるだけだ…………!!私の軍門に下らなかったこと、一生をかけて後悔しろ………!!』

『ヴォルフ……本当にすまない、この状況をどうにかできるのはお主しかいないのだ、頼む、我らの人柱(勇者)でいてくれ……!!』

『ヴォルフ君、主の歩こうとしている道は修羅の道じゃ、おすすめはできんよ』

『俺の娘を頼む………親友のお前にしか、頼めないんだ………!!』

『僕は父さんとは違う。人を幸せにするために魔術を極めるんだ』

『おじさま……いえ義父様(おとうさま)、今後ともよろしくお願いします』

『………もういい。おじいちゃんなんか、お前なんか!!!大っ嫌いだ!!!!!!』













『………ヴォルフ。お願い、シェパードを、この世界を守ってちょうだい、私の最も愛した、最高の勇者たるあなたなら………きっと……』

(…………シズカ、俺は………もう一度君との約束を、果たせるだろうか。これからの若人のために今度こそ正しく動けるだろうか………)


 フラッシュバックのように多くの人間の言葉を思い出していた中、ヴォルフは肺の中の古い空気を吐き出し、ゆっくりと息を吸いなおした後、懐に入れていた通信魔導具を作動させとあるところに連絡をかける。


「…………トルキシオン公。以前のお話の件、詳しく聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」



「………それでは、頑張ってください」


 王城にあるどこかの薄暗い実験室。そこで一人、長身の青年が試験管を片手に通信魔導具で誰かを会話していた。

 その青年は色の薄緑色の髪にハット付きの黒い礼服に黒い手袋、そして顔をすべて隠す黒に緑縁の仮面をつけており髪と首程度しか肌の露出がない不気味な印象を与える人物であった。男は通信を切ると、試験官のは言っていた液体を3つのシャーレに入れ1つ目には炭素合金を、2つ目には魔導合金を、そして3つ目にはほとんどサンプルがないキリア・カラレス謹製のウーツ鋼をそれぞれ入れた。1つ目2つ目はそれぞれ時間差はあったものの溶けてしまっていたが、ウーツ鋼はどこまでも残っていた。


「やはり素晴らしい、私のペットから抽出した強酸では熔けもしませんか。やはりキリア嬢は天才ですね………。是非とも欲しいですね」

ゴンゴンゴンッッ!!

「おい、オルドラント!!ここにいるのか返事をしろ!!」


 扉から青年オルドラントを乱暴に呼ぶ声と鉄製のドアを何度も叩く音が聞こえ、オルドラントは仮面の奥から舌打ちを鳴らすと渋々といった様子でドアの方へと行き、開ける。そこにいたのはトルキシオン家の家長、ベツレムであった。


「………何の用ですか、お父様。私は実験で忙しいのですが」

「実験?またいい歳の男が薬で遊んでいたのか?………まぁいい、明日ミューゴがキリア・カラレスとシンシア・ニルフェンの二人と2VS2の決闘を行うこととなったのは知っているな」

「ええ、まぁ。窓際とはいえ一応魔法連の幹部ですから。それが何か?」

「………非常に不愉快だがミューゴとタッグを組むはずだった者達が、次々と原因の体調不良を訴えている。この際実力さえあれば、とミューゴはお前を推薦した。

 明日お前が決闘に出るのだ!!」


 ベツレムの突然の言葉にオルドラントは特に隠すこともなく「はぁ?」と呆れたような声を上げる。いきなりそんなことを言われたため当然の反応であるが、それがよほど気に入らなかったのかベツレムはオルドラントの首襟を引っ張り自分の顔に近づけると低い声を上げて脅す。


「………いいか、基本属性魔法も碌に使えない、使えるのは気色の悪い魔法のみのお前を勘当せずこの家に置いているのは、お前の強さに対しての、私の慈悲に過ぎないのだ。………明日決闘必ず勝て、そして、

 必ずやあの2人を、社会のガンを殺すのだ………!!」



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