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仕返し終了

「………は、はぁ?!あ、あんた、何を言って………!!!」

「だってもう負け確じゃん。剣は消えたし腕はボロボロだし、もう最悪だよ~私もう帰るわ~!」


 どこまでもにこやかに、怪我や出血がなければそれこそ日常通りの姿を見せたイレクトアは指を鳴らし増殖によって増えていた刃をすべて塵にするとその場から立ち去ろうとする。当然ナタリーは止めるため、声を荒げる。


「な、何を、本当に何を言っているのか分かってるの?!アンタは騎士なのよ?!貴族を命を変えて守るのが仕事でしょうが!!!その仕事を放棄するというの?!」

「仕事、ねぇ。………生憎私はどっかの馬鹿が言うには貴族の血を穢した売春婦の娘らしいんでね~。仕事に対する誇りとか、馬鹿のために命を捨てる覚悟とか、全くないでーす♡

 と、いうわけでお二人ともまたねー♪………選抜会の時は、今度こそ殺してあげるよ、シンシア。………そして、ミスト……!!」


 彼女の発言にわなわなと震えながら何の言葉も発せなかったナタリーを無視し、イレクトアはそう捨てセリフを吐き、足に強化魔法をかけてそのままジャンプあっという間に校舎を囲う壁に着地する

 シンシアはその後ろ姿を目で追っており、一瞬掌を彼女に向けようとするが、


「やめときなよ、シンシア。アンタはまだ力をコントロールできるわけじゃない、その状態で手負いの獣を相手すれば最悪()()()()()()を失うぞ」

「………分かってる。あの人にもいろいろ言いたいことはあるけど、 

 まずは、こっちだよね」


 そう言うシンシアの視線の先にはナタリーの姿があり、それに気が付いたナタリーは悲鳴を上げ逃げようとするが、腰が抜けてしまってるせいかまともに動くことができず、尻もちを付いたままズリズリと後ろに下がるしかできなかった。しかしそれも長くは続かず校舎の瓦礫のせいで止まってしまいそれ以上後ろに下がることができなかった。

 まるでその動きは死にかけの虫けらそのものであったがシンシアの顔には一切の哀れみはなく、もはや怒りを通り越して冷たい視線をナタリーに浴びせつつゆっくりと歩を進めていた。その右こぶしには先ほどよりも濃い赤金色の魔力がすでに纏われていた。


「待ってぇ、待ってぇぇっっ!!!!そんなの受けたら死ぬ、死んじゃうぅ!!魔法連合、4大侯爵の至宝!!ナタリー・トルキシオンが、しんじゃうぅぅぅぅーーーーー!!!」

「………アタシはともかく、ミストちゃんはさっき、アンタに痛めつけられ、殺されかけた。……待つわけないでしょ」


 そう言うと、シンシアはゆっくりと屈み、ナタリーが来ているボンテージの胸元を掴むと弓を引き絞るように魔力を纏った右こぶしを引く。その拳の照準はナタリーの顔ど真ん中を示していた。


「………ひぃひぃんひぃぃぃーーー!!!待って、そうだぁ!!そつ、お金、お金を上げるわぁ!!3代先まで遊んで暮らせるだけのお金!!そ、それでも足りないなら!!私が飼ってるイケメンもいくらでもあげるぅぅぅ!!だ、だからやめ……!!!」

「………本当に、ほんとうーーーーに、

 





 うるさいんだよッッッッッ!!!!!!」


 ナタリーの醜い命乞いを一蹴し、シンシアは魔力のこもった右こぶしを怒声と共に叩き込む。その一撃とそれによって生じた魔力の衝撃波は後ろの残っていた校舎の残骸を消し飛ばしただけでなく、後ろにあった他校舎約3棟を抉り飛ばしながら破壊し粉々にしていたのであった。

 爆風が収まりその惨状を見たミストはあまりの光景に一周回って若干笑みを浮かべてながらシンシアに近づいた。


「凄まじいなこりゃ。私の失敗傑作の中でもここまでの規模の破壊ができるのは片手で数えられるほどでしかない。とんでもないもん見せてもらえたよ。

 ………で、()()()の扱いそれでよかったの?」


 ミストの視線の先には支えとなる後ろの壁が壊れたことで気絶しているナタリーの姿があった。あの一撃シンシアは拳を打ち出す瞬間わずかに右にずらして当たらないようにしていたのだ。しかしそれで十分だったのか、」ナタリーは死の恐怖のせいか金髪だった髪の毛は白髪に変わってしまっており顔からは涙よだれ鼻水が垂れ流しで白目をむき、胸元のボンテージの生地が破けたせいで、薄い胸が外気にさらされ、蟹股になっている足の間には失禁したことによって黄色い水たまりが広がっていた。

 うわひっどい状態、とミストは考えつつも懐に忍ばせていた魔導具によって写真の撮影を行う。


「私からすれば、脅しの材料ができるからよかったけど………別に殺してもよかったんだぞ?少なくても私は責めない」

「………そりゃ、殺したいぐらい憎いけど………きっとあの人は、こんなことで人を殺さない。………それに」


 シンシアは顔を上げて自分が作り出した破壊の光景を見る。普通の人間なら驚き、この学校の生徒ならば嘆き悲しむだろう。だがしかし、シンシアは違った。自分を排斥し、徹底的にイジメ、見て見ぬフリをし続けた、制服がかわいい以外、何一ついい思い出がない王都魔法女子学校の破壊跡の光景を見たシンシアの顔には、

 息苦しさから解放されたかのような、清々しい笑みが浮かんでいた。


「アタシ今、すっっっっっっっっっっごく!!すっきりしたっ!!」

「………フフ、そりゃよかった」


 とその時だった。


「オイこれはどういうことだ?!!通報があったと爆発が起きて思ったら校舎が倒壊している?!何が起こってるんだ?!」

「魔法学園を標的にしたテロか?!」

「夜だから人はいないだろうが、負傷者はいないか探せ!!」


 突如として男性たちの声が聞こえたためミストは自分のボロボロになったコートを下着姿のシンシアに羽織らせ足に鬼筋鎧・零式の帯を展開そのまま音を立てないよう物陰へと隠れる。ただこの物陰はどうせすぐ見つかってしまう


(あれは……騎士団の第1師団か……。厄介だ、今ので鬼筋鎧も完全にイカれた、逃げ切るのは難しい……。シンシア、もうここまでやった以上何人やろうと同じ、吹き飛ばせる?)

(吹き飛ばせないよ駄目だよ?!ナタリー達ならともかく全く関係ない人たちを攻撃なんてできないよ!!)

(………あんな戦いの後によくそんなはなしができますね……。)


 小声でこの場を脱する策を話していたミストとシンシアの間にやっと合流できたサファイヤが自然な形で入ってくる。彼女はこのタイミングで二人に水の隠蔽魔法を使い擬態状態を作った。

 サファイヤ急に現れたことで声をあげそうになったシンシアの口をミストは塞ぐとサファイヤに今後の話をする。


(サファイヤ、アンタもその様子だと体が治ったようだね)

(ええ、シンシアさんのおかげで。……一先ずここから避難しますよ)

(でもどうやって逃げるんですか、隠蔽魔法って言っても動いたらバレやすいんじゃ)

(だったら、連中の視線を誘導してやればいい。サファイヤ、車で渡したアレを使って)

(…………うっ、……はぁ始末書の量がまた増えそうです。)


 サファイヤは憂鬱そうな表情をしながら太ももにベルトで止めていたケースから1つボタンを取り出す。それの安全装置と思われるケースを外しボタンを押した次の瞬間、

 どこかで大爆発が起き先ほどのシンシアの攻撃に負けず劣らずな爆音と黒い煙を上空へと昇らせていた。


「な、なんだ?!あれは、校門方面か?!」

「爆発テロ……!!一体何が起こってるんだ?!」

「女性騎士はこの場に残って、彼女の移送を、私達と第一部隊で爆心地の様子を確認していく。残りの者はこの場の監視と状況確認を行え!!」


 この場で一番偉いと思われる騎士がてきぱきと指示を行った後、命令された者たちはそれぞれ迅速な行動をとっていくが、その前にすでにミスト達は隠蔽魔法をかけた状態で動き始め、被害現場から逃げだしていた。だが、


(ちょ、降ろしてって、別に走れる!!)

(駄目だよ!!あんなに血が出て貧血気味なんでしょ!!任せといて!!)

(お二人とも、そういうのは出た後で、もっと緊張感持って!!)


 恥ずかしがるミストを無視して、シンシアは彼女をお姫様抱っこしながらサファイヤの案内の下、こうして安全圏にまで走っていくのであった。



 騎士たちの目をかいくぐり、逃げたミスト達。だがその様子を魔法学園の時計塔の上から眺める人物の姿があった。その人物は通信魔法を使い、自らの雇い主に報告する。


「………どうしますか、()()()()()()()()、妹君とイレクトアを倒した者達が逃げますが、どうしますか?」

【……いや、構わないよ、この件の責任は全て我が愚妹だ。敵討ち、なんてする意味がないよ。ハンナ、戻ってきてくれ】


 了解、とその人物が呟くと通信魔法は切れる。その後も謎の人物はずっとミスト達を眺めていたが、次の瞬間には、





 そこには、何もいなかった。

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