地獄の晩餐 その1
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連絡の後、ミストとシンシアはシスターたちにメーリルによろしく言うよう頼んだ後、迎えに来た魔導車に乗り込み、そのまま宿舎へと帰った。昼頃に宿舎へと到着した後、ミストはそのまま自室へと戻りアトリエを起動その中で先日のイレクトア、ナタリー戦で破損した魔導具の修繕作業に入った。
一方シンシアはそのまま魔導車を出してもらい、魔法学園へと直行し校長にその場で書いた休学届を提出した後、学園図書館から戦術指南書や魔物の図鑑、魔法に関係する論文等を借りてきた。学園始まって以来の劣等生がこんなことをしていれば好奇の目線を本来なら受けていただろうが、皆校舎が壊れたことによる臨時休校のせいか、特に知り合いと会うこともなくそのまま車に帰ってこれた。
「お疲れさん、いい本はあったかい?」
「はい!!お陰様で!!」
「ははは、そうかい!軍からは既に10人以上の勇者候補がいるが、俺は君やルイスみたいなニューフェイスに期待してるから、頑張ってくれよ!!」
「……ありがとうございます!!」
ナチュラルにミストをハブる運転手の中年軍人にシンシア自身多少思うことはあったがここで空気を悪くするのもどうかと思ったためそのまま、借りてきた論文を取り出し読み始めた。
現在、そしておそらく今後も魔法を使えるようになる可能性が0に近いシンシアが魔法についての本を読む理由、それは魔法への対策を学ぶためであった。魔法にはそれぞれ属性がありそれによって対処法が異なるため、たとえ魔法が使えなくともそれらを知っていて損はない、とミストが教えてくれた。そのため本来は退学するつもりであったが、急遽無期休学に変え、学園施設のみを利用できる状態にしたのであった。
そう、そこまではよかったのだが。
パタン。
(わ、分からない……!!文字は読めるのに何が何だか分からない………!!)
シンシアは固まった笑みに冷や汗を流しながら、苦悶する。元よりシンシアの学業の成績はイジメが原因による勉強不足でギリギリついて行けるレベルしかない。それに対し借りてきたこれら論文は、研究一筋の魔法使いが書いた最新の魔法研究の論文である。理解できるはずがなかった。
(よしこれは後でサファイヤさんに読み方を教えてもらおう。とりあえず図鑑読も)
と諦めて論文を元に戻し、魔物図鑑を手にしたその時、シンシアの懐に入れていた通信魔導具に着信が入ったためこれを取り出し通信を開始する。
「もしもし、サファイヤさん!どうなりました?例の話は?」
【一応承認はしてくれましたが………大丈夫なんですか?あの二人の地獄の雰囲気を知ってる身とすれば、不安でしかないんですが………】
「そこは言い出しっぺのアタシが何とかします。………余計なお世話なのはわかっていますけど、あの2人には、仲良くしてほしいんです」
【まぁ仲良く、とはいかなくてもあの状態が続くのは宜しい状態じゃありません。分かりました、私もできる限りサポートさせてもらいますので、よろしくお願いします】
そう言うとサファイヤは通信を切りシンシアも通信機を制服のポケットに直す。そのままゆっくりと息を吐いた後、覚悟を決めるかのように自分の頬をペシペシと叩く。
下手をすれば、今まで気づいたミストとの信頼を自分で手放すことになるかもしれない。でも決めたのならば、もうやるしかない。
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午後6時ごろ、アトリエで整備を行っていたミストは手に持っていた工具を置き疲れを吐き出すように息を吐くと、目の前にある魔導具達に目を向ける。
伸縮自在のヒドゥンエッジとそれを受信機として動く念動盾サイコプレート4枚。
空気を放出し着地の補助や二段ジャンプ、短時間の飛行を行えるストームブーツ。
そして魔導合金ウーツ鋼とオーガの筋や健を組み合わせて作った『失敗傑作』、鬼筋鎧・零式を発展改造した鬼筋鎧・壱式。
戦闘中に無くしてしまったナイフ以外は全ての修復が完了した。
(まぁあのナイフはある程度魔術齧った奴なら誰でも作れるもの、それなりに気に入っていたけどまぁしょうがない。と、ん……?)
ミストが何気なしに鍵を見て外、自分の部屋の様子を確認するとシンシアが入ってきており見えて居おるかどうかは分からないがあらぬ方向に手を振っていた。おそらく今の時間的に自分を夕食に誘いに来たのだろう。
(流石に昼を抜いたせいか少し腹も減ったし、出るか)
ミストは鍵の魔導具を起動させアトリエの外に出ると、シンシアと再会する。
「あ、ミストちゃん!!そろそろ夕食があるみたいだけど、一緒にどうかな?」
「いいよ、行こうか。………食事はそれぞれ自分で盛ること、いいね?」
今日の朝食が割とトラウマになっているのかそう念押しした後、ミストとシンシアは食堂へと向かった。広い食堂には駐在している軍人はもちろん、国によって集められた勇者候補と思われる多種多様な人物たちも食事をとっていた。
中には、情報に疎いシンシアでさえ知っている凄腕の魔法使いや冒険者の姿もあり、思わず今日の目的っ忘れかけてきょろきょろと周りを見渡してしまうが、「ほら早く行くよ」とミストに呼ばれ配膳の列に並ぶ。
そうして食事を手にシンシアが予めとっていた席に座ったミスト達であったが、
「………ねぇ、シンシア。これ……何?」
「ダンプリング……だと思うけど。でも珍しいよね、これ鶏のスープで茹でて作ってるんだって、それに中は肉と葉野菜。アタシ、ダンプリングは具が海老をすり身の蒸した奴しか食べたことが無くて……ミストちゃんはどうだった?」
「私の所はマッシュした芋とベーコン、チーズを混ぜて揚げてたな………ってそうじゃない!!私が聞きたいのは、どうしてこんなに量が多いのかって聞いてんだよ!!」
ミストは机をたたき目の前の料理に指を指す。そこには山のように乗っけられた茹でダンプリングが乗っけられていた。夜はいくつかのメニューから1つ選びそれを頼むという流れなのであるが、どれもこれも統一国の東北東地域「ナカハナ」の独自言語で書かれておりメニューの一つを調理をしていた男性の一人に聞くと小麦粉で作った皮に具を入れてゆでる、要するに変わり種のダンプリングであることを聞いたミスト達はそれを頼んだのであるがミストは既に「こんなに食えるかよ……」と割と本気で絶望し、シンシアは軽くつまみつつ「……おいしいけど主食じゃないね、おかずだこれ」と呟いていた。とその時だった。
食堂内がにわかにざわめき始める。
(………おい待てよ、なんであの方がここに……?!)
(……知らねぇよ、こんな事初めてだ!!)
(………ほう、これは珍しい方と会えたものだねぇ)
(……すっげっ初めて見た……!!)
「………」
歴戦の軍人達や勇者候補たちがざわめく中その男は、料理人から特盛のチャーハンをもらい若干フリーズした後、真っすぐ目的の場所へとを歩を進めていく。彼が近くを歩くたびにそばにいた者は緊張のあまり体の動きを止めてしまい、それは彼が動くたびに伝播していった。そして彼は、ヴォルフは目的の場へと到着した。
「………すまないが、座ってもいいかね?」
「あ、もちろんいいですよ!!」
「………別に、勝手に座れば?どうでもいいし」
………ここに、ある意味地獄の晩餐が開始された。




