謁見 その1
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食事が終わった後、ミスト、シンシア、サファイヤは昨日の軍訓練生ルイスと共に王城を目指し軍用魔導車に乗って目的地王城を目指していた。ルイスは落ち着けるようにゆっくりと深呼吸を行った後、対面するように座っているミスト、シンシアに今日のスケジュールを説明し始める。
「それでは確認します。王城に着いた後、王と四大公爵の当主様方に謁見。それを以って正式にあなた方二人を勇者候補と認定します。勇者候補と認定されている間、ミストさん、あなたの戦犯行為は一時的に仮放免とさせていただきます。
………一応聞きますが、ここまではいいですか?」
「う、うん!!大丈夫だよ!!ミストちゃんも聞いてたのよね?!」
「ああ、大丈夫聞いて……うぅ……!」
ルイスが呆れを中心に様々な感情がこもったような声で様子確認を行うが、それは当然である。なぜなら今目の前にいる二人、シンシアは普通であったがミストは腹部を押さえつつ顔を青くして苦しがっておりシンシアの太ももを枕代わりに座席シートに寝転んでいたのであった。
結局シンシアに持ってきてもらった食事はミスト、サファイヤの二人で分割して食べ進めたが食べきることができずギブアップしていたのだ。ちなみにその残りはシンシアが残さず食べた。
「だ、大丈夫です……ルイス訓練生。はぁはぁ……私もミストさんも、強力な胃腸薬は既に飲みました。王城につく頃には落ち着くはずで……うぅ……む、胸やけがぁ……!」
「………あなたも何をしているんですか、秘書官。軍人として食事量程度コントロールしてください。まぁもういいです。それより話を続けます。謁見後は基本1週間後まで自由時間となっていましたが、予定を変更しその足で教会の総本山に向かってください」
ルイスからの指示にシンシアはやや疑問符を浮かべる。教会とは統一国の4大組織の1つであり、天十字教という国教を信仰、守護している組織である。魔法連のようなこの世界の理たる魔法研究を行う組織や魔族からの侵攻を押さえる騎士団、統一軍と比べ派手さこそはないが、医療福祉などの管理も行っている縁の下の力持ちなのだ。
シンシアにとってはナタリーやイレクトアのせいで悪印象を持ちがちな魔法連、騎士団と比べ特に何とも思っていないが、それ故に特に要件も思いつかなかった。
「教会には全てを見定める魔眼の持つ勇者候補がいます。彼女に頼めばあなた達の勇者としての力を調べてくれるはずです」
「……スキルって奴か」
寝転び顔を青ざめながらもミストは確信をもって呟き、ルイスも肯定するようにうなずく。
スキル。それは勇者紋が与えた魔法とは違う異能の力。その力を初めて見せたイレクトアは増殖の力を手に入れており原子単位で消滅させない限り回復、修復を思いのままにしていた。
「基本、スキルは使用用途が限定的な代わりにその発動には魔力や活力は一切使用しません。そしてその内容は持ち主が最も使いやすいものとなっていることがほとんどです」
「使用にリスクがなく、使用者のスペックを完全に引き出す能力が多いってことか……聞けば聞くほどぶっ壊れた力だね。……いやそんぐらいぶっ壊れてなくちゃ、魔王は殺せないってことか」
「それどころか自らの技能とスキルを併せられなければ……進化魔族、魔将すら難しいでしょうね」
なるほどね、と呟いた後、話している間に少しはましになったのか、ミストはゆっくりと起き上がる。それと同時に運転手から声がかかる。
「今城下町、通称貴族街に入りました。後10分ほどで到着します」
それを聞いたミストとシンシアは魔導車の窓から外の光景を眺める。
掃除用の人工精霊が常時掃除をしているためか非常にキレイで伝統を感じられる美しい街並。仕事に行くのか歩く人々は皆新品のような礼服や制服を着ていた。
そして何よりこの王都のちょうど中心部に生える巨大魔樹木、「セフィロト」に添うように建てられた豪華な王城が視線を釘付けにした。
「魔法学校に行ってた時から見てはいたけど、改めて見るとやっぱりデッカ……!!」
「……まさかまたここに戻ってくることになるとは……人生何があるか分からないね、ホント……」
純粋に感嘆の声を上げるシンシアと呆れるように溜息を吐きながら吐き捨てるミスト。
魔法の神に嫌われた彼女達が、魔法の世界を統べる最大権力者たちと出会うまで、そう長い時間はもうかからない。
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王城の最上階にある王の謁見の間。そこでは魔法連、教会、騎士団、そして統一軍の最高責任者とその側近たちが整列していた。その中にはヴォルフの姿もあり彼は目の前で座る5人のとある貴族たちを眺めていた。
「………それで、今日儂に会いに来る勇者候補の三人はもうすぐ来るのかね。カラレス提督」
「はい、先王陛下。サファイヤから既に報告があり後10分ほどで王城に到着するようです」
「……ほう、軍の勇者宿舎からここまではかなりの距離があるというのにそんなに早く……魔導車だったか、お前の発明はやはり素晴らしいな。魔王討伐が終わったら正式に量産を検討してみるか」
ありがたき幸せ、とヴォルフは豪奢な王座に座る白髪の老齢の男性に恭しく礼をする。
あの老齢の男性はバルカン・ラックリバー。この統一王国の先代国王であり、まだ若い王に代わり、事実上のこの国の支配者に当たる人物である。良くも悪くも合理主義でありこの国に役立つのであれば魔術も積極的に取り入れるという齢に見合わない柔軟性の持ち主である。だがそれゆえに敵も多い。今でもバルカンの先ほどの発言に対し、教会と騎士団の一部、魔法連のほぼ全員、そして彼の両サイドに併設されている計4つの玉座に座る公爵のうち3人は一瞬とはいえ不満げな視線を投げかけていた。
否、正確には公爵の内の一人白髪が混じった金髪をオールバックに纏めた不機嫌そうな男性は今なお不満そうな表情をしていた。自分が睨まれるなどいつものことであるため他の者達は無視したが、ここまでずっとそんな表情をされればバルカンとて聞かないわけにはいかない。バルカンはため息をつきつつ、その人物に話しかける。
「トルキシオン公。何か言いたいことがあるか?」
「……では一つだけ。先王陛下。ここは公式な場であります。今のような不用意な発言はお控えください。魔術省や軍がつけ上がります」
「……いい物をいいということが、不用意な発言だと?」
「その通りです。百歩譲って魔導具が、魔術が優れたものであったとしても、所詮は魔法の模した下賤な技術。それを認めることは魔法への、それを研鑽してきた先人たちへの冒涜になります」
トルキシオン公の言葉にバルカンは口元を押さえて隠しつつため息をつくと「分かった、気を付けよう」とバルカンは呟く。それに対し大多数の者達は、よくぞ言ってくれた、とばかりに表情を明るくするが軍の者達や少数の者達は逆に表情を暗くするのであった。
ベツレム・トルキシオン。四大公爵家トルキシオン家の現当主兼魔法連の会長でもある男であり、この国では珍しくない魔法絶対思想を持つ人物である。
ヴォルフは敬礼の姿勢を維持しつつも、内心大きくため息を行った。
(やはり謁見では奴が一番の障害だな。奴は魔法が使えない人間を徹底的に差別する。ミストはもちろん、サファイヤの情報通りであればシンシアも魔法そのものが使えるわけではない。
今日は荒れそうだな…………)
そうヴォルフが物思いにふけった、その時であった。ついにその時が来た。使用人の青年が礼をし謁見の間に入ると、よく通る声で宣言する。
『お待たせしました!!王下謁見に来られた勇者候補の3名様が到着されました!!まもなく来られます!!』




