望まぬチームアップ
ミストの言葉と共に会場が暗くなると、複数のスポットライトが点灯しぐるぐると会場の中を駆け巡り、最終的に会場奥に供え付けられていた壇上を照らす。そこには先ほどまで誰もいなかったはずであるが、豪奢な服装に身を包んだ先王バルカン、さらにその傍にはヴォルフとグレイヴの姿があった。
国のトップたちのいきなりの登場にほとんどの勇者候補たちや貴族達も身を引き締めるように、姿勢を正す。
『………諸君、よくぞここに来てくれた。我はバルカン・ラックリバー。現在療養中のコクケンに代わり政治を任されている。………とまぁ堅苦しい挨拶はこのぐらいにして置こう。
まずは諸君らが気になっているであろう、勇者選抜試験の概要を説明する』
そう言うとバルカンはヴォルフに目配せをし、それに反応したヴォルフはポケットにしまっていた魔道具を起動させる。するとバルカンの達の上方に巨大な統一国の地図が展開される。その地図は徐々にある一森林地帯が中央になるように拡大されていった。
『ここは騎士団、統一軍が合同管理している大規模森林地帯。この部分を囲い込むように対魔物、魔族用の結界が張られ中には多数の魔物もいる、所謂サバイバル演習をするための場所である。ここで諸君らには、
3日間、三人一組のチームで我々が出す課題をクリアしてもらう』
「「「っっ?!!」」」
バルカンの発言に大多数の勇者候補たちは驚きの声を上げていた。その中にはイレクトアの姿もあり顔を併せたり小声で隣と喋っている者達と違い、彼女は目を開くだけであったが、その視線は咎めるようにグレイヴの元へと向けられていた。
当のグレイヴはそれを無視し手に持っていた槍の石突で床を叩き、大きな音を鳴らして騒ぎを鎮静化させるのであった。
会場が静かになるのを確認したバルカンは再び話始める。
「……驚くのも無理はない。今回を含めて勇者選抜試験を行た回数は6回。その内前の5回は規定人数以下になるまで戦うバトルロワイヤル方式だった。玉石混合、石を振るいに落とし玉を見つけるのが目的であるからな。
しかしそのやり方は、今の時代にはそぐわないのではないか、と我は考えている」
バルカンの発言に一部貴族たちは厳しい視線を刺していたが、それにも変わらず彼は話し続ける。
『今ここにきている勇者候補たちは、元勇者パーティ達が選び抜いた、心技体がそろった、誰が勇者となってもおかしくない者達だ。
まだ先代勇者である提督がいるのだ、できれば全員を勇者として育てたいというのが、我の正直な本音だ』
『……しかし、ここにいる面々は諸事情により規定ないものを含めて200人以上いる。流石に勇者パーティが全員フルで指導を行ったとしてもそれら全員を結界が消える3年の内に勇者レベルにまで引き上げるのは難しい。
そのために脱落人数を減らしつつ、知識実力だけでなく連携能力を見ることができる今回の試験、チームサバイバル試験をすることとなったという訳だ。そしてチーム分けだが、
公平を期すため、こういうものを使う』
そう言うとヴォルフは一枚の札を懐から取り出し、それを上空へと投げる。投げられたそれは空中で百数十枚にまで分裂しさらに海の中を群れで泳ぐ小魚のように意志を持って動き始め、それらは各テーブルの間を泳ぎ始める。
大半の人間がその光景に圧倒されていたが、率先するようにヨハンは真っすぐ手を伸ばし流れる一枚の札を取る。そこには「28」と記されていた。
「見た目は派手ですが、これは………くじ引き、という事ですかね?提督?」
『その通り。さぁ候補たちよ引いてくれ。残り物には福があるというが、君たちに自ら掴んで欲しい』
そうヴォルフに促されるまま他の候補者たちも手を伸ばし流れ動く札の群れから、自分の札を手に入れる。
「えっと……アタシは27番だね!」
「私は14番です。御姉様は?」
「3番……。当たり前だけど、全員バラバラだね」
『……どうやら全員に行き渡ったようだな。今君たちが得た札には1番から64番までの番号が振られている。その番号が同じ者達が今回の選抜試験のパーティということになる。
それでは、顔合わせといこう』
ヴォルフは手に持っていた札を思いっきり破るとそれと同時に勇者候補たちが持っていた札が光り始める。それによって彼らの目が眩んだ次の瞬間彼女達の足元に魔方陣が現れ彼らを座っている座席ごと席替えをし始める。
しばらくすると彼らが持っていた札の光が収まり視力が回復した時には、すでに全員席替えが完了し、いつの間にかテーブルの中央に掲げられていた番号が描かれた札のテーブルに着席していたのであった。
まず28番テーブル。宮廷魔法使い、ヨハンの他にはツェンの隣にいた総髪の青年とスキンヘッドにヒガシマの法衣を着た壮齢の男性の姿があった。
「まさかお二人とも他地域からの御方とチームを組めるとは、よろしくお願いしますね?」
「がっははは!!任せておけい!!この老師の一番弟子たるカウンに任せるがよい」
「こちらこそよろしくお願いいたします。宮廷魔法使い殿」
次に27番テーブル。シンシアとツェン、さらに正装をきていない小柄な白髪の鳥人の少年がともに座っていた。
「おや、まさかお嬢ちゃんと組むことになるとは。よろしく頼むの」
「はい!よろしくお願いします!それとえっと……君もよろしくね?」
「………へへっ、こんなに魚食べらんないよぉ………グゥ……」
「あれ?!まだ寝てる?!」
更に19番テーブル。教会幹部レイゼ、魔法連幹部オルトラント、根元の方は白い茶短髪の青年がいた。青年は目をつぶり瞑想をしていた。
「まさか、あなたとチームを組むとはね。ヴォルフ様が何か仕掛けをするとは思えないし偶然なんでしょうけど、中々ラッキーだったわ」
「ええ、確かに。前衛もガイウスと負けず劣らずのお方がいますし、戦闘には苦労はしないでしょう。ねぇ公爵子息殿」
「………もう私は公爵子息ではない。ただの剣士だ」
続けて14番テーブル。統一軍次期エース候補ルイスと一流冒険者ガイウスが座り、長めの前髪が特徴的な長髪少女が座っていた。
「まさかチームメイトが二人ともチビ共とはな。まぁちんちくりんもアージュも実力はあるから何とかなるか!」
「……ちんちくりんだのチビだの言いますが、私一応身長が150後半ありますから。ブーツ込みなら普通に160ありますから!大体私はまだ15歳なんです、これから御姉様ぐらい伸びるんですからぁ!!」
「………わ、私………18歳………もう、伸びしろが……」
そして最後9番テーブル。そこには正装をきていない焦げ茶色のくせ毛が特徴的な青年、ハムナスの姿と、
「は、はぁ………?!!」
「ウッ………ソでしょ……?!!」
互いの姿を見て絶句し表情を引きつらせているミストとイレクトアの姿があった。
彼女達はほんの十数分前までこの選抜試験の場でお互いを完膚なきまでに叩き潰して忌まわしい因縁を断ち切ろうとしていた。しかし同じチームとなればそれはかなり難しい。さらに追い打ちをかけるようにヴォルフは宣言する。
「これでチーム分けは完了とする試験の詳しいルールは対策をさせないため3日後の試験当日に発表するが、その前に一つ。先ほども言った通り実力だけでなく協力し連携できる力も評価点に入れている、ゆえに本来は言うまでもないだろうが、
今回の試験誰か一人でも脱落になった時点でそのチームは敗退処分とする」
その言葉を聞いた瞬間、ミストとイレクトアは顔を青くし白目を剥き、テーブルに上半身を倒れ込ませ、ハムナスをビビらせるのであった。




