地獄の晩餐 その2
*
時間は教会にて、シンシアとサファイヤが通信で話していた時にまでさかのぼる。
【ええ?!提督と食事会をしたい?!それもミストさんと一緒に?!何を考えてるんですか、あの二人は……!!】
「知ってます、ミストちゃんが詳しいことは知りませんけど滅茶苦茶ヴォルフ様を毛嫌いしていることは。でもアタシ、恩人の二人がこのままなんて嫌なんです!!どうにか話を付けることはできませんか?」
【………話を付けること自体は、できるとは思います。ミストさんと違い、提督はミストさんのことを嫌っているわけではありません。むしろ歩み寄りたいと思っています。
ですがミストさんがそれを受け入れることは残念ながら考えられません。………ミストさんを迎えに行くとき、実は聞いたんです。提督とミストさんの確執を】
そうして通信越しにサファイヤは話始める。ミストが10年以上前、魔法優性會のテロに巻き込まれ両親を失ったこと、1週間昏睡状態になったことで両親との最後の別れもできなかったこと、そんな時でもヴォルフは国からの仕事でミストに会いに行くことはもちろん、葬式にも参加しなかったこと。話している内にシンシアは体が震え始め、嗚咽が出ないように掌で口を覆いながらもその目からは絶え間なく涙が流れていた。
「………なんで、そんな………ひどすぎる……ヴォルフ様、どうして……」
【………そうしなければこの国は回らないからです。統一国などと言われているこの王国ですが、本当の意味ですべての人々の心がつながっていたのは、もうずいぶん昔の話です。今ではもう王家や貴族に対する求心力はどんどん下がりヒガシマやナカハナ、クサバといった地域は不満を訴え戦争に発展しそうになったことは1回2回ではありません
それを今でもこうして抑えれているのは、全てかつての勇者パーティーの皆様、ひいては提督が頻繁に遠征し近辺の魔物の退治や援助をしているからです】
国と家族、天秤に乗ったそれらに対し、ヴォルフは国を優先させた、それこそがこの爺孫の問題の根幹であった。シンシアはあくまでミスト側に心証が寄ってるためか、彼女に対して激しく同情しているが、薄氷の上で成り立っているこの統一国を守るために全てを捨てて行動しているヴォルフのことも否定しきることはできなかった。
あまりにも深く重い二人の確執。それでも、シンシアはどうしても諦めることはできなかった。シンシアは涙をぬぐうと話を続ける
「……事情は分かりました。でも、だからこそさっきの話を通してください。今からやろうとしているのはアタシの自分勝手な余計なお世話だってわかってます。ミストちゃんは当然、ヴォルフ様もきっと嫌がると思います。それでも
私の命を救ってくれたあの2人には、幸せになってほしいんです………!!」
「……分かりました。提督へのアポイントメントは私からとってみます。断られるかもしれませんが構いませんね?」
「………!!はい、よろしくお願いします!!」
*
こうして話を付けたシンシアは再びサファイヤと連絡を取り、時間的にも比較的余裕があるという今日の夕食配膳にヴォルフも参加し疑似的に食事会をすることとなったのだ。このためにわざわざシンシアが二人分予約していた席の前をサファイヤ経由でヴォルフの分を予約してもらい、あたかも偶然相席になったように見せかけたのだった。
まぁそう言った様子で始まった食事会であるが、一言言うとその空気は地獄そのものであった。
「………体調はどうだ?怪我をしたと聞いたが……」
「……うっさい話しかけるな別に何ともない。今私はこのダンプリングの山を捌くのに忙しいんだよ。クソ量が適量なら普通にうまいから楽しめたはずなのに……!!」
「………これは水餃子というナカハナの料理でな、こちらでは揚げたり蒸したりするのが一般的だが向こうではこうやって茹でるやり方が一般的らしい。私も初めて食べた時は驚いたよ」
「そうなんですねぇ!!あ、ヴォルフ様はどういったダンプリングを食べてたんですか?やっぱりマッシュポテトにチーズを混ぜたりしたやつとか?!」
「いや、あまりそう言う単調な味は好みじゃなかったな。子供の頃は羊肉の物が好きだったが、今ではイカを具材にしたのが一番好きだな」
「そ、そーーなんですね……!!」
(…………悪かったな、単調な味が好きで………!!)
シンシアが何とか軽い世話話をしつつ話を続けようとするが、かなり空気は重たくなっており既に彼女達の周りで食べていた者達はそそくさと大盛り料理を食べてその場から離れていた。
もう既にこの三人の周りから発せられる音は先ほどの世話話とも呼べない何かと、目の前の大盛り料理を片付けようとするミストとヴォルフが食器を動かすことによる音のみであった。
予想はしていたがこの冷え込み具合には流石にシンシアも困り果てとりあえず目の前の水餃子に箸を伸ばそうとしたその時、もう既に無くなっていた。
「あ、もうなくなっちゃった。」
(えっちょっと待て。あいついつの間に喰い終わった?)
「………なんかおかわりあるかな。ちょっと見てきますね」
(嘘だろう……?!)
シンシアの大喰らいっぷりに若干に引いていたミストとヴォルフであったが彼女が席から離れ調理場の方へと行くと、ヴォルフはレンゲを置きミストへと話しかける。
「………もう気が付いているだろうが、私が今日ここに来たのはシンシアに誘われたからだ」
「……だろうね、流石にわかる。………チッ、シンシアめ、余計なことを………」
「……ミスト、いやキリア。………今更虫がいいことは分かっている。だが彼女が作ってくれたこの機会、言わないわけにもいかない。
10年前のあの日のこと本当にすまなかったと思っている」
そう言ってヴォルフは座ったままミストに向かって深々と頭を下げた。先代勇者が20にも行っていないであろう少女に向かって頭を下げるという行為に周りの人間たちはざわめきを隠すことができなかった。だが、ミストは今目の前で頭を下げているこの男が、その場しのぎではなく誠心誠意の謝罪を行っていると分かってなお、怒りがわいてしまい箸をおいて彼を睨みつける。
「今、さら……今更何だってんだよ……!!謝れば済む話なの………それで済めば私はこんな風になっちゃいねぇんだよ……!!……私のことはこの際どうでもいい、所詮はあんたと似てるとこなんざ殆どないからな。……だが、なんでパパとママのそばにいなかった。なんであの2人に最期の別れもしなかった……!!
あの二人はアンタの一人息子だろ、アンタの勇者時代の盟友の娘だろ……!!」
「それは、あの時………これは言い訳だな。すまない………」
「………アンタがどれだけすごかろうが、偉人だろうが、私にとっちゃ私達より、自分たちの都合のいい伝統以外の全てをゴミみたいに扱う連中に媚びを売ってる老害なんだよ……?!!」
「………ッッ!!!キリアぁッッ………!!」
流石に最後の発言はヴォルフにとっても許容できない発言だったのか、声を2トーンは下げてミストへと迫る。一触即発、周りの者達にも緊張が走る中、そこに無防備に近づく者がいた。
その人物に気が付いたのかミスト、ヴォルフ両方ともごまかすように咳ばらいをして彼女に声をかける。
「……戻ってきたのかシンシ……ア……?」
「……どうだった?なんか残って……?」
二人とも声をかけたタイミングでシンシアの様子が変わっていたことに気が付いたのか、彼女の顔を見る。
甘酢がかかった鶏の揚げ物とライスが乗っている皿と小さな琥珀色の液体が入ったガラスコップが乗ったトレイを持ち、二足の足で立ってはいるがどこかフラフラ、目はトロンと垂れており頬はやや赤らんで、どこか怪しげな色気すら漂わせていた。
まるで恋した乙女のようであったがミストは彼女がこの数年で嗅ぎ慣れてしまったある匂いを、感知したことにより「……まさか」と思いながら今にも落としそうだった彼女のトレイを机に置き、トレイの上に置いてあったグラスの液体のにおいを嗅ぐ。それによって確信した。
「やっぱり……これは、果実酒………!!ってことはコイツ、酔っぱらってんのか?!」
「ええ、ぜんぜんよってないよぉ~~~」
当然、全然、酔っていた。




