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追憶~最悪が生まれた日


 その日は、近年稀にみる大雨であったがその体中に包帯を巻いた少女、キリアは傘を差さずに目の前の墓の前で松葉杖に支えられながら呆然と立っていた。その墓には墓碑銘にはシェパード・カラレス、フォルナ・カラレス……キリアの両親の名前が彫られていた。

 一週間前、自分達が楽しく食事会を行っていた料理店、そこで自爆テロが発生、咄嗟に父に庇われたキリアや店の奥側の席にいた客を除いてほぼすべての客が死亡するという大事件が起こったのであった。

 騎士団が調べたところ今回の事件を起こしたのは元魔法連出身の最過激派たちが生み出した秘密結社「魔法優性會」の構成員であることが分かった。彼らがこのような恐慌を行った理由は極めてシンプル、あの料理店が魔導具を使って作った料理を提供していた………信じがたいが、たったそれだけの理由だった。

 たったそれだけの理由で大好きだった両親は死に、キリアは大けがを負って今日まで眠り続け、最後の別れすらもできなかった。


「……かえ、らないと………パパと、ママの、いるいえに……」


 まるで現実を受け入れられないといった様子のキリアはボロボロの体を引きずりながら方向転換を行うが、その瞬間キリアの後ろから何かがぶつかり炸裂、そのまま彼女を吹っ飛ばすのであった。

 訳の分からない状況の連続や痛みのせいで心身ともに立ち上がれなかったミストであるが、その時彼女の耳には聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「黒髪の女がこっちの方に来たって聞いたが、やっぱお前だったか魔無し!!」

「俺ら本当はサッカーするはずだったのにさぁこの雨のせいで出来ねぇんだ」

「お前で解消させろよぉ!!」


 それはいつも自分をイジメてくる少年達であり、皆傘を差しつつにやにやと笑いながら歩いてきた。彼らはボロボロの彼女の腹部に蹴りを入れつつ踏み付け暴力をふるっていたが、この時キリアが前で立っていた墓石を発見する。


「あん……?この名前……カラレス?確かこいつの苗字だったよな?」

「あ、思い出した。パパが言ってたんだけどさ。ほらこの間平民のレストランで自爆テロが会ったって話!確かそん時に魔術省の偉いやつが死んだとかどうとか。それってコイツの親父のことだったんじゃね?」

「というか所詮店壊すのが精いっぱいの爆発だったんだろ?それで死ぬ方が悪くね?うちの父様達なら簡単に防げるぜ」


 ギリギリギリっっーーーーー!!


 彼らが好き放題言い続けている間にキリアの脳内には、紐の様なナニカが両サイドから引っ張られているかのような音が響いていた。それが最初何の音なのかキリアには分からなかった。しかし雨に濡れてからでゃ冷え込んでいるはずなのに、体はどんどん熱くなっていき、いつの間にか近くに一緒に落ちていた松葉杖の先端部を握っていた。

 そしてついに、その時が来た。


「んじゃそろそろ魔力玉当てゲーム始めようぜ。せっかくだ、今日はこの女が死ぬまでやろうぜ!」

「え、ええ……?流石にヤバくないか……?」

「いいんだよ!!俺たちは貴族の未来を担う魔法使いだぜ?いざって時のために人殺しの魔法は練習しとかないとな!!それに、

 魔法が使えない連中が死んだって、誰も気にしねぇよ!!」


 ブチッッッッッ!!!!


 少年たちのリーダーと思われる少年の言葉を聞いた時、キリアの中で何かが千切れる音がした。

 キリアはよろよろ立ち上がった。当然彼女のことを何ら脅威と思っていない少年たちはサンドバックが起き上がった、今からゲームスタートだ、程度にしか思っていなかった。そのため悠々と掌を前に出し魔力を打ち出そうとしたが、その瞬間、彼らの視界からキリアの姿が消えた。否、正確には消えたのではない。体を急に低い姿勢して一瞬、彼らの視界から外れつつ接近したのだった。そしてリーダーの少年が気が付いた時には、もう遅かった。

 キリアは無表情でありながら、目を激しく血走らせ、手に持っていた松葉杖をリーダー格の少年の側頭部に向かってフルスイング、頭から鈍い音を弾かせた。

 キリアの暴行に他の取り巻きの少年たちは驚き激昂、魔力玉を発射しようとするが、その瞬間低い悲鳴を上げて後ろに差があってしまう。なぜなら今倒れ蹲っているリーダー格を未だ松葉杖で叩いているキリアの顔を見てしまったからだ。

 その顔は、目はどこまでも怒りに満ちながら顔はどこまでも笑顔であったからだ。どこまでも、狂っていたからだった。


「た、たた、助け、呼んでくるから!!ま、待っててくれぇ!!」

「ちょ、ちょ、行かないでくれよぉ俺も呼びにいくぅ!!!」

「お、おまえらぁ………まってぇ……!!」


 取り巻き達は傘を投げ捨て一目散に逃げだし、リーダーは自分が見捨てられたことを悟りながらも手を伸ばすが、ミストは彼の伸ばした手を踏みつける。


「うううう、おま、おまえ許さないぞ!!帰ったらパパに言いつけてやるッッッ!!お前も、勇者気取りのお前のジジイも、全員殺して……!!」

「…………やってみろよ」

「………へ??」

「………やってみろよ、もしも生きて帰れたらさぁ……」


 キリアはリーダー格の少年を上向けにすると松葉杖の石突部を少年の口奥の中に突っ込んだ。これにより少年は喋ることはもちろん、パニックのせいで呼吸もできない状態になってしまった。もちろんこれですべて終わりではないキリアは狂った笑みを浮かべつつ体を上下に動かす。

 その姿はまるでジャンプの予備動作のように見えた。


「あべ、あ、あべぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「………うるせぇ、うるせぇぇぇぇ!!しぃねぇぇぇぇぇぇ!!!!!」


 少年は自分の運命を悟りつつ体の穴という穴から体液を噴出させながら懇願の叫びを行うが、もはやキリアにそんなものを聞く道理はどこにもない。キリアはジャンプしその全体重をかけるこれにより少年の口に入った松葉杖は彼の口を貫き体を破壊する、そのはずであったが。


シュンっスパッッッ!!!


 キリアの全体重が乗る前に松葉杖の先端が斬られ、ミストは側方に倒れてしまう。これにより九死に一生を得た少年であったが既に死を覚悟してしまったせいか気絶しており口からは泡が吹かれていた。

 キリアは倒れつつ顔を上げ、少年ではなく後方を見る。そこには軍服に黒コートを着た壮齢の男性、キリアの祖父ヴォルフ・カラレスが立っていた。


「何をしている………キリア。病院から抜け出したと聞いて探してみれば、なぜそこの少年を殺そうとしている…………?!」

「………………なんで、なんで!!!こんなやつを助けたの?!!コイツは、アイツらは!!パパやママおじいちゃんたちをごみとしか思っていないんだよ?!!なんでおじいちゃんはパパやママを助けないで、こんなやつを助けるの?!!おかしいよ!!!」

「………キリア、お前の気持ちはよくわかる私だってシェパードやフォルナさんを失いこの身は引き裂けそうだ、怒りで……全てを滅ぼしてしまいそうだ……!!

 だがそれでも、人が人を、正義と大儀なく私怨だけで殺してはいけない……!!だめなんだ!!」

「………」

「……シェパードの遺品は調べた。どうやらあいつはお前に多額の財産と特許の使用権を残していた。………それを持ってここ王都から離れなさい。後はすべて私が片付け………!!」

「………うるせぇよ」


 そう言うとミストは立ち上がりヴォルフに背を向けるとこの場から去ろうとする。それを止めようとするヴォルフであったが、彼女が振り向き見せた憎悪にまみれた視線を浴びると、息を呑み込み足が止まってしまった。


「………アンタは、正義とか大儀とか小難しいこと言ってたけど………結局パパとママの敵討ちより勇者や軍の地位の方が大事なんでしょ……?」

「ち、違う!!私は!!」

「……だってそうだよね、医者が言ってたよ、あの事件の後、また国中を飛び回ってたんでしょ。要するにパパとママのお葬式にも、出なかったんでしょ………?!」

「そ、それは………!!」

「………………やっぱり、そうなんだ……これだけは、外れてほしかったけど………もういい。

 おじいちゃんなんか、お前なんか!!!大っ嫌いだ!!!!!!」


 そう叫んだあと、ミストは雨の中走り出し墓場から出て行くのであった。もちろん所詮は子供の走る速度、いくらでもヴォルフなら追いつけるはずであった。だがヴォルフは足の一歩を踏み出すことができず、その場に立ち尽くすことしかできなかった。

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