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シンシアの事情その2

「ふわぁー………!!生き返る……!!」

「おっさんみたいになってるよアンタ。……まぁでもさすがは軍が血税絞って作った宿舎。まさか大浴場まであるとはね」


 食事の後ミストとシンシアは大浴場に来ており体を洗って湯船に浸かっていた。なぜ今この様になっているのかであるが、ミストは指摘こそしなかったが、ロクにここ数日体を洗うことはもちろん衣服の交換もできていなかったシンシアが匂っていたため、というのも理由にあった。

 しかし一番大きいのは彼女をリラックスさせて、聞きたかったからである。


「……さて、飯も食って体も洗った。そろそろ聞かせてもらおうかな。アンタの右手の甲のそれと、アンタの事情について」

「……うん、そうだね。ミストちゃんは話さなくちゃね。

 アタシ、シンシア・ニルフェンはあなたと同じ勇者候補だよ」


 一応ね、と右手甲の勇者紋を見せ自嘲気味に笑いつつ彼女は話始める。

 元々シンシアは1年前までは故郷の漁村で両親の手伝いをしつつ暮らしていたのであったがある日、勇者紋が覚醒したことをきっかけに王国の使いの者が彼女を訪ねてきた。その時に調べてもらったことでシンシアには高品質な魔力を生み出せる数100人に一人の逸材であることが分かり、彼女のの才能を開花させるために、シンシアは特例で魔法学園への編入を許可されたのであった。

 最初、シンシア自身も困惑し両親も反対をしていたが魔王が復活しかかっていること、結界が壊れかけていることを知った彼女は、魔物の脅威にさらされる人たちを助けたい、かつて自分を助けてくれた勇者様のようになりたい、という思いの元、編入を決めたのだった。


「でも、正直学校はつらかった。勉強は必死に頑張ったけど置いてかれないようにするのが精いっぱいだったし、そもそも前例がない編入っていうのもあったから……周りの目も厳しかった。………それに、何より辛かったのは……。」

「………魔法を使う才能が自分になかったことを知ってしまったこと……か?」

「………?!なんで、それを……?!」

「アンタを痛めつけてたあのデコ女が散々大声で言ってたからね。悪いが少し気になって調べさせてもらった。

 アンタ、魔力出力不全症にかかってるね」


 魔力出力不全症、それは魔法使いにのみ発生すると言われている病であり、体の中にある魔力を外部に放出するとされている見えない器官が動かなくなり、魔法を使うことができなくなる難病である。最も難病といっても魔力を放出できないから死ぬわけではないため生きるだけならば何の問題もない。

 もっともこの魔法を尊びすぎるこの社会では、大問題ではあるが。


「………私が魔法が使えないことがわかると、私に優しくしてくれた子たちや先生、みんな一変した。いじめは当たり前になったし、先生はそれを見てみぬふりだった。そして隠していた勇者紋が公爵家の娘で生徒会長、ナタリー、様にばれて………今みたいになっちゃった」


 明らかに苦しそうにしながらも笑うシンシアに対し、ミストは彼女が話す魔法使いたちへの嫌悪を強めつつゆっくりと息を吐いた。


「……辛いんなら、やめればいいじゃない。たとえあんた自身が魔法が使えなかろうが、戦えなかろうが勇者紋が出たことに変わらない。アンタも見たと思うけど勇者紋を持ってれば軍が所有する施設をいくらでも使える。ことが起こるまではここでのんびりと暮らして、ヤバくなりゃ故郷に逃げりゃいいでしょ。」

「………そう、だよね。普通はもう諦めた方が賢明だってことは分かってるんだ。……でも、諦めようって考えると……いつも私を助けてくれたあの人の顔が浮かぶの………。そうしたら、もう少しだけ頑張ろうって思えるんだ。

 だって、どんな形であれ憧れの存在へ近づく道が、アタシは持っているんだから」


 そう言いながらシンシアは右手の甲に浮かぶ勇者紋を掲げる。その目にはお昼までとは打って変わって希望の光が宿っており、ミストも彼女のその姿を見ると目を閉じわずかに息を吐く。


「……そうかい。まぁ、死なない程度に頑張りなよ」

「うん、それじゃあ私そろそろ上がってるね!」


 そう言うとシンシアは、湯船から上がり出口に向かって歩き始める。その後ろ姿を見ていたミストであったが、その時あることに気が付いた。


(服の感じを見る限りあいつは日常から体全体を蹴られたり魔法をぶつけられていたはず……。さっきだってデコ女(リンディ)の鉱石魔法を頭部や胴体の急所に当たっていた……。にもかかわらず、あいつには怪我痕どころか痣すら見当たらなかった。

 それだけじゃない。あいつの口ぶりからすると、食事を抜かれるみたいなことも常日頃行われているようだったが……あいつの胸や尻は普通に私よりデカかったし、肌にも栄養失調のような症状も出ていなかった。一体……)

「あの……ミストさん?」


 と、考えていたミストの隣から声が聞こえたので、彼女はその方を向くとそこには髪をタオルでくるみ湯船に浸かっていたサファイヤの姿があった。なぜか彼女の顔は赤らんでおり若干気まずそうにしていたが、ミストはそれには気が付かず話しかける。


「サファイヤ……そうだちょうど良かった。アンタだったよね、シンシアの救護を行ったのって。少し聞きたいことがあるんだけど」

「いえ、その……その話もしなくちゃいけないと思うんですけど………その……。

 …………あまりこのような場所で同性といえど他人の裸を眺めるのはよくないですよ」


 サファイヤが耳元で囁くようにつぶやいた時ミストは一瞬、訳が分からない、といった感じであったが3拍ほど経ったその時、ミストはサファイヤの言葉の真意に気が付き思わず体がわずかに飛ぶ。


「お、お前!!何変な勘違いを……!!私は……!!」

「いえ、その、隠さなくても大丈夫ですよ!!元々ミストさんがそっち側なんじゃないかっていうのはなんとなくわかってましたし……!!」

「……おい、元々ってどういうこと?!もしかして第四大隊時代から、そんなクソみたいな噂が……?!」

「ヒッ、ちょ、ちょっと待ってください、あまり急に近づかないでください!!私はそっち方面は普通にノーマルなんですから!!」

「ふ、ふ、ふふふふ………!!」


 ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!


 そっち系(同性愛)と勘違いされたミストの叫びは大浴場内に大きく響き渡ったのだった。

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