2 奥義、ドロップハンカチーフ!
トキア様は貧民街に粗末な診療所を持っている。
姉弟子がいた。
エリザベス様・・・12歳。年下だが偉そうだった。
「フン、貴方、こんなくだらない所にきたの?」
「アリシアと申します。宜しくお願いしますわ!」
トキア様はエリザベス様を助手に
日々、診療をされている。
「ゴホ!ゴホ!軽い風邪ですね。ヒールは必要ありません。栄養が必要ですわ。これで、栄養をつけて寝て下さいませ」
チャリン!
「ゴホ!ゴホ!有難うございます!」
どっちが、病人か分からない。お金まで渡して大丈夫かしら。
修行ってどうすればいいのかしら。
「アリシア、エリザベス、ゴホ!食事を作って下さいませ」
「「はい」」
姉弟子にならいながら。拙いながらも野菜スープを作る。
パンとスープだけの寂しい食卓だわ。
しかし、違和感があったわ。
「・・重い。お椀に重りが入っていますわ。スプーンも・・」
「ゴホ!そうですわ。病弱には体力が必要ですわ」
「フン、本当にくだらない!」
「ゴホ!ゴホ!でも、エリザベスちゃんは、ここにいるのでしょう」
トキア様とエリザベス様は普通に食されている。
そういうものかしら。私は一時間かかったわ。
「ゴホ!ゴホ!病弱には体幹が必要ですわ。エリザベス、シスターアリシアをつれて、お使いに行って下さいませ」
「はい」
示された経路は・・・
「え、木場の上の丸太を渡って行けと?」
「ゴホ!はい、そうですわ。でなければ三時間の大回りになりますわ」
川をせき止めた貯水池に丸太が浮かんでいる。
「ゴホ!ゴホ!手本を見せますわ」
ヨロヨロ~~とよろけながら、トキア様は丸太の上を渡る。
案外簡単なものなのかもしれないと一歩前へ出たら・・・
ボチャーン!
すぐに池に落ちた。
「ゴホ!ゴホ!まあ、仕方ないわね。エリザベスちゃんお願い」
「フン、くだらないわ!ほ~んとにくだらないわ」
と言いながら、姉弟子のエリザベス様は、ヒョイヒョイと渡って行く。
「お使いなんて、私独りで大丈夫なんだから!」
「まあ、二人でお使いに行くのよ」
「はあ?」
結局、3時間の大回りコースになった。
「本当にくだらないわ!路地を抜けていくわ」
「でも、ゴロツキがいたら」
「大丈夫ですわ!」
「イヒヒヒヒ、姉ちゃん。パンツ何色?」
言っている側からゴロツキが現れたわ。
どうしたらいいのかしら。
すると、エリザベス様は。
「ドロップ!ハンカチーフ!」
「はれ?」
「おい、ハンカチ落としたぞ!」
ハンカチをゴロツキの前で落としたわ。
ゴロツキ達は、下を見る。中には拾おうとする輩までいる始末だ。
すると、エリザベス様は。
「釣り目の令嬢の輪舞!」
手を組んで上に上げて、片足を地面に平行にあげてクルッと回ったわ。
これは、遠心力で威力が増した蹴りだわ。
「「「ギャアアアーーーー!」」」
バキ!ボキ!
・・・そうだわ。どのような殿方も、令嬢の落としたハンカチーフには必ず目が行く。
恐ろしい技だわ・・・あえて、戦いの場で、ハンカチを落とすなんて無駄な事をするとは誰も思わないわ。いえ、分かっていても目が行くわ。
「フン、足が届かなければ、届く位置に下げさせれば良いわ!」
まあ、エリザベス様も変わっているわね。
お使いに行き。孤児院に慰問、そんな毎日だわ。
それと、疑問に思っていた診療所の金の出所だわ。
二束三文の診察代しか取らないわ。
裏組織にトキア様と一緒に行く。
「おうよ。寄付金じゃ!」
「ゴホ!ゴホ!親分さん有難うございますわ。でも、最近、シスターを襲おうとするゴロツキが多いですわ」
「最近、どっかの侯爵がこの地域を地上げしているのだ。他からゴロツキが多く入って来た・・・少し、手を焼いている」
「ゴホ!ゴホ!なら、私も出入りに参加しますわ」
「「「姉御!有難い!」」」
姉御と呼ばれている。
ここで学んで、本当にダミアン様は振り向いてくれるのかしら。
ふくらはぎと二の腕は太くなり。体力だけはつく。
それに、木場は渡れないわ。
やめよう。何とか貧民街を抜け出して、明け方なら、酔っ払いが寝ている程度だから平気だわ。
と診療所の外に出ようとしたら・・・・トキア様とエリザベス様がいた。
「叔母様、いきなり木場渡はハードル高いですわ」
「そうね。始めは陸地から始めるわ。ゴホ!病弱の道は1日にしてならず。病弱で生きるには体力が必要なのよ」
え、庭先に丸太を並べたり、立木のように埋めて・・私の練習場を作ってくれている?
職人たちもいるわ。
「えへへへ、どうです。これで、段階を踏んで木場渡りを出来ますぜ」
「トムさん有難うですわ。ゴホ!」
「いいえ、いつもお世話になっています。あの娘さんもここで羽ばたけばいいですな」
そうか、私は一人ではないわ。少し、頑張りますわ!
・・・・・・
立木の上に立ち。鶴のように片足になる。一時間瞑想だわ。
丸太の上に立ち。祈りの言葉を一時間唱える。
「ハ!ハ!」
食器の重さも感じなくなった。
ついに、ここに来て三ヶ月後。木場渡りに挑戦だわ。
ヒョイ!ヒョイ!
「スゲー、あの姉ちゃん。木場渡り出来るようになったぜ!」
「フン、やるじゃない!私は半年かかったわ!」
「ゴホ、ゴホ!シスターアリシア様、合格ですわ!」
お使いに行く時間が省略出来るようになったので、更に祈りの時間が多くなったわ。
立木を増やしその上を走る。
今度はズボンをはいて、逆立ちで木場を渡る。
次の段階に入った。
孤児院の慰問だ。これが、難しいらしい。
少し、意味が分からなかった。
「ゴホ!ゴホ!シスターアリシア、慰問も修行ですわ!」
「まあ、恐ろしい・・・良い子孤児院に行くのね・・・私でも躊躇しますわ」
エリザベス様も躊躇すると言う。
エリザベス様と二人で良い子孤児院に行ったわ。そこで、衝撃の光景を見ることになるわ。
何故なら、この良い子孤児院は慰問潰しと異名がついているからだ。
その意味が分かったわ。