追放魔術師 キリア・カラレスその3
「な、なぜぇ……なぜ拘束魔法が……!!いやそれ以前に、なぜ洗脳魔法が聞いていない……?!!」
「それは………ウッ……!」
突如苦しみだしたキリアは口から何かを吐き出す。胃液まみれのそれは小さい球状の赤い宝石であったが、宝石は地面に落ちると全体にひびが入っていきそのまま粉々に砕けてしまった。
「反魔宝球。私が生み出した身体干渉魔法を解除できる虎の子。これ一個で一般的な魔法なら6回分は無効にできる代物だ。………最も材料が稀少すぎて量産ができない失敗作だけどね」
「反魔法だと……!!貴様、魔法の無効にするなど、何とおぞましものを……!!」
「おぞましいね。……国の一大事にこんなガキ一人冤罪吹っ掛けようとする連中のほうがよほどおぞましいと思うけど……まぁいいやもうどうでも」
キリアは最低限衣服を整えると蹲る男を思いっきり蹴り飛ばし仰向けにするとポケットの中に入っていると思われたこのテントに出入りするための紋様が描かれた呪符を奪いとる。
「ありがとね。これを手に入れるのは私もだいぶリスクを覚悟してたからさ。こんなにあっさり手に入れられるなんて……実は私のことを助けに来てくれたとか?」
「ふざ、けるなッッ!!この、魔術師がぁ!!!」
自身を小ばかにするキリアへの理不尽な怒りが金的や腹部へのダメージによる痛みを凌駕し、男は立ち上がると懐から仰々しい装飾がされた短剣を取り出した。男が短剣を掲げるとその刀身は光始め、そのまま長大な光の刃が出現する。男は光の剣の切っ先をキリアへと向けるとそのまま男は突進し光の剣で彼女を斬りつける。
キリアはそれを流れるような動きで避けるとそのまま鉄製のブーツでの蹴りを放つが男は光の刃で受け止めてしまう。
「ソードエンチャント………。魔法騎士が使う剣を媒介にした魔法。ブツがなけりゃ何もできないのは魔術師が同じのくせに、よく魔術師のことをやいのやいの言えたもんだね」
「同じ……ちがうなぁ!!私達魔法騎士は魔法という神の祝福と武器という人の英知を併せている魔法使いの極点だ!!貴様のような神から見捨てられたことを一方的に僻み、理を超えようとする魔術師と同じなわけがないだろうが!!」
「……相変わらずあんたみたいな魔法大好き人間と話していると頭が痛くなる……もういい死ね」
「死ぬのは貴様だぁ!!」
男は淀みのない動作で剣を振り回し、空間全てに斬撃を放っていく。今男が振るっている光の剣は元々短剣であるつまり元々の重量はたかが知れているためこのような無茶苦茶な動きができるのである。
キリアも斬撃は全て紙一重で躱せているが、先ほど将軍に痛めつけれたことによるダメージが抜け切れていないのか表情は苦しげであった。
「ハハハハ!!どうだ私の剣技は!!空間を埋め尽くすこの斬撃!!もはや先代勇者ヴォルフもあっさり超えているわ!!」
「………ハッ確かにあのジジイはこんな技は使わないな。
こんな、技ともいえない御遊びをなぁ!!」
そう叫ぶとキリアは右耳に付けていたピアスの赤い宝石を追ことに気づかれないよう素早い動作で外す。するとその宝石は瞬時にして赤い針のような形になり、彼女はそれを男が剣を振り下ろすと共にサイドスローで放つ。針はぐんぐんそのスピードを上げていき、男が気が付いた時にはもう遅く針は男の左目に深々と突き刺さった。
「あぎゃっっ!!!ギャアアアア!!め、めめめ、目がァァァァァァァ?!!」
男は思わず短剣を取りこぼし両腕で針が刺さった右目を覆い絶叫を上げる。その間にキリアは彼の傍へと近づくと落ちていた短剣を拾い上げる。半狂乱になっていた男であったが自身の短剣が奪われたことを気が付くと大声で叫び散らかす。
「か、かか返せぇ!!それは俺の家の家宝、ぴぎゃぁぁ!!」
「うるさい黙れ。こっちは忙しいんだよ」
迫る男に対しキリアは目を覆っている手に目掛けて蹴りを入れると、突き刺さった針がさらに痛むのか男はさらに絶叫を上げていた。そんな男は無視して、キリアは今度は左耳についていたピアスの宝石を針に変化させ、奪った短剣の刀身に何かしらの文字のような羅列を入れていく。
針は短剣より硬いのかあっさりと削っていき、削る作業が終わると彼女は右親指に針をわずかに差し血を出させそれを刀身に刻み込んだ文字に塗り込んでいく。塗り込みが完了したするとゆっくりと短剣を握り息を吐いて集中、そのまま剣を軽く振りだると、
ブゥゥゥゥン!!!
と凄まじい轟音を鳴らし光の刃が顕現する。しかしその刃はさっきの男が使っていた刃よりも遥かに色濃く剣の幅も厚みも段違いであった。
「な、なぜおまえがソードエンチャントをぉ?!!お前、俺の剣に何をしたぁぁぁ?!!」
「別に、仕組みさえわかればソードエンチャントを発動できる簡易的な魔道具にすることなんて簡単だよ。……しかし急ぎでやったとはいえ中々いい出来の魔道具ができた。
さて、ちょうどいい木偶もいるし、試し切りと行くか」
「……!!ま、まて!!分かった!!お前の助命を閣下に進言してもいい!!俺の属家の妾になれるよう手配してもいい!!だ、だから……!!」
「………本当に、ほんとうーーーーに、
うるせぇ」
ブゥゥゥゥン、ブシャァァァァッッッ!!!
光の剣を持ちじりじりと近づくキリアに恐怖し無様な命乞いの言葉を吐く男であったが、キリアは一切反応せず冷たい顔のまま彼の頭を跳ね飛ばす。泣き別れした首からは血が噴き出し彼女の顔を汚すがキリアは一切動じず奪った通行証を手にテントの外へと歩いていくのであった。
*
報告書
真暦1×64年、第四前線部隊にて盗難行動を行ったとして拘束されていたキリア・カラレスが将校を惨殺し逃走。逃走が確認された段階で捜索を開始されるはずであったが、それをほぼ同時に魔族軍の襲撃を受けることとなり部隊は半壊キャンプを放棄せざる得なくなり、手がかりも全て喪失することとなった。
第四部隊隊長、カストロ・ブラウンはこの大敗北の原因はキリア・カラレスの一連の行為が原因と主張。これによりキリア・カラレス元兵長は特級戦犯として全国指名手配を発行することとなった。
しかし調べるとキリア・カラレスは交流こそ少なかったものの(削除済み)をするような人物ではないと証言があり(以下全て削除済み)ーーー。