覚醒めた力 その3
「私を、ぶっ飛ばすぅ?!やれるものならやってみなさい!!私の切札!!
この戦術級魔法を食らって、肉片が残ってればねぇ!!」
瞬間ナタリーの周りの空間、足元の地面には均等に配列された4つの正円を大きな円が囲んでいるような形をした図形が浮かび上がり、さらにその円には幾何学模様が浮かび上がっていく。
「……熱さと乾きにより火は生まれ生命を照らす。乾きと冷たさによる土は生まれ恵みをもたらす。冷たさと湿りにより水は生まれ命を流転させる。湿りと熱さにより風は生まれ祈りを遠き地へ運ぶ。」
ナタリーの詠唱に合わせて展開されている円、魔方陣は回転していき、その色は赤黄青緑、と絶え間ない速度で変わってゆく。次第にその色は白へと変っていき、空中に展開されていた無数の魔方陣はナタリーの前へと重なる。この時ほぼ同じタイミングでシンシアは自分の体をゆっくりと右側にねじり右腕を伸ばす。
何かの準備をしていたのはナタリーも察したが、もはやどのような小細工もこの魔法の前では意味もないことを知っているのか、構わず最後の詠唱を行う。
「火土水風。命と世界を司る四元素。全て重なり神が与えし至上の神光へと変わる。その光を以って、
世界を穢す者へと、破滅の制裁を!!!」
ナタリーが最後の詠唱を終えた瞬間、一番前に展開されていた魔方陣に他の魔方陣が重なり、重なった魔方陣から白い光と共に極めて太いレーザーがシンシアに向かって放たれる。
戦術級光魔法、エーテル・カタストロフ。本来4人以上で放ち大型の魔物や対要塞破壊に用いられる極めて破壊力の高い魔法である。もちろん今回はナタリー1人で発動させているためその射程や規模は本家と比べれば当然劣るが、当たった対象を粒子レベルで分解する破壊力は据え置きのままである。基本同じく戦術級の結界魔法でもなければ防げる可能性すら生まれない絶対魔法、シンシアでは防ぐことはできず後ろにいるミスト含め死体さえ残らない死が彼女達に送られる、はずであったが。
「………長いし、遅い!!!」
シンシアはレーザーが発射されると同時に引き絞っていた右腕を大きく薙ぐ。それとほぼ同時にシンシアの腕は赤金色の巨大な魔力玉に包まれ、彼女が腕を振り抜くと同時に、その巨球は放たれ、ナタリーの極太光魔法と正面衝突し、そして。
一瞬の力比べもなく、巨球はレーザーを圧していき霧散させていく。その現実に一瞬受け入れられないナタリーは呆け固まってしまうが、その間に全身と直剣を限界ぎりぎりまで強化したイレクトアが巨球と彼女との間に入り、魔力刃によって大剣と化した直剣を叩きつける。イレクトアの剣に付けられたソードエンチャントはそれこそドラゴン級のブレスさえ容易に両断できるはずの切れ味を持っている、しかし巨球を切ることはできず逆に彼女の体が押され始めていく。
(このバカは……クソ、やっぱいまだ呆けてる!!逃げてよねぇ!!!)
「クソッッッ……たれがぁァァァァーーー!!!」
イレクトアは声を上げ剣の握りをさらに強め押し込むと巨球を何とか真っ二つにし左後ろ、右後ろにそれぞれの方向逸れていく。イレクトア、ナタリーは一応は無事であったが逸れた巨球の残滓は後ろの校舎へと直撃、倒壊させていくのであった。
更に言うならば無事、とは言ったもののイレクトアが負ったダメージはかなり大きかったあの巨球を壊すために限界を超えて強化魔法をかけ続けたせいか、武器は粉々に砕け塵に帰り、腕は血が噴き出し流れ、力が入らないのかダランと垂れ下がっていた。ナタリーはダメージこそなかったものの魔力の大半を使って放った戦術級魔法をあっさりと破られたことにより腰を抜かし、得体のしれない恐怖のせいで涙を流し震えていた。
「何よ……一体何なのよ今の力はァ?!!な、なんで、私の、魔法が、最強の魔法がぁ!!!あんなあっさりィ??!!それに、お前は魔法を使えない欠陥品のはずぅ、なんで魔法がつかるのよ、どうしてぇ?!!!」
「ハァハァ………いいや……お嬢様。今の攻撃は……魔法じゃない……」
半狂乱になって喚き続けるナタリーに対し、増殖スキルで最低限度の回復をしているイレクトアは息を絶え絶えにしながら呟く。イレクトアは今の巨球を両断したことでシンシアの攻撃の正体を嫌が応にも理解したのだが、そんな彼女でも本心では理解を拒んでいた。
もしこれがが付いている以上本当に事実なら、それはこの社会すべてを否定することになるからだ。だからこそ彼女はそれを口に出すことができなかった。
そして、この社会を嫌っていたミストだからこそ、その仮説を、否真実を口に出すことができた。
「………あれは、魔力放出……ということはサファイヤの仮説が正しかったってことか……!!」
*
今から約20分前。ミストとサファイヤは魔導車に乗って移動中、今後の作戦について考えていた。シンシア救出作戦では様々な懸念材料があった。その大まかな問題は3つ。
①監禁場所を守っているであろうイレクトアの存在
②監禁場所のトラップや空間迷宮
③ナタリー達が空間魔法などを使い逃げる可能性
などがあった。
①に関してはもし戦うしかないのならサファイヤは自分も共闘することを提案したが、サファイヤでは頭数にもならない、人質に取られたら詰むという理由から却下。結局ミストが時間稼ぎを行うこととなった。ミスト自身は倒すつもりであったが。
②はサファイヤが軍が魔術省から借りてきた対ダンジョン用羅針盤を持ち出していた。これにより空間迷宮に迷うことなくシンシアが囚われている場所に行ける。ただ魔術省、という名前をサファイヤが出した時ミストは非常に嫌な顔をしたが「……まぁ背に腹は代えられないか」と納得していた。
そして③であるが、
「………正直、ここが一番の難題だね。もう反魔法の魔導具も尽きた妨害する方法がない。おそらく校舎に侵入した時点でバレる。そうなればあのイレクトアだ。確実に空間魔法で逃げるよう指示を出すはずだ。………逃げる時の足がなくなるのは痛いが、この魔導車で突撃して時間を短縮するか……」
「……おそらく………いえ訂正します。彼女達は間違いなく空間魔法を使ってくることはないはずです。そこは気にしなくていいでしょう」
「……なんでそう言い切れる。腐っても連中はこの魔法学校の生徒、しかも公爵令嬢が選んだ取り巻き達だ。それなりに魔法技能はあるはず……」
「それ以前の問題です。こちらを」
サファイヤは運転しながら後ろにいるミストに1枚のクリアファイルを渡した。ミストはそれを受け取り確認するとそれはどうやらシンシアに関する資料であった。身長や体重などのパーソナルデータから家族構成、魔法学校での成績など事細かく書かれていた。
「ミストさんは、シンシアさんがどういう経緯で1年前スカウトされたか知っていますか?」
「確か……高品質な魔力を生み出せるとか何とか……?!って、これは……?!」
「気づきましたか?そうシンシアさんは属性特性を持つ魔力を持っていた、しかもその属性は『生命』属性……。
この統一国家を作られた最初の勇者様にして初代国王の全く同じなんです」