機工龍[蒼銀]試作伍號
ついに感情が決壊したのか机に突っ伏し大きく泣き出したルイスに対しシンシアは横にいた彼女の背中をさすりながら慰めていたが、ミストは面倒くさそうにため息をつきながらコーヒーをすすっていた。
「一回負けたぐらいでギャン泣きとか、ガキかよコイツ……」
「もう、そんなこと言わないの!………きっとルイスちゃんは、環境的に子供のまま大人にならなくちゃいけなかったんだと思う。……そういう人見たことがあるから分かるんだよね、アタシっ」
「ん……!……まぁ……知らないけど、そいつと比べたらまだ泣き方を覚えてる分、コイツの方がマシか」
そう言いながらシンシアはミストの方を見る。それによりシンシアが語った「子供のまま大人にならなくちゃいけなかった、そういう人」という人物を察してしまいミストはバツが悪そうに横を向くが、途中諦めたように息を吐くとコーヒーを一気飲みしてから席から立ち上がり、泣きじゃくるルイスのそばに歩き、座った彼女に視線を合わせるようにしゃがんだ後、彼女の肩に手を置く。ルイスはそれに気が付き顔を上げたタイミングでミストは彼女の目を見て話始める。
「なに………?」
「………ルイス。こんなこと言っても慰めにならないかもしれないけど、アンタは強いよ。外付けの力無しでやってたら、間違いなく手足の1,2本を持ってかれてた。
……それに、負けて悔しいと思って泣けたり……相手と比べ劣ってると自覚して自分自身に怒りをこみ上げられるなら、アンタはきっとどこまでも行ける。この私、ミスト・クリアランスが保証するさ」
そう言ってミストは彼女の頭に手を乗せポンポンと優しくなでる。普段のルイスなら「子供扱いしないでください」と一気に不機嫌になって手を払いのけるだろうが、ミストの真摯な言葉と、不器用ながらも精いっぱい優し気に触ろうとする触り方に、彼女は自分の最も愛おしい記憶を思い出す。
『ルイ。お前は儂のように家に囚われることなんてない。自由に生きていいんだ』
「………っーー!!!」
「?!おま、どうし……?!」
「少しだけ、ほんの、少しでいいんです……このままに、してください………!!」
ルイスが突如ミストの胸に飛び込み彼女を抱きしめる。突然のことにミストも驚き剥がそうとするが、彼女のか細い声を聴いたミストは無理に剥がすこともできず、ため息をついて胸の中で震える彼女の背中をさすることしかできなかった。その姿を見ていたシンシアは優し気な笑みを作った後、飲み干した自分とミストのコップを下げキッチンの流しの方へと持って行く。
キッチンには簡易的な水道と二口のコンロの他に下の方に備え付けられていた全自動洗浄魔導具が置かれていた。
(これって……最新モデルの食器洗浄魔道具に似てる?でもあれってたしかできたの最近なんじゃ……まいっか!)
何かに気が付きかけたシンシアであったが、すぐに切り替え軽く水洗いしたコップをその魔導具の中に入れスイッチを押した。これで後10分後には乾燥した清潔な状態で出てくるというわけである。
後はこのまま戻ろうとしたその時、シンシアは気が付く。キッチンルームの奥にある壁、そこに少し不自然なでっぱりがあったのだ。シンシアは思わず吸い込まれるようにそのでっぱりを押すと、壁に隠蔽されていた隠し扉が開いたのだ。
そしてその先、暗い部屋の奥には存在してはならない生物のシルエットがあった。
「キャァァァァァァァ――――?!!」
「?!シンシアッ?!何があっ……!!………って何やってんのアンタ……」
「だだだだ、だってミストちゃん!!あれ、あれ!!
飛竜だよッッ?!ちょっと小さいけど!!」
シンシアの悲鳴につられる形でミストとルイスが彼女の下へと来ると、シンシアは暗い部屋の奥に佇んでいる全長6メートル程度の黒い影に指を指す。
流線型の頭部に腕と一体化した大型の翼、二足の足に先端に棘が付いた尻尾、確かに一般的な常人が想像するワイバーン、飛竜と同じ姿である。ルイスも一瞬戦闘態勢をとるが、電磁力を操る彼女は何かに気が付く。
「………これは……金属?」
「ちょっと待って、今電気付けるから」
ミストは呆れながらも部屋の中に入りスイッチを入れると、暗かった部屋に明かりがともる。そうした時、飛竜のシルエットの持ったそれの正体が明かされる。
「ヒッ!!……ってこれ、金属でできた……飛竜の模型?」
シンシアの言う通り照明の明かりによって照らされたそれは、飛竜の姿を模した鋼で出来た物体であった。基本的に青銀色を基調色とし暗い部屋の中ならば思わず本物と見間違えてしまうほど作り込まれているが、こうしてみると素材もそうであるが、口が無かったり、歩行を想定していない装甲付きの折り畳み式簡易脚部になっているなど人工的な合理性がいくつも見られた。
「……機工龍[蒼銀]試作伍號。騎士団に卸す予定だった魔導具だ。空中にいる飛行隊部の魔物、魔族に対抗するために私が魔術省と一緒になって開発したものだ」
「……?あれ軍と騎士団って犬猿の中じゃなかったっけ?」
「あくまで犬猿なのは下の者だけです。上の者、特に提督と騎士団長は当時の勇者パーティだったそうですしこれを融和に使いたかった、というところですか、御姉様?」
「……?ああ、まぁ今の関係を見て分かる通りそれは失敗。結局話は白紙に戻ってこいつもこの倉庫に戻ったってわけ。その後もちまちま時間をかけて改修してある程度想定通りに動くけど、100点満点とはお世辞にも言えない失敗作だね」
「これ、動くの………?!こんな、鉄の模型が……?!」
「だったら少し乗ってみる?丁度、教会にも行かなきゃならないところだったんだ。こいつでショートカットすれば話は早い」
ミストはそう言うと機工龍[蒼銀]に近づき背中に付けられた広めの鞍に乗るといくつかの操作を始める。すると機工龍[蒼銀]のバイザーパーツが赤色に光り始めた。それに伴い機工龍[蒼銀]がシンシア達が乗りやすいようにしゃがみ片方の翼を折り畳んだ。
二人もそれを察したのかミストの後ろにルイスが、さらにその後ろにシンシアが鞍の上に座った。二人が座ったことを確認するとミストは懐から鍵を取り出して、転送先である王城の外階段の様子を確認する。
「よし、人はいないな。それじゃぁ、行くか転送開始!!」
ミストが宣言すると機工龍[蒼銀]に乗った3人は展開された魔方陣は彼女達をアトリエから王城の外階段へと転送される。そして転送された次の瞬間、機工龍[蒼銀]は脚部を階段に付ける間もなく翼を広げ宙にとどまり、そのまま空中へとかなりの速度で上昇していくのであった。
「うう……!!」
「キャァァァ!!高いぃこわいぃぃ!!」
「………もう大丈夫、安定した。二人とも、目ぇ開けてみて」
あまりの速度や空中に上がるなど今まで未体験を受けたためかシンシア、ルイス共にこわばり思いっきり前にいたミストを掴んでこわばっていたが、飛行が安定したことにより目を開けると、その景色に目を囚われていた。
この統一国で一番大きいはずの王都はあんなに小さく見え、空に近いせいかいつもよりも太陽が近く存在感を表していた。よく見れば町の人々の中でも自分達を発見したのか騒いでいるように見える人々も見えたが、それによりちょっとした優越感まで感じることもできた。
「さて鉄の模型がこうして飛んだわけだけど……何か感想はある?」
「すっごい!!空を飛ぶなんて初めての経験だよ!!これのどこが失敗作なの?!全然成功品じゃない!!」
「ま、いろいろあるんだよ。それよりルイス、悪いけど教会の総本山への方角を教えてもらえない?生憎無神論者で興味がなかったせいか分かんないんだ」
「はい御姉様。えっと向こうのですね」
「……そうか、よし行くぞ」
ルイスはそう言ってここから北西方向に指を指す。ミストはその方向に曲がるよう鞍に付けらえたハンドルで機工龍[蒼銀]の進行方向を操作、空中からその教会王都総本山を目指すのであった。
すみませんが、仕事の都合により少し投稿が遅れます。次回は4/20からを予定しています。こんな作品でも楽しみにしていただける方のため、できる限り早くに再開できるよう頑張るためこれからも「追放魔術師と欠陥魔法使い、伝統主義社会を破壊する。後ついでに世界を救う。」をよろしくお願いします。




