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憧憬と嫉妬

 完全に日が落ち、店も閉まっている中、軍用の魔導車を運転しつつミスト達二人は、サファイヤの探知魔法によるナビに従いながら目的の場所へと向かっていた。

 サファイヤができる限り速度を上げつつ運転している中、ミストはサファイヤが用意したと思われる資料を眺めていた。


「ナタリー・トルキシオン。現17歳王都女子魔法学校高等部3年生生徒会長。四大公爵家の一つであり魔法の伝統と権威を保護する団体、魔法連合の総帥をしているトルキシオン家の一人娘。成績は学年トップクラスであり姉妹制度による妹の数も歴代でもトップクラス……。何、この姉妹だの妹分だのって」

「うちの学校特有の明文化されていないルールですよ。『先に生きる者は後に生きる者に叡智を残さなければならない』という考えの下行われる師弟制度のようなものです。妹分になったものは姉のためにすべてを尽くし、姉分となったものはかわりに己の知識と経験を継承するんです。そして妹の数は学園内に置いてヒエラルキーにも直結します」

「………パシリの数が多ければ偉いって……チンピラかよ。」


 と呆れながらもミストはそのまま資料を読み進める。書かれている情報が本当であれば、ナタリーは高い魔力量に加え、四属性魔法の他に念動魔法も習得しており、カタログスペックだけならば自分とサファイヤを軽く凌いでいた。だがこれ自体は問題ではない。ミストは自分より強い敵など何回も戦ったことがあるし、そもそもカタログスペックだけで勝負が決まるなら、自分はとっくの昔に死んでいる。


「となれば、やっぱり問題はコイツだね」


 そう言いながら彼女はもう一枚、イレクトアについての資料を眺めていた。とはいってもミストは彼女について嫌が応でも知っていた。


「……イレクトア・ラスターク。18歳、王都魔法騎士団第6師団団長。歴代最年少で女性騎士での師団長に任命された女傑。その可憐な容姿や服装、たびたび立てる戦果から国民の評価は上々。そして今回の勇者候補………。なんで神はこんな屑を勇者候補になんかしたわけ……?」

「………それは、突っ込み待ちなんですか……?………というか意外でした。ミストさんがラスターク第6師団長とお知り合いだなんて」

「アイツとは平民が通う中等学校までは一緒だったからね。……男に色目使うビッチだし散々私にちょっかいかけてきやがるし、魔法戦闘の腕以外何一つ褒めるところのない、腐れ女」

「………うわ、辛辣………って、魔法戦闘の腕は、認めてるんですね」


 サファイヤが何と無しにそんなことを聞くとミストの表情は明確に曇り眉間にしわが寄り、彼女の脳内にはある光景が浮かんでいた。



 それはもうまだミストがキリアであり10も超えていない時の頃、彼女は青年魔法使いの集団にリンチを受けていた。どうやら前に自分をイジメてきたため逆に病院送りにした貴族少年の兄とその仲間達のようである。彼らは殺傷能力は低いが痛みは絶大の初等拷問魔法をキリアに向かって繰り出していた。人間性は愚劣であるが、腐っても魔法使い。魔導具をまだ持っていなかったキリアではどうしようもなく、身に怒りの色を絶やさないことはできても蹲り、ただ痛めつけられるしかなかった。

 ただその状況は、


「あれ~☆おにーさん達、何してんのー?」


 たった一人の少女の登場で全てが変わった。その少女は手に持っていた木材棒に魔力を纏わせると、それを振り上げ青年の一人に向かって殴りつけ、そのまま怒り反撃をする青年たちを一方的に蹂躙し気絶した彼らの山の頂上に立っていた。


 その様にキリアは強い憧れと体を震わせる恐怖、そしてそんな自分への怒りにはお食いしばり、けらけらと自分に手を振りながら笑う彼女を見ていることしかできなかった。



「………さっきも言った通りあいつは騎士サマのくせに国への忠誠なんて一つもない、雰囲気美少女のドぐされ女。……だがそれでも強化付与魔法を使った戦闘能力は異次元だ。

 細胞一つ一つに強化魔法をかけることで従来の強化魔法の10数倍以上の出力を手に入れる、最上位強化魔法マスターエンチャント。

 強化魔法を応用し使用する、過剰な強化を付与し対象を破裂もしくは崩壊させる、拡張魔法ブレイクエンチャント。

 そして何よりそれを完璧に生かす剣士が見たら卒倒物の型外れの自由な殺人剣……。

 まさしく二つ名の通りの「蛮騎士」。……できる限りの準備はしたが、正直今の手持ち魔導具じゃ勝ち目は薄いね」

「………ええ、だからこそ現場を押さえた後はシンシアさんを保護し、急いで提督に報告しましょう。たとえ貴族であろうとも神託で選んだ人物に対する理不尽な暴力は許されません。証拠さえ押さえてしまえば、十分止めることができるはずです……」


 サファイヤは運転しながら力強く語るが、ミストはそれを冷えた感情で聞いていた。ミストの経験則からすればあの手の権力と暴力を併せ持ったいじめっ子が証拠を押さえれば止まるような、マトモな精神を持っているとは思えない。特に今のナタリーには国有数の暴力装置(イレクトア)が付いている。現在若き王の代わりに国を実質的に支配している先王経由で手を出してくるかもしれないし、下手をこけばシンシアだけでなくサファイヤの家族や故郷まで標的にされる可能性だってある。

 つまりそうならないためには、


(………後味の悪い結末を回避するには、やっぱ何度考えてもそうするしかないね……。私が、

 この戦いに勝って、ナタリー陣営からイレクトアを排除するしかない……!!)


 決意と覚悟を胸に秘めたミストは視界を上げ、これから行くであろう建物を睨みつける。

 次世代の女性魔法使いを育成する国家施設、王都魔法女子学園を。

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