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追憶~いじめられっ子

「がぁ……!!」


 イレクトアが地面を伝い自分の足元へと炸裂させた衝撃波により、ミストは地上から高さ校舎2個分はあるであろう高さまで弾き飛ばされ、自分の体に発生した激痛に血を吐く。しかし今はそれどころではない、動かせる目を使って彼女は現在の状況を確認する。


(ただ破裂させるだけじゃなく、破壊のエネルギーに指向性を持たせ、地面に伝わせて敵の足元で爆発させる……!!こんな魔法を持ってたなんて……とにかくこのままじゃまずい今すぐ態勢を整えて……?!)


 ミストは今すぐにブールの魔法具によって空気を放出し態勢を整えようとするが、この時異常に気が付く。どれだけ操作をしてもブーツの魔法具が全く動かないのである。ミストは最悪の予想をしてしまい思わずブーツの方を見るが………予想は当たってしまった。


(ストームブーツが、破損してる!!やっぱりさっきの攻撃で砕けたか?!まずいまずいまずい!!この高さから落ちたら受け身云々は関係ない!!

 ほぼ確実に死ぬ!!!)


 更に最悪は立て続けにやってくる。視界に映ったイレクトアの姿、彼女はほぼ勝ちが決まった状態にもかかわらずまっすぐ走ってくる。おそらくこのままいけば自分が地面に直撃寸前に到着するように見える。それが自分を助けてくれる仲間ならなんとよかったことであろう、。しかし相手は自分をこの状態にまで追い込んだ相手である。

 順当に考えれば、自分を確実に殺すためとどめを刺しに来たと考えるべきであろう。


(用意周到な……!!でもまぁそうだよねぇ、アンタなら絶対にそうするか、私でもそうするし!!!いやそんなのどうでもいい!!考えろ考えろっ!!この状況を覆せ……あ……。)


 自分の体が重力に捕まり落ちて行き、命が風前の灯火になっていることを自覚したミストは、必死に脳を働かせ打開策を考える。しかし今の攻防で浮遊盾を操るヒドゥンエッジは大破、移動の要であるストームブーツも故障している。もはやどうすることもできない、と思われたその時だった。ミストは思い出す、インナーに仕込んだ、この状況をどうにかできる可能性がある魔導具を。

 しかし、すぐに発動させることはできなかった。


(いや、だめだ!!これはジジイ達が来たせいでまだ性能テストどころか安全に起動するかどうかも分からないんだぞ?!下手をすれば起動した瞬間死ぬかもしれないんだ、そんなもんに命を預けるわけには……!!)


 しかしもう悩んでいる時間はなかった。あと数秒もしない内にxポイントまで落下しイレクトアに斬られるか、そうでなければグラウンドの真っ赤なしみになる未来は確定である。

 ほぼ、8割強の確率で死ぬ。目の前までにやってきた死を前に激しく動揺しながらも冷静に自分の死亡率を確率を計算したミストは、そのあまりの理不尽さに歯噛みする。


(クソッタレ………そもそもなんでイレクトアに正面から立ち向かった……?確かにあの腐れ女こそムカつくし這いつくばらせなきゃ気は済まない……。でもあいつの戦闘能力はとっくに知り尽くし、どうあがいても正面対決じゃ勝ち目が薄いことだって分かってたはず……!!それに闘うタイミングだってアトリエを取り戻して『失敗傑作』達を取り戻してからなら十分勝機はあった………なのになんでこんなに勝負を焦った?こんなの………!!!あ……)


「………シンシアを、助けるため、か…………?」


 ポツリとつぶやいた言葉が空気を震わせた瞬間、周りの空間がゆっくりと停滞し始めるような奇妙な感覚に陥る。自分へと剣を構えながら向かって来るイレクトア、重力に従い落ちていく自分の体そのどれも全てがカタツムリよりもゆっくりと動いていたのだった。この時、ミストの左手から淡い光があふれていたが、ミストはそれに気が付かず自分の口から無意識のうちに呟いた言葉を否定するためか心の中で大声を上げる。


(そんなわけがない……そんなわけがないッッ!!あいつを助けるのはただのついでだ!!たまたまムカつく女に捕まったからついでに助けてやろうと思っただけだ!!そもそもあいつは普通に私が嫌いなタイプなんだよ!!弱いくせに、身の程もわきまえない……!!往生際の悪くて、そのくせどうにもできないくせに他人を頼ろうとともしない……!!どうしようもない、いじめられっ子をどう、し、て……)


 そう言い続けたミストであったが、その時彼女の脳内にある少女の顔が浮かぶ。だがそれはシンシアではない幼い少女であったが、この少女をミストは知っていた。

 この少女はミストがある意味ヴォルフやイレクトア、貴族達よりも忌み嫌っている人物。

 弱くて、身も程を弁えてなくて、往生際が悪くて、そのくせ自分ではどうすることもできないくせに他人を頼ろうとしない。

 どうしようもない、いじめられっ子(かつての自分)


 キリア・カラレスの姿であった。



 今から約10年前、とある住宅街空き地。ここに住んでいる人々は基本的には裕福なため躾が整っている子供が多い。しかし、だからといって理性の発達が未熟で感情や衝動を重視して動く子供、だからこそ、こういうことが起こる。


「ほらほら、避けてみろよ!!的が動かないとつまらないだろ!!」

「うう、や、やめて……!!きゃ……!!」

「よし、腹に当たった!!50ポイントぉ!!」


 裕福な格好をした少年少女たちは手のひらから水半透明のオーラのようなものを発射し、ボロボロに汚れた黒髪の少女を攻撃、というかリンチを加えていた。

 少年たちが行っていることは、魔力放出、という魔法の初歩中の初歩的な技術である。その名の通り体内の魔力をそのまま体外に放出し対象を攻撃、もしくは攻撃を防御することができる。しかし当然であるが魔力放出は初等攻撃、防御魔法の10分の1以下の効力しかないため本当に使うのは魔法学校の初等部程度しかいない。しかも今少年たちが放った魔力はブレブレであり本来ならば少女は十分魔力を放出し防御できるはずであった。しかしその少女は何の抵抗もせず、体を丸めて蹲り恐怖に体を震わせることしかできなかった。

 その後もしばらくは魔力をぶつけて笑っていた少年たちであったが、少女から何の反応もないことをわかると、興味が失せたのか攻撃をやめ、つまらなさそうに吐き捨てる。


「……なんだ動かなくなったぞ?」

「ちぇつまんねぇの。もう行こうぜ!」

「じゃあねぇ、魔無し!!明日もちゃんと練習台になれよ!!」


 少年たちがそう言って去った後、少女は痛む体を庇いつつ立ち上がった。その目には既に大粒の涙が溜まり、喉からも嗚咽の声が何度も響いていたため、もう泣くのは目前に思われたが、少女は顔を上にあげて泣くことを我慢し、心が落ち着かせると、衣服についていた土汚れを払いふらふらとした足並みで家への帰路に就くのであった。


「………泣いちゃダメ。パパとママに心配かけちゃう。……それに大丈夫、だって私は、

 おじいちゃん……勇者様の孫なんだから……!」


 そう言い聞かせるようにつぶやく少女の名前は、キリア・カラレス。


 後に最悪の戦犯魔術師と呼ばれ、ミスト・クリアランスと名を変える前の幼き日の姿である。

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