電磁の魔法使い ルイス・クラウラー その2
「……だったら嫌でも敗北を叩きこんであげましょう、我が磁力魔法による点と線の無尽弾幕で!!」
ルイスが指を鳴らすと無数の砂鉄の刃は放たれ、砂鉄の触手も薙ぎ払うようにミストに向かって降られる。ミストはそれらの攻撃をボロ剣を振るい切り開いた道を進もうとするが、さっきの6倍の密度による砂鉄の攻撃にそんな余裕はないのか、瞬きをしながら少しずつ後退し始める。
(砂鉄の刃による点での攻撃、砂鉄の線での攻撃、それを合わせたこれを躱せるものなど存在しない。後はこのままゴリ押せば私の勝ちです。………だが懸念点があるとすれば、やはりあの魔導具です)
ルイスは攻撃の手を一切緩めることなくミストの持つボロ剣の魔導具、そして彼女によって切り払われた砂鉄を見る。
ボロ剣は先ほどから岩石を容易に切る砂鉄の攻撃を受け、さらにかなり滅茶苦茶な太刀筋で振るわれているにもかかわらず壊れる様子は見当たらなかった。おそらく切れ味、もしくは破壊力を上げる的な能力を持った魔道具であることは間違いないとルイスは予想するが、もしそうならばあの剣によって払われた砂鉄が妙であった。
実は先ほどからルイスは地面を伝って磁力を放ちミストの足元にある砂鉄を操り奇襲をかけようとしているがうまく操ることができないのだ。
(破壊力強化に加え、魔法阻害?実態はまだまだ不明ですが、まぁ恐れることはない。どれだけ優れた魔導具だろうが、)
「攻撃できなければ意味がないのだから!!」
ルイスはミストにとどめを刺すため、さらに攻撃の圧を強め砂鉄の刃、触手を繰り出し、そしてついに、
砂鉄の刃がミストの右腕へと直撃した。これにより右腕は切り飛ばされこの勝負は決したはずであったが、奇妙な感覚が砂鉄の触手からルイスに伝えられる。
(………なんだ、これは………?なんだこの硬さは、き、切れない?!)
「やっと……いいところに致命線ができたな」
時間にすれば刹那の一瞬、ミストはその一瞬で剣を右手から左手に持ち替えそのまま左腕を振るい、彼女の右腕に当たった砂鉄の触手に添うように刃を入れそのまま切る。その瞬間放たれた斬撃は、砂鉄の触手を伝播していきルイスの後ろに浮かんでいた大量の砂鉄の塊にまで行くと、
砂鉄の塊は磁力の力を失い、崩壊してしまった。
「なっ、なぁあ?!」
宙に浮かせていた砂鉄が崩れたことで、大量のそれを頭からかぶることになったルイスはパニックになり、他の磁力操作も止まってしまう。攻撃がやんだその隙にミストは再びボロ剣を右手に持ち直し地面に向かって叩き付けると、そのまま一直線上に斬撃とその余波である破壊が伝播していき、ルイスの足もとまでそれが言った瞬間、ルイスの足場が陥没させた。
ルイスは当然バランスを崩し倒れ込んでしまう。口や目にに砂鉄が入ったり体を打ち付けたりなどで痛みに襲われる彼女であったが、それでもこのままではまずいと思ったのかすぐさま立ち上がろうと目を開けた、その時には既に、
ポンッッ。
「はい、私の勝ち。何か言い分はある?」
「…………!!!わた、私、の……ま、負け……です……」
ミストは既に彼女の目の前に立っており、ルイスの頭にはボロ剣、否片手剣型魔導具、ヴォーパルの峰が乗せられていた。自分は彼女の体を後遺症が残らない程度に切り刻むつもりだったし、それはおそらくミストも理解しているはずであった。それでなお仕返しもされず、こんなことをされるということは、
(手加減されていったんだ……。どこまでも彼女にとってこの戦いは、魔導具の動作チェック以上の何もに物でもなかったんだ………)
「ミストちゃん!お疲れ様!」
「確かに少しお疲れたけど、おかげでヴォーパルの動作チェックは完璧だよ。あんがとねルイ……?!」
「う、うう、ううう………!!」
ミストが振り返った時ルイスは座り込んだまま、目に大粒の涙を浮かばせ、静かにえづきながら泣いていたのであった。その様子にはミスト、シンシア共に流石にぎょっとしお互いに顔を見合わせる。
「ミ、ミストちゃん?!あの陥没したところで一体何をやったの?!」
「ち、ちが、私は何もやってない!!」
ミストとシンシアが言い合う中、その間もルイスがえづきながら泣き続けるという、何やら訳の分からない状態ではあったものの、このこの魔道具の性能テストはミストの勝利という形で幕を閉じたのだった。
*
性能テストの後、工房へと戻っていたミスト達であったが、ルイスはいまだ泣き続けていたこともあり、このまま帰ることもできなくなったのでとりあえずルイスが落ち着くまでこのままアトリエにいることとなった。現在アトリエの作業机の所ではシンシアとルイスが備え付けの椅子に座っており、ミストが出したコーヒーを二人とも飲んでいた。
シンシアはほぼ真っ白のコーヒーを飲みつつ泣いているルイスに話しかける。
「……ねぇ、ルイスちゃん?どう落ち着いた?」
「……別に、ずっと……落ち着いてますよ……私は……」
(落ち着いてないなぁ………)
「……でも、すごかったよ!さっきの魔法戦!私魔法学校にいた時は参加できなくて遠目で見ることしかなかったけど、お姉さんや同級生たちとは比べ物なんてなかった……よ?!」
シンシアはルイスを励まそうと言葉を上げるが、逆にルイスに睨まれてしまった。普段なら怖がったりするところであるが、その目には涙が浮かび瞳は焦燥に燃えていたこともあってか、シンシアは驚きと心配以外の感情は生まれなかった。
「………あんな連中と比べないでください!私には夢があるんです、夢のため、クラウラー家の家督を継ぐためにすべてを捨てて戦っているんです!!」
「家督……家督を継ぐのがルイスちゃんの夢なの?でも、それだけ強いなら十分家督を継げる可能性はあるんじゃないの?特に貴族って魔法の腕も大切だから」
「………それ、は……」
「無理なんでしょ?その魔力のせいで」
シンシア達の話に割りこむようにミストはコーヒーカップ片手にキッチンルームから戻っており、彼女達に対面するように椅子に座った。ミストの言葉がよほど図星だったのかルイスは俯き震えることしかできなくなっていた。
「魔力のせいでってどういう事?」
「……基本的に属性魔力特性っていうのはあればいい物だ。対応属性に適性があるってことは自分が何をできるのかがすぐにわかるから成長しやすいに新しい対応属性魔法も習得しやすい。
ただ、それはあくまで平民下民が魔力に目覚めた場合の話だ。属性魔力特性を持ってる人間は対応属性以外の魔法を習得しずらいし習得できてもその出力は平均よりも低い。複数別系統属性使えることが絶対とされている貴族にとっては、魔力出力不全症の次の難病とまで言われてるんだ。
……まぁそれでも、家の象徴魔法と自分の適性魔法が同じならまだワンチャンあるんだが……」
「………クラウラー、男爵家が、象徴とする、魔法は鉱石……。待ってたってチャンスなんか初めからないんです……!!だから努力して強くなって軍のトップになって勇者になってッッ!!!誰にも文句が言えないような実績を手に、クラウラー家次期家督の座を取り戻すはずだった。そのためにかつて影のエースと言われたあなたを正面から倒して踏み台にするはずだったのに…………!!あんな無様に負けて、負け、ま、ま……!!
うわあああああああぁぁぁぁんーーーーー!!!」




