全てを壊す 原始の破壊者
サファイヤの話を聞き、ミストは思わず生唾を飲み込む。初代国王。その存在は魔法嫌いのミストであっても知っていた。
ここ人間界がいまだ多数の国に分かれ戦争を行っていた時、それをすべて平定させた賢王にして、全てを燃やす獄炎の魔龍王カマルテに勝利した最強の魔法使い。もう千年以上前なので残っている情報は少ないものの生命属性魔力の副産物で回復魔法抜きで自分の体を治し、魔法も使わず指を振るっただけで木々を生い茂らせ、魔法を使えば死者すら蘇生し、逆に相手の生命を吸い取ってどんな敵でも倒すなどおとぎ話の英雄と呼ぶにふさわしい存在であった。
そしてその初代国王とシンシアが生命属性の特性を持つ魔力持ち、要するに生命魔法の適性を持つ人物であるという事実に衝撃を受けるのであった。
「………だが、それなら納得できる。あいつの血縁関係には一切有名貴族や凄腕魔法使いの存在がない。にもかかわらず国の上層部がわざわざ田舎まで出向いてシンシアをスカウトしに行ったのはそういう理由があったからか……。」
「ええ、おそらく神託魔法の副産物か何かで知ったんでしょうね。………そしておそらくそれが彼女が生徒からはともかく学校や国側にまで排斥される原因となったんでしょう」
「………シンシアが魔力出力不全症にかかっていることを知ったアイツらは………勝手に期待したくせに勝手に失望して、シンシアが理不尽な行いを受けていても見てみぬふりをしたってことか…………屑どもめ」
ミストは心底嫌悪するように吐き捨てる。サファイヤも表情こそは変えていなかったが、怒りのせいか操縦桿を握る手は明らかに力が入っていた。だ後今後話す本命のためにサファイヤはゆっくりと深呼吸をし呼吸を整え、怒りの感情を収めた後、話を続ける。
「………話を変えますが、ミストさん。転移大規模魔法の欠点はご存じですか?」
「……発動に人数が必要なことと、発動にそれなりの時間がかかること、後……
物体の魔力が多すぎると機能不全を起こす、とかだったか?」
「はい、空間魔法は極めて繊細な魔法に分類されます。大きすぎる魔力は魔法の安定性を乱してしまうため、基本的に今学校や軍で教える空間魔法は一定以上の魔力対象を転移させようとする時、強制的に中断されるようになっているんです」
ミストはサファイヤが何を言いたいのか分からなかったが、それに気が付いていたサファイヤは「一緒に渡した別資料を見てください」と告げる。ミストは彼女の言う通りその資料を確認するとそれはどうやら論文の一部ようであり題名には「生物の自己治癒能力と魔力の関係性」と書かれていた。ミストはその内容の内赤いラインマーカーが引かれている文を確認する。
『50人の魔法使いと50人の魔法不全者を対象に細胞の修復速度を比較。そうした時魔法不全者に比べ魔法使いの細胞の修復速度は庭平均で約30%ほど早いことが分かった。また魔力保有量が高い者や属性特性をもつ者は最大で不全者に比べ約40%ほど治癒速度に差があることが分かった。これにより魔力保有量、製造量が多い人間はそれだけ高い自己治癒能力を有していることが分かった。』
『また飢餓状態を意図的に作った時でも魔法使いの方が不全者と比べ健康被害に出るまでの期間が長かった。魔力は緊急時での代理栄養にもなることも分かった。』
「………細胞の修復……魔力保有量と比例………これが本当だとすれば……まさか……!!」
「………ええ、そのまさかだと思います。これが、彼女がありあらゆる虐待を受けてなお、今日まで体は健康で生きてこれた、秘密。
シンシアさんは、自分自身の生命属性魔力の作用と……推定、魔法使い数百人分に相当する魔力保有量、製造量のおかげ……と、私は考えています」
*
「……サファイヤの仮説は大正解だったみたいだね。……この破壊規模、確かに大魔法使い数百人分といっても過言じゃない……!!」
「………つまり転移大規模魔法はナタリーは使わなかったんじゃなくて、使えなかったってことか……!!それならそれでサファイヤさん捕まえた時にそれを連絡しろよなぁ………!!それならいくらでも対策は取れたのに……!!」
ミストの説明を聞いたイレクトアは傷を治しつつ怒りを込めた視線を後ろでへたり込んでいるナタリーへと向け、自分にだけ聞こえるような声で恨み言を言う。
普段ならばそのような表情を向けられるだけでナタリーはヒステリックに喚き散らすのであるが、そんなことには気も回らないのか裏返るながら声を上げる。
「す、数百人分の、魔力?!ゆ、ゆる、許される、はずがないぃ………!!ただの魔力放出が、子供の児戯がぁ?!1000年かけて研鑽された戦術魔法に打ち勝つですってぇ?!!そんなの、そんなの!!冒涜よぉ!!!」
ナタリーは半狂乱になりながら喚きまくり、内心ミスト、イレクトアは「うるせぇ」と思っていたが、そんな彼女達でもわずかにながら彼女の気持ちは理解できた。
魔力とは例えるならば火種である。大きければ大きいほど良いものではあるが本質はそこではない。それを魔法という形に出力し様々な効果に使うことで初めて意味を成すものである。それは普通の魔法であっても人造魔法、魔術であっても変わりはない。
しかしこのシンシアの使い方はその根底にある常識を嘲笑うのように破壊する。
まるで、こう言われているようにも感じてしまうのだ。
『1の魔力を10にも100にもするのが魔法、だったら最初から1000の魔力をぶつけた方が早くね?』と
(………伝統と才能も技術と努力も、それら全てをただ圧倒的な魔力で全否定する原始の破壊者、それこそあんた達が踏み続けたグリフォンの尾の持ち主、
シンシア・ニルフェン………!!今確信した、こいつは今……勇者筆頭候補になり上がった!!)
「………今回ばかりは少し同情するよイレクトア。最強とバカ令嬢に挟まれるなんざ、私はごめんだね」
心底憐れむようにミストが笑みを浮かべる中、シンシアはゆっくりと歩を前に進める。それに対しイレクトアは冷や汗を流し、ほぼ無意識の内に一歩後ろに後退するが、その瞬間、後ろから喚き声が響く。
「イレクトアぁ!!!何を下がってるの!!アンタそれでも私と並ぶ騎士なの?!!アンタは強い以外何のとりえもないカスのくせに、貴族の命を守るという当たり前の任務も果たせないの?!!
命に代えてもぉ!!さっさとその化け物を殺しなさいよぉぉぉ!!!」
ナタリーのあまりにも身勝手極まりない叫びの数々にシンシアはさらに嫌悪と怒りで瞳を燃やすが、ミストは「あーあ、やっちゃった」とでも言わんばかりに鼻で笑い、イレクトアは、
「………ふふふ………あーははははははははっっ☆☆☆」
体中傷だらけ血まで少なくない量流しながらハツラツとした表情のまま笑い始めたのであった。これに対しては怒りに燃えていたシンシア、ヒステリックになっていたナタリーも一瞬驚き固まってしまっていた。ただ一通り終わると最低限度の回復が完了したのか、痛みの訴えをしながらも右手を動かし大笑いしたせいで浮かんだ目じりの涙をふく。そして彼女は言い放った。
「あーー、やめやめ!!遊びはここでおしまいにしときますか!!」




