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行き倒れ少女 シンシア・ニルフェンその1

 魔導磁気車。それは50年前魔王を討ち取った勇者、ヴォルフ・カラレスが魔術省と共同で発明した新しい移動手段である。

 従来の汽車と違い石炭燃料は使わず線路と車体に施している磁力魔術をによって静音且つ極めてスムーズな走行を可能とさせている。また磁力魔術を発生させている魔導具は頑丈であり、おまけに周囲の魔素を取り込んで魔力を生成しているため、1カ月に1度のメンテナンスさえ怠らなければいつまでも安定して動く。ヴォルフの功績の中でも魔王討伐、人類統一軍の編成に次ぐ功績として数えられている発明品である。

 そんな乗り物の先端車両、ボックスタイプの指定一等席に3人の座っている。まず窓側の席には黒髪の少女ミストが座り、その横には水色長髪の女性、サファイヤが座り、彼女たちの前には先代勇者の壮齢の男性、ヴォルフが座っていた。

 わざわざ対面で座るボックス席を用意しているのだからこの3人は仲がいいのだろう、と思われるかもしれないがそれは全くの逆であり、既に出発してから2時間以上経つがミストは車内の窓方面を向き一切会話せず、ヴォルフも瞑想し腕を組んで座っているというサファイヤにとって地獄のような雰囲気がずっと続いていた。

 だがもうすぐ、王都に到着すると言おうこともあり、サファイヤは咳ばらいを行いつつ、説明を始める。


「……それでは、そろそろ王都に到着しますので説明の方をしますね。ミストさんは王都に到着した後、軍が用意した勇者候補宿舎に行ってもらいます。そこで荷物を置き今日は休んでもらった後、明日の朝一番に先王陛下と四大公爵家の皆様と謁見してもらいます。謁見後からはおおよそ1週間は自由時間とし、王都内を出さえしなければ自由に行動してもらって構いません。……何か質問は?」

「……先王とその取り巻きに挨拶かめんどくさいけど、分かったよ。で、1週間の自由時間って何?着いたらすぐに選抜が始まるわけじゃないわけ?」

「それに関しては私から説明しよう」


 先ほどまで瞑想をしていたヴォルフが目を開けサファイヤの説明を引き継ぐ。それに対しミストはあからさまに嫌そうな顔をし舌打ちを撃つが、情報は聞きたいのか特に何も口を挟まず、話を聞くこととなった。


「この国は今でこそ人類統一国家などと呼ばれているが、かつては魔族という共通の敵に立ち向かうために複数の小国が集まってできた連合国だ。だが魔族という敵の脅威が薄くなれば人同士の戦争も当然起こり、国王に反感を持つ者達もあらわれる。

 今回勇者紋に選ばれた候補者の中にはそういう紛争地帯や王都の干渉を嫌っている地帯の者もいる。当然そんなところには、この魔導磁気車のような移動手段もない。現在軍の者達が迎えに行っているが、どうあがいても1週間はかかる。……だから、その間は自由時間、ということだ」

「ハッ、要するに貴族共の、身内大好きそれ以外野垂死ね主義が起こした不手際ってわけか。軍の連中も大変だね」

「…………」

「と、とにかく!!私からの説明は以上です、分かりましたね?」


 了解、とミストが軽く言うとそのまま彼女は腕と足を組み、再び窓の方へと顔を背けてしまった。ヴォルフもわずかに息を吐くと再び腕を組み瞑想を始めてしまった。またあの地獄のような雰囲気へと一瞬で逆戻りである。


(ミストさん………ヴォルフ提督のお孫様にして最年少で統一軍に入隊、活躍をした凄腕魔術師。その実力は確かにすごいけどこの娘の王都へのヘイトは想像以上……!

 この娘を本当に陛下や貴族様方に合わせても大丈夫なの……?!)


 そんな心配を内心サファイヤがする中、車内の発音魔導具からアナウンスが聞こえてくる。


『まもなく王都中央駅、王都中央駅に到着します。お客様はお忘れ物が無いようお願いいたします。繰り返しお伝えします。

 まもなく王都中央駅、王都中央駅ーーー。』



 王都中央駅へと到着したミスト達一行はそのまま、軍用魔導車へと乗り換え軍が所有する宿舎へと到着し、ミストの部屋を案内するとその場で解散することとなり、ヴォルフとサファイヤは報告するために王城へと向かっていった。一方ミストも荷物を置くと鉄カバンに偽装した魔導具、そして大家からもらったバスケットを手に持つとそのまま宿舎から出て行き、とある場所を目指して歩いていく。

 綺麗な街中を歩くこと約20分、ミストが到着したのは自然公園であった。ここは緑化計画のために建てられた公園であり、普段から市民の憩いの場として利用されている場所でもあるのであった。ミストは公園にある屋根、木のテーブル、ベンチがある休憩スペースに到着するとそこに座りバスケットを開く。中には塩漬け肉と野菜、卵サラダ、果物のジャムをそれどれ挟んだ3種のサンドイッチが入っていた。さらに、その横には朝自分が渡したはずの家賃が入った封筒が入っていた。


「………あんのババァ。こんなことしてるから家賃ちょろまかす奴が増えるんだよなぁ、全く………」


 口では悪態をついている物の表情は小さく笑みを作っていたミストは封筒を懐にしまい、改めてサンドイッチを食べようとしたその時であった。


 ぎゅるるるるるるるるるる………!!


「……?!なんだ今の音……前から………?!」


 突然大きな異音が聞こえてきたこともあり、驚き焦ったミストは立ち上がり異音の音源と思われる地点、自分のテーブルの向かい側のベンチを確認すると、そこには桃色髪の少女が気を失っていた。


(これは……王都の魔法学園の制服……だが、この服に残った汚れの跡、まるで複数人に蹴られたような……!いやそれよりも……!!)

「ねぇちょっと、アンタ大丈夫……?!」


 魔法やそれに関係するものを嫌うミストであったが、流石に因縁もないこんなにボロボロな相手に対して死体蹴りをできるほど人の心は捨てていないため、少女の体をゆすり状態を確認する。調べたところ息はあり、脈拍も異常はないが目を覚まさない。

 流石に放置もできないと考え、腹立たしいことこの上ないが宿舎にまで運ぼうとしたその時であった。


「………お、お……………」

「……!!目が覚め………お?!何、何が言いたいの?!」

「………………お、おな………










 …………おなか、すいた…………」

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