表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/111

俺の静けさ (アカイ51)

 その声と共にシノブは瞬時に飛び立ち消えていなくなった。


「あららアカイ、ずいぶんとお楽しみだったようね」


 カオリがふざけながらも縄を外してくれ、解放された俺は地面にへたり込むとスレイヤーの声が聞こえた。


「すまないが俺とカオリは先に行かせてもらう。もう時間が無いからな。アカイ殿もあとで来てくれ、では!」


 二人の駆け出す音を聞きながら俺は地面を見つめる。立ち上がれない。まだ立ち上がる時ではない。考えなくては……考えないといけない。立ち上がるのはそれからなはずだ。


 さっき俺はいったい何をしたのか? とまたふたたびの自問自答と始めるも、すぐにやめた。結局答えは出るどころか延々と堂々巡りをしただけだったじゃないか。


 俺は何を言おうとしたんだ。呪詛の叫びを。だが言えなかった。俺が止めた。俺が俺自身の口を塞ぎ声を止めた。俺が俺を止める。


 その意味は、もしかしたらそれは……違ったのでは? 違っているからこそ言えなかったのでは? それをシノブに言うことではなかったのではないのか?


 俺がシノブに伝えるべき言葉は……シノブが俺に語ったような言葉? 呪詛の代わりに何を……何を……伝えていなかったことは……俺が言えなかったこと。


 ずっと言わずに言えずにいたこと……それは何だろう? 俺達の間に何が無かったのか?そもそも俺には何が無かったのか。


 なにが欠落したままここまで来たのか。俺が欲しかったのは……俺はこの世界に生まれてきたのは……この世界に復活したのは……世界を。





 すると突然アカイの心の中の声が止んだ。ただしくはうるさい自意識が沈黙する。自分の声や言葉が死に、聞こえてくるのは遠くから喧騒の音ばかり。


 アカイは自らに驚きながら耳を澄ませた。これはなにかの間違いではないかと。いつものように自然に湧いてくる声に耳を傾けようとするもどこかの破壊の音がさらに大きく聞こえるだけ。


 自分の声がどこからも聞こえてこない。静けさの中にアカイはいる。


 さっきまでのうるささが消え辺りは無と死が満ちているように感じられた。自分はどうしてしまったんだ。アカイは自分は何かを失った気分に襲われた。なにを? 言葉を。ほらもうこれ以上考えられない。だから身体が動きはじめる。


「言わなくちゃ」


 立ち上がりながらアカイは呟いた。何を? とはもう考えない。考えずともその人に会えば言えるのだから。自然と思考は停止し顔を見上げるとそこには寺社の入り口を思わせる大きな門がそびえ立っている。


「俺は行かなくちゃ」


 どこへ? などとアカイはもう考えない。分かり切っていること。アカイの心は失われたかのように限りなく透明に近づき、それから走り出した。


「シノブ、俺は……」


 アカイは自分の身体が熱くなるのを感じながら駆けだした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ