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 しばらく経ってギルド職員が登録器具を持って執務室にやってくる。


「よし、色々あるが、とにかく登録だ。シャルルさん。記憶喪失だそうだが、この書類に分かるところだけ書いてくれ。分からないところは空欄でいい。あ、文字は書けるな?」

「たぶん書ける」


 書類に必要な事を書いていくシャルル。

 名前、シャルル。

 種族、人間。

 年齢、ゼロ歳。

 出身地、分からないので空欄。

 特技、剣と魔法。

 パーティー募集有無、分からないので空欄。


「これでいいだろうか?」

「種族はちゃんと人間なんだな。綺麗すぎるから精霊って言われても納得しちまうところだが。年齢ゼロ歳ってどういうことだ?」

「生まれてから二十日とちょっと」

「あぁ、はいはい。記憶をなくしてから二十日とちょっとということだな。まぁ年齢の項目は必須項目なんだが、どう見ても登録可能年齢の十歳は超えているし、特例として認めよう。多分二十二歳から二十六歳ぐらいなんじゃないか?」

「?」

「あぁ、まあいい。それじゃあ、この水晶に手を置いて魔力を込めてくれ」

「これは知ってる。犯罪者かどうか分かる水晶だ」

「残念。登録用の水晶だ。魔力を読み取ってギルドカードを別の機械から生み出す魔道具だよ」

「! そうなのか」

「シャルル、いいか? 魔力は少し込めればいいからな? いっぱい込めるなよ?」

「? 分かった」


 途中でラーシュが確認のように「魔力は少し」と言ってくるが、大丈夫だろう。

 シャルルは水晶に手を置いて、魔力を込めた。


「うっ!!」


 呻いたのは誰だろうか。

 シャルルが水晶に魔力を流した途端、水晶は虹色の強い光を放ち、割れた。

 シャルルはこの現象が正解なのか分からない。部屋の中に居たギルドマスターのジェイク、騎士団長のラーシュ、Aランクパーティーの暁の獅子たち、それに登録器具を持ってきたギルド職員が沈黙していた。

 やがてははは、と誰かの乾いた声が響き、ジェイクが弱々しい声で語りだす。


「ま、まぁ。ほら。宮廷魔術師とかも、壊した前例があるからな。魔力が多いんだろう。高い魔道具ではあるが、変えがないわけではないからな。はは、ははは」

「お前ー! シャルル! 魔力は少しっていっただろう!」

「すまない……お金が溜まったら弁償する」

「はは、大丈夫大丈夫。ほら、出力の方もうまくいってるからな。二個目を壊されることはない。はぁ」


 そうジェイクが言ってシャルルに差し出したのは、二種類の金属板だった。

 一つは、長辺が三センチメルトル(=センチメートル)で短辺が二センチメルトルほどの小さな金属板。シャルルの知識は「ドッグタグのようだ」と言っているが、これはおそらく「この世界ではない世界の知識」なので口を閉ざした。

 もう一つは、長辺が九センチメルトルで短辺が四センチメルトルほどの金属板。シャルルの知識は「こっちはクレジットカードのようだ」と言っていたが、これもおそらく「この世界ではない世界の知識」だと思ったので口を閉ざした。

 小さい方の金属板には穴が空いており、ギルド職員がそこに革紐を通してくれた。


「説明するぞ。こっちの小さいのが『ギルドタグ』。首から下げておいてくれ。これは本人が死ぬと赤くなって知らせてくれる、生死を判別する機能が備わってる。首から外しても赤くはならないが、基本的に外さないほうがいい。なくすからな。冒険者が死んでいるのを発見したら、ギルドタグをなるべく回収する決まりだ。こちらはなくしたら中金貨一枚、五万ガルだ。こっちの大きなのが『ギルドカード』。こっちは依頼達成数やランクなどが刻まれていて、依頼処理のときに使う。詳細な内容はギルドの魔道具がないと見られないがな。それから通信機能なんかがついてる。詳しい使い方は暁の獅子に聞いてくれ。なくしたら小金貨一枚。一万ガルだ。両方ともなくすなよ」

「分かった」


 シャルルはギルドタグを首からかけて服の中に入れると、ギルドカードをまじまじと見る。

 シャルルという名前とEというランクが刻まれていた。

 そういえば、とシャルルは思った。これが身分証になるなら、仮滞在証を門に返さなければいけない。それとも、この場でラーシュに返していいのだろうか?


「ラーシュ、仮滞在証は門に持っていったほうがいいか?」

「いや、俺が預かるよ。良かったな、身分証が貰えて」

「あぁ」


 ニコニコとしているシャルルに、皆は優しい気持ちになる。

 全員が全員、「記憶をなくしているから、子供のようになっているんだろうな」というような事を考えていた。

 そんなこんなでギルドの説明を聞いていると、トントンと誰かが執務室の扉を叩く。

 ジェイクが「入ってこい」と言うと、木製のトレイにお金を載せたギルド職員が入ってきた。


「お、金も準備できたな。オークキングは状態も良かったからまるごと買取で百五十三万ガルだ。白金貨一枚と大金貨四枚と中金貨一枚と小金貨五枚と大銀貨四枚と小銀貨五枚と大銅貨十枚に分けておいたぞ。細かいのがあったほうが買い物し易いだろうからな」


 シャルルはトレイに載せられた貨幣を見ながら、一つずつ確認していく。

 物価は分からないが知識によると1ガルあたり1円と考えて良いはずだ。

 だがこれもおそらく「この世界とは違う世界」の知識なので口にしない。

 シャルルは一応貨幣を一つずつ指しながら、ジェイクに確認する。


「白金貨は百万ガル、大金貨は一枚十万ガル、中金貨は一枚五万ガル、小金貨は一枚一万ガル、大銀貨は一枚五千ガル、小銀貨は一枚千ガル、大銅貨は一枚五百ガルで間違いないか?」

「金もわからんのか」

「見たのは初めてだ」

「大丈夫なのか……? 袋はそのまま持っていっていい。財布買うまであったほうが良いだろうからな」

「分かった」


 ジェイクはそう言ってお金の入った革袋を渡してくれた。

 ようやくお金が手に入った。これで買い物もできるし宿にも泊まれるしご飯も食べられる、とシャルルはほくほく顔だ。

 その後シャルルとジェイクは少し話をして、オークを十体ずつ下ろすことになった。

 シャルルにはしばらく定期的にお金が入るし、ギルドも肉を腐らせずに済むという互いに利のある方向にまとまったのだ。

 それ以外にも、シャルルが持っている魔物は有用な魔物が多いだろうということで、少しずつ放出することになった。

 オークションの金が入れば大金持ちだぞ、とジェイクは笑っていた。

 そして取りまとめが済むと、今度は暁の獅子たちが買い物に案内してくれるという。

 シャルルはワクワクしながら暁の獅子たちについていくのだった。


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