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茶番と宣誓


 そんな裁判が終わった後、現在イレクトアが留置されている地下牢の中。本来最低限のベッドと排泄施設があるだけの質素な場所であるが、いつの間にか大改修されており今は使っていない両隣の牢の壁をぶち抜いて一つの部屋として使い、床にはふわふわの絨毯が、飲み物を冷やす冷蔵魔導具が、豪華なベッドなどが置かれていた。

 そして当のイレクトアと言うと、ベッドに白いレースの下着姿でうつぶせに寝転がり執事服を着た前髪の長い青年にマッサージをさせていた。


「あぁ………キクぅ―………♡君たち腕がいいねぇ。流石元ナタリーのお付き☆」

「恐縮です」

「ふふ、口数か少ないところも素敵♡ねぇ……次は私のた・い・せ・つ・なところも触っ……」


 イレクトアが仰向けとなり、執事の青年を誘惑するようにその大きな胸や股間に手を当てに手を当て甘い声を出すが、このとき牢屋の柵の奥からいつの間にかいたグレイヴとテグネルの姿があった。

 仮にミストやシンシアであれば、羞恥のあまり叫び体を隠してしていただろうが、イレクトア刃先ほどの発情したように赤らめていた顔を平静の顔に戻し、特に体を隠すことなく体を起こす。 


「………ったく、いいところだったのにさぁ……。ごめんもう帰っていいよ」

「わ、わかりました、失礼します」


 イレクトアに礼をした後、執事はそそくさと牢屋の中から出ていき、そのとき隣にいたグレイヴたちにも軽く礼をしてその場から去って行った。

 その後軽くため息とついたグレイヴはイレクトアへと話しかける。


「あれは?」

「元ナタリーの執事……というかあの女のハーレムの2軍ですよ。ナタリーが療養で離れた時、あいつは一軍だけ連れて行ったみたいで、残りは全員リストラしたみたいなんですよ。

 それを第6師団(うちら)が手伝いとして雇ったんです。意外と安くすみましたよ?」


 イレクトアは何気なしにそんな風に説明するが、グレイヴはさらに頭が痛くなってきたのか眉間に親指を強く当てる。

 正直なところさっさとこの場からいろいろな理由で離れたイグレイヴであったが、それでも今後のために話さねばならないことがあるため、頭痛を無視して話し始める。


「………まず今回の判決だが大多数の師団から撤回の声が上がっている。しかしお前の強さを知っている者達からは賛成意見をあった。流石にほぼ全員から反対意見が出ていたら考え直さざる得なかったが、 否が多いとはいえこの程度でも賛がいれば、お前が勇者候補試験に出るのは問題ないだろう」

「あははは☆そりゃよかった!茶番に付き合ってもらってありがとうございます、グレイヴ騎士団長にテグネル師団長♡」

「いえいえ何の……。同じラスターク家の落胤同士、助け合わなくてはね……」


 審議会の時とは違い丁寧かつ穏やかにテグネルは対応する。それもそのはず、彼もまたこの審議会(茶番)の共犯者だからである。

 騎士団第5師団師団長テグネル・ラスターク。ラスターク侯爵家の三男と市政の女性の間に生まれた人物であり、イレクトアにとって遠い親戚なのである。そんな彼はグレイヴの指示の元、一芝居を打ち審議の場であのようなことをしたのである。


「テグネル師団長は私と同じで生まれこそ妾の子だけど、第一師団で鍛えられた実力は折り紙付き。そんな人が拘束された状態の私に一撃ノックアウトされたとあればコネしかない馬鹿ども(他師団長たち)の下手な行動を抑制できる………。

 イヤー本当に助かりましたよ!!やっぱり持つべき物は有能な親戚ですねぇ☆」

「いえいえそれほどでも……でもさっきの攻撃はわりと本当に痛かったですからな?本当に意識が飛びかけましたからな?」


 ごめんごめん、とイレクトアは軽く流すとそのまま黙ってたっていたグレイヴの方を向く。グレイヴはそれに気がつくと、ため息をつきつつ口を開く。


「……儂はお前が嫌いだ。

 過去の英雄達への尊敬。

 苦境に立たされた民を照らす人格。

 他の騎士達の道しるべとなれるようなカリスマ性。

 ………儂が信じる、騎士として必要な規範を一つを除いて何も持っていない、、持とうともしていないからだ。

 ………その絶対的な強さを除いてな」


 グレイヴの苦虫を潰すような発言を聞きながらもイレクトアは愉快そうに喉を鳴らす。確かに彼女自身、その通りだと思った。

 イレクトアは過去の英雄への尊敬などみじんも持っていない。なんで顔も知らない過去の遺物を必要以上に尊敬しなければならないと思っている。

 イレクトアは民を照らす人格など持っていない。そりゃ大勢の人間から尊敬されるのは好きだが、多分それが一転嫌悪の視線に変わってもおそらく自分は何も揺るがないであろう。

 イレクトアは自分が道しるべになれるなど特に一番思っていない。一応自分を持ち上げている第6師団の面々はいるが、彼女たちだって自身の目的のために自分を神輿にしていることはイレクトアにだってわかっている。分かった上で彼女も利用しているからだ。

 他にもイレクトアは少し前までトルキシオン公爵家、というよりナタリーの命令で彼女の政敵となる者達を潰し、その報酬でホストやショッピングと散々遊び倒していた。

 正直に客観視すれば自分を心から好いている人間などいない、と自分自身ですら思ってしまうほどだった。

 だがそれでもイレクトアが許され今日まで生き延びている理由、それはその圧倒的な強さのおかげであった。


「魔法学園の中等部を卒業した後騎士団に入団し、わずか1ヶ月で当時の第6師団長に戦いを挑み、完全勝利。師団長の座を簒奪。当然問題となったがお前が率いた第6師団が難攻不落と称されたダンジョン、屍剣王の神殿を攻略したことで容認された。

 団員のほとんどが女性騎士にもかかわらず、その後も武勲を立て続け軍や魔法連には「騎士団はグレイヴとイレクトアの二本柱」などと評されるまでになった」

「あははは☆二本柱ねぇ、笑っちゃいますよねぇ。

 もうすぐ私の一本柱になっちゃうってのにね」 


 イレクトアの発言にさすがのテグネルも小さく悲鳴を上げグレイヴのそばから離れる。だが当の「お前など、もうすぐ追い越す」と同義の発言をされたグレイヴは特に怒りの表情は見せず、彼女の発言を肯定するようにため息をつくのみであった。


 グレイヴとイレクトアが本気で戦ったのはわずか一回。3年前、彼女の振る舞いに他の団員達からの不満が続出し暴動が起きかけたことがあり、そのガス抜きと彼女の実力を見るためイレクトアと模擬戦するときになったときだけである。

 その時は最終的にグレイヴの勝利となったが、物理能力を強化する自分の肉体魔法と強化魔法の合わせ技で極限まで上がった自身の槍術をイレクトアはただの強化魔法のみで互角以上に立ち回ってみせた。それに敗北と言っても彼女の強化魔法に耐えきれず模擬剣が砕け戦闘不能となっただけである。

 もしあのまま続いていたらどうなっていたか、それはグレイヴ自身にも分からない。


(あの時のやつは少なくともヴォルフ達と出会う前の儂を超えていた。しかもこいつははあの模擬戦で強化魔法を限界以上に流し非生物を破壊する魔法を独学で生み出し、最終的に蛮騎士の異名を手に入れるまでになった。

 次戦う時、模擬戦で頂纏魔法を使わないという儂の誓いを果たして守れるかどうか……)

「まぁ、そんな軽口がたたけるなら、それでもいい。………いいか、儂とテグネルがサポートできるのはここまでだ。万が一お前が候補選抜から落ちたときは容赦なく儂らはお前を見捨てる。たとえ我が師の血脈を持つとしても、二度も負けるお前に価値などないからな。

 絶対に、勝て。お前の強さを認めた儂を後悔させるなよ」


 冷淡とも取れる口調でグレイヴは言い放つが、イレクトアは獰猛な笑みを浮かべながら答える。


「………分かってますよ、団長☆実は私自身、今回はかなりモチべが高いんです。

 今回は小細工抜きです。全員正面から叩き潰してやりますよ、シンシアちゃんと……あのクソ魔術師含めてね」

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