1 必殺、病弱の舞!
「お嬢様、ダミアン様から今日のお茶会は中止になると言付けでございます」
「またなの!理由は?」
「はい、従姉妹のミミアン様の病状が悪化したとのことです」
今回もお茶会を中止にされた。私はアリシア・ゼーム、18歳、伯爵令嬢。
侯爵家のダミアン様とは政略結婚ですわ。
12歳の頃に婚約を結びましたの。
金髪碧眼の絵に描いたようなイケメンでしたけど、婚約の顔合わせの時に、同じ金髪碧眼の美少女を連れてきた。
それが、ミミアンだったのよね。
お茶会でもミミアンを理由に中止になる事が多々ある。
街でのデートでも、ミミアンがついてくる始末ですの。
『ミミアンは滅多に街に出られないから』
『ゴホ、ゴホ、アリシア様、ごめんなさい』
そろそろ結婚ですのに。
しかし、とんでもない提案を受けた。
「アリシア、新居にはミミアンの部屋を用意して」
「え、それは・・・」
新居は我家が用意する契約。
しかし、政略結婚ですわ。共同事業をやりますのよ。
「それは・・さすがに、困ります」
「何だ。冷たいな!君がそんなに冷たい人間だとは思わなかったよ!父上に言ってこの結婚なしにするぞ!」
そう言われれば困る。貴族の結婚は政略なのだから。
共同事業の立ち上げ。私の他にダミアン様と婚約を結びたい家門は沢山ある。
お父様も肩を落とし。
「アリシア・・・すまない」
「ええ、仕方ないのかもしれませんわ」
お母様は。
「アリシアの良さを分からないなんて、ダミアン様は本当に目が曇っておりますわ」
「お母様・・・言い過ぎですわ」
と言ってくれる。
因みに、私は茶髪にブラウンの瞳、顔はやや細く、精一杯にお洒落をすれば美人に見えなくもない。
病気も軽い風邪くらいしか罹患していない。
子供の頃は良く親戚の子と庭木に登って遊んでものだわ。
そうだわ。私も病弱になれば、ダミアン様は振り向いてくれるのかもしれない。
病気が理由でミミアン様に構っているのだから・・・
と言ったところで方法が分からない。伝手を頼り。お金を支払い。
賢者様に相談をしたら、怒られたわ。
「何という贅沢な悩みですな!・・・・フン、そんなに言うのならトキア様にでも弟子入りをすればいいですな!」
「トキア様とはどのような方なのでしょうか?」
「病弱の聖女ですな!」
教えてもらったわ。
結婚まで1年、お茶会を中止にされるくらいなら、もう、予定を立てるのも苦しいわ。
紹介状を書いてもらって、トキア様の元で病弱の修行をしてもらう事にしたわ。
何でも、市井の聖女として、有名らしい。
「お嬢様、大丈夫でございますか?」
「はい、これで街娘さんと見分けが付きませんわ」
王都郊外の寂れた街までメイドと従者に送ってもらって、トキア様の元に行く。
木造の粗末な街並みだ。
しばらく歩くと、街の人達に声を掛けられたわ。
「ウシシシ、お姉ちゃん。どこ行くの?馬車から降りた所、見ちゃったよ!」
「見ない顔だな。ちょっとお酌をしてもらおう」
「いいや、俺がお酌をしてやるぜ。濃いのをたっぷりとな」
無視だ。顔を伏せ。何も答えずに歩くと
肩を掴まれたわ。
「キャア!」
「キャアだってさ」
「お高くとまっているんじゃねえーよ」
「おい、担げ!」
しまったわ。誘拐されるわ!
その時。
「ゴホ!ゴホ!・・・お止め下さい!お願いですわ・・ゴホ!ゴホ!ゴホ!その令嬢をお離し下さいませ。貴方方の汚い顔に驚いただけですわ。ゴホ、ゴホ、この通りですわ」
「あん?」
頃20代半ばくらいの女性、聖女服を着ているわ。ベールから銀髪がのぞいている。目はアイスブルーだわ。肌は白い。少し病弱に見えるわ。
彼女はカーテシーをして、ゴロツキ達に私の解放をお願いした。
「あああん??汚い顔?舐めてるの」
「聖女様が代わりに俺らの相手してくれるの?」
「もっと、お顔を拝見させろや」
ゴロツキたちが彼女の肩に手を掛けベールと取ろうとした瞬間。
「キャアアアア!」
と聖女様は叫びながら顔をあげ。ゴロツキの顎に頭が当たったわ。
「ウギャアアアーーー!」
ゴロツキはのけぞってそのまま背中から地面に落ちたわ。後頭部を打ったかしら。
「お止め下さい!私は病弱ですのよ!ばい菌に感染したら死にますわ!!ゴホゴホ!」
咳をしながら、倒れたゴロツキをつま先で蹴り始めたわ・・・
ガキ!ボキ!バキ!
「キャアアアアアーーーーー!怖いですわ!ゴホ!ゴホ!」
「おい、とめろ・・・まさか、トキアか?」
「化け物聖女・・・トキア!」
トキア様?この方が?
彼女はヨロヨロ~とよろめきながら、ゴロツキの腕を取る。まるで、エスコートのようだ。
「おい、やめろ、関節を極めるな!!」
「お止め下さい!ゴホ!どうか、その令嬢に無体な事はお止め下さい!」
「やめるから、離せ、離して下さい」
ヨロヨロ~
と関節を極めたまま倒れて、
ボキ!
「ウガアアアーーー」
腕が折れたようだわ。
もう一人のゴロツキが剣を取ったわ。
「ヒィーーー!来るな!来るな!」
しかし、トキア様は。
「ゴホ!ゴホ!」
と咳き込みながらしゃがみ。ヒラリと躱して。
剣を持っている方の肘を軽く押して、更に剣撃の威力を増して、
ゴロツキは、勢いに逆らえなくて、そのまま自分の剣で、左肩を斬ってしまったわ。
「ウワーーーー!」
「ゴホ!ゴホ!さあ、もう大丈夫ですよ。ゴホ!ゴホ!」
「あの、私、アリシア・ゼームと申します。これは、紹介状ですわ」
「ゴホ!ゴホ!まあ、そうですの。しかし、今は弟子の募集はしておりませんの」
「お父様より手形でございます」
「ゴホ!ゴホ!まあ、ようこそ、貴方は今日からシスターアリシアよ」
これが、トキア様との出会いだった。