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俺は愛されたい (アカイ2)

「俺は……死んだのか?」

「はい死にました」


 俺が闇のなかでそう思うとすぐさま返事が来た。心を読まれている。

 聞き覚えのない声ではあるが男のようでいて女のようにも聞こえる声。

 なんだかリラックスした気分になる声である。


 これならば本音で語れるというものだ。


 人間、本音で語り合うということは滅多にあることじゃないからな。

 これでもう既に楽しい。職場では誰も俺に対して本音で何も言わない。

 言うとしたら文句か呆れ声の説教のみ。一方的でこちらは本音で何も返せない。


 そうだ声が心が無い。

 女は俺に対しての本音は言わず無言のみでありブロック処置をするだけ。

 誰も俺に対して問わず興味を抱かない。よって本心と向き合えない。


「では手続きを行います。アカイキリヒトさん。あなたは死亡しました」

「すると俺は異世界に転生してやり直せるってこと?」

「はいその通りです。話が早くていいですね。落ち着いてくださり助かります」


 フッあたり前だ。俺は他の男とは違うんだからな。

 この手の話はアニメとかネットで結構見ていたから俺はそこそこ詳しいんだ。


 それにあれだ俺は清い身体なわけだ。よって第二の生が待っているのは必然!

 そうでなかったら聖職者は童貞だらけだということが分からなくなってしまうよな!

 女とセックスしたお前らは地獄に落ちるんだよ!

 そんなの当然だろ! 自分だけ美味しい思いをしやがってぉおお!

 俺はお前らみたいに性欲に負けなかったからご褒美があるんだよ!


「かつて地獄には様々なコースがありましたが、最近ではよりニーズに合わせた多種多様なものとなりまして」


 待った、いま、地獄とか言わなかったか?

 えっ? まさか俺っていま地獄行の下りエスカレーターに乗っているわけ?


「あれ? 異世界というかその前に、俺、天国じゃ、ないの?」

「ご想像の天国は~その~もうちょっと上の人たちの行く場所でして。ストレートでは、ね」


 あっはい、OKOKわかったわかった。俺としたことがなんたる失態。

 当たり前だろお前、馬鹿?

 俺はちゃんと弁えているんだからすぐに受け入れる。

 ジタバタせずに見苦しいことはしない。馬鹿な奴らと違ってな。


 だってそうだろ? 俺は学校のクラスではずっと下の下のライトなオタク階層だ。

 でも下とはいえ真ん中ぐらいの下の中ってところだ。

 そのなかでマシな部類に入るとはいえ天国など身分不相応。

 というかクラスのトップ層がいる天国とかあまり行きたくもない。

 居心地が悪いからね。肩身が、狭い。またクラスの端っこに追いやられてしまう。

 その時点でもう天国じゃないし。


 だから地獄……いやでも犯罪者や業が深い連中がうごめくそんなところは俺の行くところでもない気もする。

 そこはある意味で極まった連中が行くところで、俺みたいな半端ものもまた不適格な気がするが。

 というか行きたくない! だって怖いじゃんか!


「あなたがイメージする地獄はその道を極めたものたちが行くいわゆる極道といったところですね」


 心を読んでいるようで結構。するとつまりは。


「相応しいのは中途半端な天国、あるいはちょっと薄めな地獄といったところです。ちょっと前に煉獄という制度が作られましてね。 つまり最後の試練というものがありまして、ここの試練によってあなたの本当の死後が決まるのです」


「試練、いいね。それをクリアすると俺は真の意味で救われるということだな」


「トントンと話が進んで良いですね、そうです。あなた程度の微妙に汚い善人がこの試練を受ける権利があります。そして試練を乗り越えましたら心の底から望んだ願いを一つだけ叶えられます。つまりはあなたにとってちょうど良さげな天国入りです。しかしもしも失敗したら……」


「うっすい地獄。俺が望む最もキツイ体験を無限に繰り返すってことか?」


 そうだとしたら十代の頃か。最低な日々だったな。たまに夢にも見ちゃうし。

 花や木や季節の香りで記憶が再生され、いきなり突然フラッシュバックが起こったりで嫌な思いをするものな。

 もしくはあの人と向き合うこととかか?


「そんなイメージで良いと思います。それでどうしますか? 試練を受けますか? もしも受けないとしたら」


「受ける受ける絶対に受ける。ここでグズグズしたって始まらないんだし、そもそも受けると知っていてこういうことを聞いているんだよな?」


「もちろんです。そうでなければこういった手続きは致しません。無駄ですし。あなたの人生暗かったしこの先も暗いままなんだからチャンスがあったら飛びつきますよね?」


「まぁな。ほらこれだ。つまり俺の人生の本番はここからだ。人間は死んでからが本番、良い言葉だ。死ぬ気になってやれとかしょっちゅう軽く言われたが、俺は死んでから本気を出すんだ」


「ではではお伝えいたします。あなたの場合は適度な修羅道行きです。ほんのりハードな世界が待っていますよ。そして試練の内容はあなたにとって最も難しいことであるズバリ!」


 試験を全教科100点か? 3教科を合わせれば……なわけはなくて5教科合計500点満点か? 無理だから300点? 不可能! 200点ぐらいでお慈悲を……いや間を取って230点でどうだ! 国語だけはたまに60点を取れたからな、俺。


「女性から心の底から愛されることです、どうです?」

「……簡単だ」

「嘘つけ」


「うっ嘘だなんて!」

「この空間だと嘘はまずつけないのにすごいですね。嘘があなたの魂と癒着しているんでしょうが、とってもイージーと言われるのなら楽勝ですよね。ではさっそく」


「待ってくれ。ひとつ確認させてもらいたいが、一人ということだなつまりはだ、運命の相手は一人ということか?」


「はい。あなたに二人も候補がいるとか贅沢の極みですからね。一人でも分不相応なのに二人を要求するとかありえないかと」


「ならやっぱり簡単だ! 一人でいいんだ一人で! おぉそうだとも! 現代人は数多くいる異性の中で誰が自分にとっての一人かが分からないから不幸なんだよ! だから俺は一人で幸運だ。選択の自由が無いからこそ良いんだ。それは心から本気になれるってことだもん」


「どんな理屈なんだか。さぁ願いを再確認しながら試練へと参りましょうか」


「俺の試練は運命の女に愛されること! そして願いはただ一つだ。一つだけだ。愛する女に優しく愛され幸せに生活する、これ以外何も、いらない」


 すると俺の目の前はもっと真っ暗となった。 

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