覚醒めた力 その1
「……さ、最期のおしゃべりは終わったかしら?!さあ裁きを下してあげるわ……!!」
「……なんだ、わざわざおしゃべりを終わるの待ってくれてたのか。
てっきりビビって攻撃できないのかと思ったよ」
ミストの言った言葉に対しナタリーは顔を引きつらせながら笑みを浮かべていたのに対し、一瞬にして額に青筋を浮かべ顔をしかめる。こいつ煽り耐性本当にないな、とミストは内心鼻で笑いながら、それを顔には出さずそのまま続ける。
「……アンタはさ、正直魔法の腕はかなりのものだよ、私の攻撃に耐えるし高難度の念動魔法をこうやって維持している。……憎たらしいが初代勇者パーティで構成された、公爵家の末裔、といわれて納得する実力だ。カタログスペックだけならサファイヤより上なんじゃない?
だからこそ疑問なんだ、なんでそんなに弱い?」
「貴、様ぁ……!!」
「相手は死にかけで、さらに念動魔法で動けなくして、ほとんど勝ち確状態にもかかわらずやってることは、遠距離からチクチク攻撃……。……そんなにさっき、自分に腹パンした私が怖い?はっ、情けない!
悔しかったら、自分の手で直接!!私の首を落として見せなよよ、ベチャパイ女!!」
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっーーーー!!!!見えざる剣よ・不敬なるもの共に・断罪をッッッ!!!!」
ミストの長髪によりついにブチ切れたナタリーは怒号を上げると、手元に念動魔法によって力場の剣を生成する。ナタリーはその剣を地面に叩きつけるとその部分は剣の中に吸い込まれ、最終的に消滅してしまった。もしもあの剣が人間に当たってしまえばどうなるかは、考えるまでもなかった。
「魔法が使えなく屑のくせに!!!生きているだけで魔法社会を害する塵のくせに!!!私を、コケに!!!弱いなど!!!ひ、胸が控えめだとぉぉぉッッッ!!!!絶対に、絶対に許さないッッッ!!!
ここで死ねぇ!!社会のガンがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ナタリーは力場剣を振り上げると共に、自分自身に強化魔法をかけミストに向かって突進する。それに対してミストは体がボロボロで動くこともままならない様子。勝負は目に見えていたはずであった。しかしこの時ナタリー以外の全員が気が付いていた。
自分のかかる念動圧力が、明らかに落ちていることを。
(…………念動魔法は出力調整が難しい繊細な魔法です。当然あんな怒り状態であの剣に集中させれば圧力も緩む!!これならいける!!)
「マジック・ウォッシュ!!」
サファイヤは右掌に青い水の弾を出現させると、それを掌ごと地面に叩きつける。その瞬間波紋のように青い魔法がこの校舎全体へとしみわたっていき、念動魔法によって縛られていた者達を完全に解放する。
ナタリーもそれに気が付くが、怒りに支配されていたこと、なおかつミストはもう虫の息であることからかそのまま突っ込む。
「今更魔法を解除したところで!!お前にはもう何もできないでしょう?!悪あがきなんですよぉ!!!」
「……悪あがきで、十分だよ。お前を倒してシンシアを逃がすだけならなぁ!!」
ミストが叫んだ瞬間、彼女の腕に巻かれていた鬼筋鎧・零式の帯が全て、彼女の両足へと移り、再び巻かれていく。それによりミストは再び足を動かせるようになり、ナタリーが剣を振り下ろした瞬間、紙一重で体をずらし確殺の斬撃を回避、さらに回避した瞬間、左足に巻き付かれていた帯を右腕に巻かせ、ナタリーの首を掴む。
そして左足の支えがなくなったためミストはバランスを崩し、それと共に首を右手で掴まれ、足に右足を絡みつけられたナタリーもミストの重量と彼女が最後に振り絞った力に負け、そのまま一緒に倒れてしまった。
「グゥ……ガァッッ…?!」
「今だサファイヤ!!シンシアを連れて第1師団の屯所がある北西方向へ迎えぇ!!」
「……!!!……はい!!!アクア・コンボイ!!!」
ミストの必死の叫びの意図を悟ってしまったサファイヤは一瞬顔を葛藤に歪ませるが、すぐさま意を決し、水魔法でできた馬と馬車を生成、固まってしまっているシンシアを担ぎその馬車の中へと乗り込んだ。
その姿を見たナタリーは詠唱し魔法によって止めようとするが、喉をミストによって締められているせいでまとも魔法用の発声を出すことができなかった。そうしている間に水の馬車は動き始め校舎を囲う壁を蹴散らしつつ、飛び出していった。
「動けなくなるレベルのあの念動魔法、略式じゃあ使えないんだろ?!だったらもう出せないなぁ!!!もっとも略式も使わせない、ここでへし折る!!」
「………!!イ、イイイイイイレクトアァァァァ………!!ばやぐ、だずげろぉぉ……!!!」
「………言われなくても分かってるよ、アホ令嬢……!!ハァッッ!!!」
小声で悪態をつきながらイレクトアは全身に強化魔法を発動し校舎屋上からミスト達がいる方へと真っすぐ飛び降りる。その光景を見てミストはナタリーの首を絞める力を緩めず、鉄マスクに隠れた口角をわずかに緩める。
(コイツを盾にしたところで、相手はあのイレクトアだ。あっさり躱して私の首を落とせるだろうな。だがいくらお前でもその状態から時速100㎞越えのあの魔法に乗るあいつらに追いつけるか?……できるだろうが、その前にサファイヤたちは確実に合流する……!!………後悔がないと言えばうそになるけど、まぁ満足だね)
「私の、勝ちだ」
目の前には既に鬼気迫る表情のイレクトアが不規則な軌道の剣を振るい、盾にしていたナタリーを躱し、彼女の直剣はミストの首へと迫っていた。ミストはそれを受け入れるように目をつぶり、そして、
彼女の首が斬り落とされる。
そう思われた瞬間だった。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!!!!!」
激しい叫び声が響いたその時、
「げごぉえぇぇっっっーーー?!!」
「ッッッーーー!!!これは……きゃぁ?!!」
ナタリーとイレクトアが周りの地面と共に何かの力に吹き飛ばされ、校舎へとぶつかってしまった。一方轟音によって目を開けたミストは目の前の異常な光景に流石に驚愕してしまう。なぜならば地面とともイレクトア達を抉り飛ばした、凄まじい魔力の衝撃波を自分も受けたはずである。にもかかわらず、自分と自分が今座り込んでいる地面は一切ダメージが言っていないのだ。
というか、それどころではない。
「……なんだこれ、なんで……体が動く、痛みも消えてる?!」
ミストは魔導具の補助抜きに立ち上がり自分の手を何度も開けたり閉じたりしする。そんなことをしても、痛むどころか以前により調子がいいとさえ思えてしまう。だがそんな驚愕に囚われていた時突如めまいに襲われてしまう。
(………これは、貧血の症状、か……?!体は治っても吹き出た血は戻ってない、ということは回復魔法じゃないな……。って考察してる場合じゃない!!まずい倒れ……!!)
ミストは鬼筋鎧・零式を始動させ、体を支えようとするがそれが間に合わず横倒しに倒れそうになるが、後ろから誰かに抱えられ事なきを得た。その人物とは、
「よかった……!!間に、あった……!!」
「シ、シンシ……ア……?!」
涙を流しながら安心したように笑い、先ほどとは違う、赤金色に輝く色濃い魔力を体に纏わせていた、シンシアの姿であった。




