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電磁の魔法使い ルイス・クラウラー その1


 今から約一か月前、王都軍への移転前日であったルイスは自室にて裏ルートから手に入れた報告書を読んでいた。

 統一軍北部軍学校総合首席生徒、ルイス・クラウラー。彼女は自他ともに認める強者であった。生まれつき雷属性特性の魔力を持ち優れた雷魔法、そこから派生した磁力魔法を操る才女、それが彼女であった。

 実際ルイスはまだ学生のみではあるものの、人魔戦争で第3部隊への一時編入し数々の武勲を上げ、勇者の力に目覚めてからはまさしく一騎当千、この実力主義の統一軍に置いて若手のエースにして、次期幹部候補筆頭と言われていた。

 だがそんな天才の彼女であるからこそ、どうしても認めがたいことがあった。


『キリア・カラレス………。提督の実孫にして、13歳という若さで飛び級卒業……。その後2年間、前線で作戦行動を行い、部隊を勝利へと導いていた……。』


 ルイスは集めた資料の束を力強く握りしめながら、じっと見ていた。

 キリア・カラレス。噂だけでは聞いたことがある。王都軍学校魔術科クラスに在籍していたという軍始まって以来の問題児。授業は最低限度しか出席せず、噂では王都の魔法女子学園の騎士科生徒と乱闘になったという噂まである。これだけ聞くならばキリアは祖父の権力を使って好き放題している馬鹿女、という印象を受けるが、それら悪評を押しつぶす実績が彼女にはあった。

 授業は碌に受けていないはずなのに座学はパーフェクト、実技は見たことがない自作魔導具を使い、王都のエリートたちを圧倒していた。その後おそらく厄介払いの意味もあっただろうが軍上層部は飛び級で卒業させ、最も危険な第4支部に所属させられた。だがそこで彼女は水を得た魚にさらに活躍を強め、魔族や魔物を材料にした魔導具作り、次々と戦果を挙げていったのだ。


(最も、これ以外のほとんどの報告書では、それら最大の功労者はキリアではなく、命令を下した将軍ということになっていますね……。………この国の貴族ならやりそうなことですが、呆れますね……。それにしても)

『………キリア。彼女は自分自身の態度のせいで人望は少なかったそうですが………もしも人望があれば、若手のエースになっていたはおそらく彼女ですね。………はぁ……、

 腹立たしい』


バチチチチィッッッーーー……!!


 ルイスの怒りに反応するように彼女の体から紫電が撒かれる。自分で判断し自分で言った言葉であるが、ルイスはその事実にブチ切れていたのであった。

 ルイスには夢がある、そのために面倒な軍閥のパーティにも何度も参加した、非力な同部隊の相手も表面上は優しく接した、聖女が結界を張る原因を作った第4部隊の生き残りの直属の配下になるという屈辱にも耐えた。全ては軍のトップ、ヴォルフの後継者となり自分の夢をかなえるため。

 だからこそルイスは気に入らなかった、誰にもひかず媚びず顧みず正真正銘実力だけで戦果を出し続けた、キリア・カラレスという女のことを。


(………とはいっても、もう行方不明になってからもうすぐ1年。もう野垂れ死んでるか、名前を変えて潜伏しているか…………クソ、その事実が余計に腹立たしい……。直接対峙できる場面があれば……

 私の方が上だと証明できるのに………!!)



(そんな時、あなたは現れた。戦犯から勇者候補という肩書に変え、名前もミスト・クリアランスと変えて!!その上来てすぐにあのバカ姉を倒し、公爵令嬢のグループやあの蛮騎士相手に大立ち回りをしたという……!!……昨日の夜や朝に会った時は失望もしましたが、それは取り越し苦労で安心しました……!!)

「さあ行きましょうか、マグネ・バレッツ!!」


 ルイスが声を出すと共に、彼女が呼び出した黒い物質は形を変えていき細かい無数の鉄の刃の形に変わっていく。ミストはそれに対し姿勢を低くしボロ剣を前に出すと、それと同時にルイスは指を鳴らす。その瞬間無数の黒い物質はミストに向かって真っすぐ超スピードで飛んで行く。しかしミストは黒石の弾幕を前にしても臆さず真っすぐ飛び出し剣を振るう。ミストが剣を振るうと黒い物質は霧散していき、それによって生じたわずかな隙間を搔い潜りつつ、彼女はルイスの近くにまで接近する。


「やはり、挨拶にもなりませんか……!マグネ・ウォール!」

「ハッ!!甘いなぁ!!」


 ミストの接近に対してすぐさま3枚の黒い物質の壁を生み出し接近を阻むルイスであったが、ミストが三回剣を振るった瞬間、黒い壁はあっさりと崩れてしまったのだ。防御を失ったルイスにミストは容赦なく剣を叩きこもうとするがその瞬間、彼女は体勢をほとんど動かさないまま横に滑ってミストの攻撃を回避し、そのままミストの裏を取って再び黒い無数の刃を生み出し、ミストへと放った。

 ミストも剣を右袈裟、横一文字、逆左袈裟と剣を振るいながら黒い弾幕を弾くが一度小休符と思ったのかそのままバックステップで距離を取り息を吐いた。

 この間30秒と満たない戦い、シンシアは思わず止めてしまっていた呼吸を再開しつつ、闘技場の床に飛び散っていた黒い物質と思われる粒を指に取る。


「これって……砂鉄?砂鉄に魔力を纏わせて操ってるの……?!」

「雷魔法を使えるところからそうだと思ったけど、やっぱ磁力魔法も使えたか。しかも今の動きの数々、雷よりもこっちがアンタの本命かな?」

「ええ、自由度は磁力魔法(こっち)の方がありますからね。………しかしどうなってるんですか、その魔導具は?まさか今の弾幕を全部捌くとは…………」

「そっちこそ、雑な遠距離攻撃にピンチになったら逃げの体勢も作らず防御魔法。正直、姉貴と同じだと思ったけど電磁浮遊(あんな避け方)するとはなかなか面白い」

「…………なんだと?」


 ミストからすれば単なる軽口でしかなかったが、ルイスは「姉と同じ」という彼女にとってはいかなる罵詈雑言よりも許しがたい言葉を聞いたことにより、激しく睨みつけつつ、懐から5枚金貨を取り出す。そしてそのまま掌に置かれた金貨を強く握りしめた次の瞬間、 

 暖かい光と共に彼女の掌から莫大な量の砂鉄が出現し紫電を纏いながら宙に浮かぶ。


「スキル「下金」。私は手に触った金属をそれよりも価値的に劣等な金属に変換する。ただしその量は変換元と価値的釣り合うように生み出される………!!」

「……なるほど、さっきの硬貨はおそらく純金か。ならその量も納得。最初のもそうやって出したってことね」

「……砂鉄は先ほどの6倍、量も密度も桁違いです。多少魔導具が特別であろうとも物量で押しつぶせる………。私と姉を一瞬べも比べたこと、後悔してもらいます……!!」


 ルイスの宣言と共に大量の砂鉄の刃と砂鉄で出来た触手が生まれその切っ先は全てミストの方を向いていた。この状況は誰がどう見ても絶体絶命のピンチ、そのはずであったが、


(ルイス……ちゃんはすごく強い、魔法学園の生徒何て相手にならないぐらい……アタシみたいな戦闘の素人でも分かる。……でもなんでだろう、理屈は分からないけど、  

 ミストちゃんがこの状況から、負ける姿が想像できない)

「………悪いね後輩、理由は分からないけど、 

 負ける気が全くしないな」


 ミストはボロ剣を構えつつ揺ぎ無く宣言する。その体からは暖かい光が漏れ出していた。

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