今明かされる真実
王都魔法女子学校。貴族の息女や才能ある少女を次代の魔法使いに育成する人類統一王国建国からある名門校である。だが煌びやかな光にはそれに隠れ闇というものが少なからずあり、それはここでも変わらなかった。その昔今以上に貧民と貴族、成績不振者と成績上位者による差別が公然と行われている時、カーストが上の者が下の者を矯正する、という名目で使用されていた仕置き部屋と呼ばれるもの校舎の地下にあった。
そして現在そこでは、非情な仕置きが行われていた。
「はぁはぁはぁ……!!」
「チッっいい加減しぶといです、ねッッ!!」
バシィッッッッ!!
寝間着をはがされ下着姿のまま、X字型の十字架に張り付けにされているシンシアに向かって、制服姿ではなく赤いボンテージ姿のナタリーは魔法によって生み出した鞭を振るい暴力をふるっていた。その後ろではイレクトアがつまらなそうな表情のままふわぁっと欠伸をしつつ、眺めていた。
「…………都市伝説扱いだった仕置き部屋がマジであることも驚いたけど………まさかその実態が拷問部屋だったとは……。
それよりお嬢様。分かってると思うけど万が一殺しちゃったら多分勇者紋も一緒に消滅しちゃうよ?そのぐらいにしたら?」
「……そんなこと分かっていますよ……!!だからこそこうやって拷問魔法を使ってるんですよ……!!さぁシンシア・ニルフェン!!もう一度聞きます。
私に勇者紋を継承しなさい!!そうすれば今すぐ解放してあげますよ?!」
「………いやっだ……!!いやだっ!!」
「そうですか、なら続行ですっっっ!!」
ナタリーはシンシアの叫びとほぼ同時に鞭を振るおうと腕を振り上げるが、イレクトアはナタリーの腕をつかみその動きを制止したのであった。
「………もうこれでわかったんじゃないの?この子は暴力じゃ屈しないよ。時間はかかるだろうけどあなたのお父様経由で精神魔法使いでも雇って洗脳した方がいい。……それとも、何かこの子に暴力を振るいたい理由でもあるわけ?」
「~~~!!少し疲れたました!!10分ほど息を入れます!!あなたはそこでそのメス牛を監視しておきなさい!!」
イレクトアに諭されたナタリーは彼女の手を振るい仕置き部屋から乱暴にドアを開けて出て行った。その様子を見ていたイレクトアは鼻で笑うような様子を取ると、ゼイゼイを荒い呼吸を繰り返しているシンシアの方を振り向く。その顔は普段広告塔となっている可憐な笑顔そのものであった。
「イレクトア、様ですよね……?なんでこんなことを……?!平民で騎士師団長になったあなたは平民下民の憧れなのに……!!」
「あ、私のこと知ってるの?ええ~ファンだったらうれしいな!!……ってそんなこと言う雰囲気じゃないよね~。うんいいよ♪その質問応えたげる。………ま、つまんなくて単純、私がいくら強い騎士だとしても、所詮は騎士。貴族様には逆らえないだの。憧れ通りじゃなくてごみんね☆……さ、君の質問に答えたよ?今度は私から質問するね?
………君、いったい何者?」
「………!!何の……!!」
「とぼけないでよ」
右手でシンシアの首を掴んだイレクトアの表情は先ほどのへらへらした表情とは全く違い、真剣な表情そのものでありそのには僅かなながらも絶大な殺気が宿っていた。まるで先ほどのナタリーの拷問が前座と思ってしまうかのような絶大な恐怖がシンシアの動きを止めてしまう。
「君は知ってるはずだよ?あの世間知らずのガキ共にイジメ、という名の集団暴力を君は約半年以上受け続けた。内容を聞いて流石にぞっとした。まともにくらえばまず死ぬか、極めて深刻な後遺症が残るような魔法攻撃を何度も君に放ったらしいね。なのに君は今ぴんぴんしてる。あのエロガキは君の体が頑丈とか言ってたけど、そんな次元じゃない。
だって君の足、もう治ってるものね」
そう言ってイレクトアはシンシアの締まりながらも肉厚な這うように触っていた。その艶めかしい触り方にシンシアは僅かに嬌声を上げてしまうが、イレクトアは触りつつわずかに冷や汗を流していた。それもそのはずである。
宿舎を襲撃した際、シンシアは逃げようとしたためイレクトアは迷わずに彼女の両足をへし折り、激痛により倒れて動けなくなったタイミングで彼女の頭を床に打ち付けた気絶させた。これ自身もナタリー達同様危険な行為であるが、イレクトアはこれでも強化魔法を効率的に使うため人体学には詳しく、強めの回復魔法を使えば十分完治できるレベルのダメージに抑えていた。与えた怪我は後遺症なく元に戻るレベル、そうあくまで回復魔法をかければ、の話である。イレクトアが痛みにより気絶したシンシアを担ぎ上げ壁を崩しながら向かっているミストから逃げようとしたその時、彼女は気が付いてしまった。
さっきまで折れていたはずのシンシアの足が、床に打ち付け皮膚が裂けたシンシアの額が、もう既に完治していたことに。
「……あの時は心底肝が冷えた。おかげで少し呆けちゃってキリアの奴に見つかちゃったしね。………話を戻そう、君はいったい何者なの?一体なんでこんな回復能力を持ってるの?
ねぇ教えてよ、でなきゃ君の首、握り潰しちゃうよ?即死でも回復できるのかな?」
「………ッッ!!……む、昔から怪我の治りは早かったけど……ここまで回復するようになったのは、勇者紋が現れてからで……でも先生たちは勇者紋にそんな効果はないっていうし………本当に、分からないの……!!」
「………勇者紋が出てから……なるほどそういうことか。いいよ、信じたげる♡」
イレクトアはシンシアの首から手を離すとけらけらと笑い、首を絞められたせいで呼吸が制限されていたシンシアは呼吸を整えつつもイレクトアを睨みつけていた。とその時だった。一個の魔方陣が空間に出現するとそこから音が聞こえる。
『団長、キリア・カラレスとシエラ・マリンハートがそちらに向かっています。現在ナタリーの妹分や私兵を蹴散らしつつポイント2Dを突破。我々第6師団も参加しますか?』
「いや、いいよ。予定通りあなた達はここから撤退、アリバイ作って万が一詰められても全部私のせいにしちゃって♡」
「了解しました、それでは御武運を」
部下の女性との会話が終わるとイレクトアはストレッチを行いつつ仕置き部屋から出て行こうとするがシンシアはそれに待ったをかける。
「ま、待って!!何が起こってるの?!」
「聞いたでしょ。キリアとサファイヤさんが君を取り返しにこの学園に乗り込んだみたいだね。ゴロツキ気質のキリアはともかくあのサファイヤさんまでこんな行動をとるなんてちょっと意外かな。……ま、別に問題じゃないね☆」
「……ッッ!!……いや、待って……そ、そもそもさっきから言ってるキリア、って誰?!サファイヤさんは知ってるけど、あなた達の知り合いなの?!!」
「……あれ?知らないの?ああ、そうか。今は別の名前で通りてるんだっけ?そっかそっか。じゃ教えてあげるよ」
体に残る痛みのせいか大きく叫ぶシンシアに対しイレクトアは意地悪く嗤うと、彼女の方を振り向き大げさに両腕を左右に広げつつ宣言する。
「キリア・カラレス。それはこの国の書類上では人魔戦争に置いて戦犯行為を行い、一大隊を実質的に潰した主格犯にして、
君を助けた勇者候補の黒髪魔術師、ミスト・クリアランスの本名だよ☆」




