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地獄の晩餐 その3


「あのーすみません。おかわりに来たんですが何か残ってるのはありますか?」

「はい、少しお待ちを……ええーどうやらここからここまでのメニューの料理を出せますね」

「なるほど……じゃあこのフライドチキンにタレがかかってるこれとライスをお願いします。明日行くところがありますのでサイズはハーフぐらいで」

「分かりました少しお待ちを」


 カウンターにて注文を終えると、シンシアは先まで自分が座っていた方を向きわずかにため息をつく。ミストとヴォルフの仲人の位置に立って彼女たちの会話のサポートをし少しでも両者の溝を埋めることができれば、という思いでこの食事会を開いたがはっきり言ってうまくいっていないのが現状である。


(そもそもミストちゃんもヴォルフ様も積極的に話すタイプじゃないし、これからどうしよう……)

「どうかしたのか、お嬢ちゃん?」


 突然声をかけられたためシンシアは声が聞こえた方に体を向けるが視界には誰もおらず、首を左右に振ってしまうが「下じゃ、下」とさらに声をかけられたため首を下に傾けると視線の先には一人の少女がいた。

 白いくせっ毛のショートヘア、体にぴったりと張り付いた鱗模様が描かれた金色のチーパオの上に調理用白衣を着ておりかなり特徴的だったが、それら全てを吹き飛ばす特徴が彼女にはあった。それは、


(金色の角に、鱗付きの白い尻尾………この子って……!!)

「おや龍人……というか亜人を見るのは初めてかの?」


 亜人。それは二足で行動する人間と魔族や魔物、妖精のハーフまたはクォーターのことを言う。ここ統一国でも妖精の亜人であるエルフ、ドワーフは一定の権利を持っているが人間以外の様子が強い獣人や龍人、鬼人のように凶暴な魔物の亜人は一般的に忌避されているのだ。

 

「えっと……あなたは……?」

「妾はツェン。ナカハナのとある飯店に勤めている。今は統一軍での臨時食医として働かせてもらっておる。ところでお嬢ちゃんはキリアちゃんとヴォルフ君と食事をとっていたが、知り合いなのかの?」

「………!!ヴォルフ様はともかく、ミストちゃんのことも知ってるんですか?」

「ああ、知っておるよ。ほんの10数年前だがに一度招待されたことがあって、あの子に色々と料理を作ってあげたことがあったのじゃ。ここ王都は内陸じゃから新鮮な魚がいいと思って魚介料理を出したんじゃが、作る前に見せた魚が怖かったみたいでなかなか食べてくれなくてな~」


 そうだったんですか……と思わぬところでミストの幼少期の微笑ましいエピソードを聞いてしまったシンシアであったが、そうしている内に料理ができたのか中にいた料理人が料理を盛られたトレイを持ってきていた。


「お待たせしました!!こちら酢鶏とご飯のハーフです!!どうぞ!!」

「お、来たようじゃの。どれ、少し待っていなさい」


 料理人が持ってきたトレイを受け取るとツェンは調理場の方に行き棚に入っている琥珀色の液体が入っているガラス瓶を取り出すと小さなグラスに注ぎ入れ、シンシアのトレイの上に置く。


「……?あのツェンさん、これは……?」

「これはとある花を白葡萄の酒に3年以上漬け込んで酒じゃ。いい香りじゃし口の中を程よくリセットしてくれる食前酒、サービスじゃ、持って行きなさい」

「でも、私一応まだ17歳で……」

「なぁに酒は百薬の長、分量さえ守れば飲んでも害にはならぬよ」

「は、はぁ……。あ、でもホントだ、すっごくいい香り。………ありがとうございました~しつれいしま~す~……」

「うむ、またのう。………頼んだよお嬢ちゃん」


 ツェンから出された酒のにおいを嗅いだシンシアはその香しくも爽やかな香りに恋に落ちたような乙女の方に頬を赤らめながら、彼女の礼をしてその場から去っていったのだった。ツェンはそれが終わると厨房に戻ろうとしていたが、さっき料理を作っていた料理人の一人が彼女に小声で話しかける。


「………ツェン老師(ろうし)。宜しいのですか……ストレートでのあの酒の度数は14%、子供が飲むにはかなり強いのでは……」

「大丈夫じゃよ、それも踏まえて一口で飲み切れる程度しか入れておらん。

 倒れたり、酔いつぶれるようなことはおきぬよ」


 ………後にツェンは、とある言葉を自らの弟子たちに残していた。


 他人には善意のみであろうとも酒を勧めるな。

 それが厄災の始まりにならぬとは誰も分からないのだから。



 こうした出来事があり度数が高いとはいえ食前酒のにおいだけでで完全に出来上がってしまったシンシア、そんな彼女が次にとった行動は、


「あんたたちさぁ!!むかしになんかあったのはわかるんだよぉ!!でもさぁ、おたがいにわるいところをみとめてさぁ!!なかなおりしようよぉ!!」

「………キリア、もう一度聞く。彼女本当に酒を飲んでいないんだな?」

「……ああ、口につけた形跡がない。信じがたいがコイツ匂いだけで泥酔してやがる……」

「ねぇ!!きいてるぅ?!」


 酢鶏とミスト達の食事を肴に、滅茶苦茶ミストとヴォルフにダル絡みを繰り出していた。周りの者達は「やめて、ホントにもうやめてぇ」と言わんばかりに戦慄していたが、厄災の中心地に自ら飛び込むことも逃げることもできていなかった。

 そんなある意味地獄の中心点にいるミストであったが、ため息をつきつつ自分のコップに水を注ぎそれをシンシアへと差し出した。 


「………ほらさっさと水を飲め、そして酔いを醒ませこの馬鹿」

「んんっ………ぱぁ!!おいしぃ!!って……あれぇ?これ私のじゃない~?ってことはミストちゃんのぉ?ってこ・と・は~………

 かんせつキッス~~!!きゃぁぁすてきぃーー!!」


 ブチッッッーーーー!!!


 酔っ払い(シンシア)の戯言に、人生二回目である理性の糸が切れた音を知覚したミストは、腰の革鞘に入れていた魔導具剣ヴォーパルを取り出し、詠唱を始める。


「我が持ちしは致命の刃・その切っ先は愚者の末路を差し示す羅針…………!!!!」

「おいキリア!!!正式詠唱で魔導具を酔っ払い相手に振るおうとするな!!!ここら一帯が吹っ飛ぶぞ!!!」

「うるせぇぇぇッッ!!!どいつもこいつも人をレズ扱いしやがってぇ!!!放せゴラァ!!!」


 思わずといった様子でヴォルフはテーブルから体を乗り出し剣を振るおうとするミストの手を掴み動きを止める。その姿を見た戦闘能力が低い者達は流石に逃げなければヤバいと感じたのか、我先にと離れていき、強い者達はいつでも止めれるよう戦闘準備を整えていた。

 周りが戦慄する中、当事者であるシンシアは危機感なんて一切ないかのような腑抜けた表情のままいきなりミストの腹部の頬ずりするかのように抱き着いてきた。


「ミストちゃんのおかなすべすべぇ~。やわらかいけどしっかりしてる、ふしぎなかんじぃ~。」

「シンシアァ………!!お前はさっきから何なんだ!!このクソジジイと食事会なんてふざけたイベント作りやがって……!!

 何がしたいんだお前はよぉ!!!」

「………ミストちゃんに、わらってほしい」

「「…………!!」」


 シンシアの言葉にミストは暴れるのをやめ、ヴォーパルにまとわりついていた赤黒い魔力が霧散していく。その後もシンシアの言葉は続く。


「ミストちゃん、ずっとおこったり、つらそうにないたりする、ところしかみたことがない。ミストちゃん、かわいいん、だ……から、うれしそうに……わらって………ほし……い―――………

 グゥ――――――………」


 酔いで朦朧になりながらも言いたいことだけ言って寝てしまったシンシアに対し、ミストは既に力が抜けていたヴォルフの手を払いヴォーパルを革鞘にしまうと彼女をお姫様抱っこで持ち上げる。


「………おい先代勇者、この酔っ払いを運ぶ。………ついてきて」

「………ああ、分かった行こう。」


 シンシアを持ち上げ運ぶミストとヴォルフに道を開くように、食堂にいた者達は道を開き、彼女達はそこを通って食堂から出て行くのであった。

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