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鬼筋鎧・零式 その2

「見抜いた?あんたみたいな脳筋に分かるとでも?」

「おおっと疑惑の目じゃーん♪……じゃ、答え合わせしてもらおっかな」


 イレクトアは剣の切っ先を再び折ると過剰強化魔法により塵に変える。再びあの刃群攻撃が来るのかとミストは身構えるが、イレクトアはその塵にい更に強化魔法をかけて輪郭を固定、彼女の魔法の対象となったためか塵は蠢き集まり小さな球体の形に変化させる。イレクトアはそれを左親指の腹の上に乗せると予め引き絞っていた強化中指で弾いた。弾かれた塵の玉はぐんぐんと勢いをつけて真っすぐミストに向かう


(ハイブルームソード。さっきとは密度も速度も段違い、おまけに増殖タイミングはこちらが任意設定可能。普通は初見回避は不能。でももしあれが私が思った通りの魔導具なら……!!)

「さぁ、お前の全て私に見せてみてよキリア・カラレス!!」

「……!!だから……!!」


 イレクトアの叫びと共に塵玉は大量の刃群に変貌、先ほどとは規模威力速度全てが段違いであるはずであるが、ミストの体に巻き付いた帯が再び蠢くと同時にミストは一気に最高速まで加速、刃の群れのわずかな抜け道を瞬時に潜り抜け再び短剣を構えてイレクトアへと迫る。だがイレクトアは防御姿勢は取っておらず余裕の笑みを浮かべていた。


「その名前で、私を呼ぶなぁ!!!」

「やぁーーーーな、こった☆」


パチンっ。ブッッッッッチ!!!


 そのままミストの刃がイレクトアの首に届くと思われたその時、イレクトアが指を鳴らした瞬間、何かが千切れる音が鳴る。それと同時にミストの目が大きく見開き突撃の速度を落としてしまっただけでなく、右手に持っていた短剣を落としてしまった。当然イレクトアはそんな攻撃はあっさり回避し鋭い左回し蹴りを繰り出すが、その瞬間ミストの体が赤黒い帯でできた毬のようなものに包まれイレクトアの蹴りを吸収、蹴り飛ばされるものの毬の中から出てきたミストは蹴りによるダメージはなかった。

 しかしミストはだらんと伸びている右腕を庇い先ほどの余裕そうな状態とは打って変わってかなり疲弊した様子を見せていた。

 よく見れば、右手に巻き付いていた帯が破壊され千切れていた。


「………君も知ってると思うけど、私の強化魔法は私以外は無生物限定。効果範囲は私の肌に身に着けているか、私の手に触っているもの。………でも私の魔法は君の知らない間に進化した、一度でも触ってさえいれば強化魔法を遠隔で発動できる……!!過剰強化範囲は、その辺りが精いっぱいだけどね」

「ハァハァ………!!」

「その帯が千切れた途端、右腕が動かなくなった。そしてさっきの帯、いや()()()。これで確定。その魔導具の正体、それは身体能力を強化する魔導具、なんてちゃちなものじゃない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()魔導具。違うかな?」

「……なるほど、その頭ん中、多少は脳細胞が詰まってたか……」


 鬼筋鎧・零式。それはイレクトアの推測通り、ミストが父の発明を発展させ作り出した形状記憶人工ウーツ鋼と昨日討伐したゴブリンを率いていたオーガの筋や健を材料に作りだした魔導具である。


「おそらくその魔導具はキリアちゃんが五感で得た情報から体に巻き付いた筋肉を収縮、その結果し神経伝達0で体を動かすことができる。ほぼ全行動を反射反応と同スピードで行える、そりゃ速い、いや素早いわけだ。正直それだけなら私も欲しいくらいだけど………やっぱりデメリットも私が思った通りだ。

 ……その腕、もうまともに動かないんじゃないの?」

「………!!」

「強化魔法による強化も抜きにそんな動き、とてもじゃないけどただの人間に耐えられるわけがない。おそらく体中激痛が走ってるし、筋や健は断裂しまくり、骨だっていくつか逝ってるんじゃないのぉ?」


 実際その通りである。ミストは現在体中激痛で体のあちこちが現在進行形で壊れている、はっきり言ってまともに戦える状態ではない。いつものミストならさっさと逃げて傷を癒す行動をとっているはずである。

 しかしミストは突如大笑いを始める。その様子にイレクトアは若干引くがその時彼女はある光景を目にする。それはミストが首に巻いていたスカーフ上の帯の一つが蠢くと伸びていき、そのまま右腕に巻き付き断裂部へと接続される。するとさっきまで動いていなかった右腕は正常に動くようになり手を開いたり閉じたりを繰り返すと、そのままミストは再び戦闘態勢をとる。


「………正気?まだ戦う気な訳?もうそっちの鬼札のスペックは見切った。どれだけ体を動かせようがキミの体はもうすぐ真の限界が来る、私はそれまで君をいなせばそれで勝ちなんだよ、いい加減諦めな!!」

「正気?!ああ、ずっと正気だよ!!闘志もずっと燃え続けているさ!!それにこっちの鬼札を見切った?!上等だ、こっちは確かに切札がバレて体も痛いけど、アンタみたいなカスを倒すだけならこの程度、ハンデにもならないんだよ!!」

(………コイツ、激痛に耐えるためにアドレナリンがドバドバ出てるせいか、かなりハイになってるね。おそらくコイツの思考に今あるのは私を倒すこととシンシアを助けることの二つのみ。

 バッカだねぇ、勝利条件を見誤ってる♡)


 イレクトアは内心うっすらと嘲笑の笑みを浮かべる。出撃する前、イレクトアはナタリーとその親衛隊たちに既に現状を報告、転移大規模魔法を使いこの場から避難するように進言した。転移大規模魔法は5人以上の魔法使いで行う魔法で使えば、様々なものを遠くの場所に移動させることができる。

 欠点としてはいくつかあるがその中でも最も大きいのは、先ほどの通り発動に人数が必要なことと、発動にそれなりの時間がかかることであった。腕がいいそれ専門の魔法使いが使うなら1分もかからないはずであるが、魔法学校の成績最上位者程度ではおそらく10分はかかるであろう。だが、それで充分であった。

 全てを隠蔽し逃げるには。


(サファイヤさんは潜入したみたいだけどあの地下は特殊な案内魔法がなければ10分でたどり着くことができない異空間迷路になっている。彼女がシンシアを助けることは難しい。………こっちは公爵様のオジョウサマの全面バックアップを受けている、おまけに君達は魔法学園に無断侵入し魔法連や生徒達の心身にダメージを与えた。加えてキリア、王様が一時的に許そうがお前はこの国を追い込んだとされた戦犯だ!!心情は最悪!!

 決定的現場を押さえられない限り、こっちに負けはないんだよ!!)

「………やれやれ、仕方ないなぁ。じゃ、お姉さんが現実教えてあげないとねぇ☆」


 イレクトアは内心を隠しつつ切っ先をミストへと向ける正直な話、後はこのまま逃げたとしてもミストがシンシアの下にたどり着くことは不可能である。だがそれはイレクトアのプライドが許さなかった。


「………もう及第点は取った。でもどうせなら満点を取りたいねぇ。

 来なよ、キリア・カラレス!!正義の騎士様が引導を渡してあげる♡」

「やってろ、蛮騎士!!」


 そうしてナタリー陣営の勝利に完全に向かっていた戦いが再び幕を切りかけたその時、その声は響いた。


「何をぐずぐずしているのよ、イレクトアッッッ!!!」

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