追跡
「ッッッ?!!」
「……何アンタら?なんか用?」
声をかけられた方をミストが向くとそこには3人組の少女が立っていた。3人ともシンシアと同じ魔法学校の制服を着ており身なりも髪や身に着けている小物の質から貴族階級の者だと思われる。と、そんなことを考えている時、ミストは気が付く。シンシアの顔色が非常に蒼くなっており、体はひどく震えていた。先ほどと同じ、否それ以上の発作を起こしていた。
その様子を見ていた3人組の内、先頭にいたヘアバンドで長い赤髪で前髪を上げていた少女が嘲るような笑みを浮かべつつ前へと出る。
「あら初めまして、ヒガシマ人さん。私はリンディ・クラウラー。魔法学園の生徒ですわ。何か用、と言われましたがあなたに用はありませんわ。
私達が用があるのは、そこのシンシアさんだけですから」
リンディに声をかけられたシンシアの肩は思わず一瞬跳ね、喉から声にならない悲鳴が鳴る。先ほど見せていた明るい彼女の印象とは全く違うものであった。
田舎から出てきたシンシア。貴族階級と思われる少女達。そして今のシンシアの状態。これら全てを統合したミストは納得するように、自分だけに聞こえる程度の声量で酷薄に呟いた。
「…………そういう事か」
「………?まぁいいですわ。シンシアさん、ナタリーお姉さまがあなたを探していましたよ。一緒に、来てもらえますよね?」
「……わかり、ました。………ごめんミストちゃん、私もう行かなきゃ。……せっかく奢ってもらったのにごめん……このお礼は、必ずするから………それじゃ………」
シンシアは必至に作り笑いをした後席から立ち上がるとリンディの取り巻き二人に捕まってそのまま店の外へと連れていかれてしまうのであった。他のお客や店員たちは自分達に火の粉がかからないようにするためか、見て向ぬふりをしていた。
女の子が目に見えて剣呑な雰囲気となり連れていかれようとしているという状況で卑怯と思う者もいるであろうが、魔法が何よりも尊いとされているこの世界に置いて、この統一国家最高の名門、王都魔法学園に所属している貴族を敵に回すということは、もうそれはほとんど国を敵に回すことと同義なのである。だからこそ誰も動けなかった。
そう彼女を除いて。
「………すみません。いいですか?」
「は、はい!!いかがなさいましたか?!」
「このメニュー表に書いてあるんだけどここってデリバリーもしてるわけ?してるんならここの料理と、後これをこの住所に届けてほしいんだけど」
「は、はい。それは可能で……え、ここって統一軍の領地……?!」
ミストは寄宿舎の住所が書かれたメモと料理の代金、サンドイッチを入れていたバスケットを置くと立ち上がりそのまま店から出て行くのであった。店から出るとミストは懐からごく小さな鉄球を5球ほど取り出し命令を下す。
「検索内容。服装検索、魔法学園の制服。人数検索160㎝以上一人。それ以下3人。行け」
ミストの命令を聞いた鉄球はその装甲を展開し羽のようなものを出現させるとそのまま飛び立つ。しばらくは上空を飛行していたが何かを発見したのか羽鉄球全てはある方向へと飛び立つ。
飲食店街を歩いていた市民は突然現れ、飛んでったあれは何なのかと言わんばかりに上を向くが、それを無視してミストは鉄球が飛んで行ったと思われる方に向かって走るのであった。
*
「ほら、さっさと歩きなさい!」
「ううっ!!」
王都の大通り、魔法学園へと続く道にてリンディは取り巻き二人の少女にシンシアを拘束させて、目的の場所へと向かっていた。周りからはそのあまりにも異常な光景に視線を向ける者もいたが、先ほどの店同様い関わって貴族に目を付けられることを嫌ってか介入しようというものはいなかった。
そんな中リンディは自分達に怯えているシンシアに侮蔑のまなざしを向けつつ話しかける。
「そんなにお姉さまや私が怖いのならさっさと勇者紋をお姉さまに渡せばいいものを………。私だって本当は嫌ですのよ、もうすぐ学期試験だというのにあなたみたいな落ちこぼれの監視をしなくちゃいけないなんて………!!」
「ナタリー…さんも、あなた達も怖いけど………これは絶対に渡さない……!!だって私だって、勇者を目指して………!!」
ビュゥゥゥン!!ガッガッガッッッ!!!
とシンシアが絞るような声で話しかけた瞬間、シンシアの体に鉱物で出来た礫がぶつかり彼女を吹っ飛ばす。その攻撃に巻き込まれかけた二人の少女は抗議の声を上げる。
「ちょ、ちょっとリンディさん?!」
「いきなり危ないですよ!!」
「……ええ、すみません。ついこの女がふざけたことを言ってしまって、ついつい鉱石魔法を放ってしまいましたわ」
無抵抗な相手に向かって攻撃魔法を放つという蛮行に周りの市民たちも流石に止めた方がいのでは、警官隊に連絡してはどうか、というが、騒ぐ彼らをリンディが睨みで一喝すると皆蜘蛛の子を散らすかのように去ってしまった。それを確認したリンディは倒れるシンシアの体を踏みつける。
「………シンシアさん。自惚れほど醜いものはありませんわよ?確かにあなたは勇者紋に選ばれたかもしれない。でもそういうあなたに何か特別な才能があるのですか?何やら珍しい種類の魔力は生み出せるようですが、それを出力し魔法として行使することができないじゃないですか。後は精々体が丈夫なだけ…………まぁこれはド田舎出身だからでしょうが」
「う、うう……………」
「そんなあなたが勇者に、私たち魔法使いの代表になる?!笑わせないでくださいまし!!勇者となるべきはナタリーお姉さまよ!!お姉さまこそが勇者となり50年前の魔術師に受けた屈辱を晴らす希望の光となる!!だから、さっさと、渡せ……!!!」
リンディは怒りのまま足を上げると鉱石を纏わせそれを持って、シンシアの頭を踏み抜こうとした、その時であった。
ブゥゥンブゥゥン……!!
目障りな羽音が上空から聞こえてきたのだ。リンディ達、まばらに残っていた市民たち、そして地面に這いつくばっていたシンシアは羽音の音源を見ようと上を見る。そこには羽が付いた鉄球という理解不能な物体が飛んでいたのだった。そのあまりにもあまりもな光景に全員固まっていた時、
その声は聞こえた。
「やっと、見つけた」